第277話 打ち上げの忘年会
年末の忘年会配信を無事に終えたミミたちは、事務所のある階層に移動していた。
今日は出社している社員も五期生のサポート担当くらいで、実に静かな社内である。
会議室へと移動したミミたちは、そこに並べられていたものを見て驚いていた。
「うわぁ……、すごい料理」
「これ、配信中に用意されてたんですかね」
マイカが驚いている中、ミミは森たちに確認している。社員たちはこくりと頷いている。
「一年間頑張ったメンバーを労うのも俺たちの仕事だからな。下の玄関で受け取ってここまで運んでくるのは大変だったが、そこは気にするな」
橘が笑いながら事情を説明している。
今日のためにわざわざ出前を取ってくれたらしい。作ってくれた飲食店の人たちにも感謝である。
会議室の中には寿司から揚げ物、さらにはケーキまでいろんなものが置いてある。和洋中ごちゃまぜである。一体何店舗へ注文を出したのだろうか、ミミとタクミは笑ってしまう程である。
「細かいことは気にせずに、今日は楽しんでいってちょうだい。ただし、お酒はないから、大人はがっかりしないように。飲酒運転は犯罪よ」
「はーい」
「へーい」
お酒がないと分かると、一気にテンションが下がるメンバーがいた。
まったく、忘年会だから飲みたがるのはいいが、ここは会社だし未成年だっている。森たちは心の中で弁えてほしいと思ったのだった。
そんなこんなで、とりあえず全員にジュースが行き渡ると、華樹ミミが代表して前に立つ。
「Vブロードキャストの社員のみなさん、アバター配信者のみなさん、今年もお疲れ様でした。今年は四期生に五期生と多くの新しい仲間を迎え、ひとつの転機を迎えたと思っています」
ミミはなんともしみじみと語り始める。これにはミミと双璧をなす二期生のトップであるタクミと、ミミと同じ一期生であるパピヨンが頷いている。
「今年一年を無事に乗り切ったことを喜びつつ、来年の更なる飛躍を誓って、乾杯!」
「かんぱーいっ!」
こうして、Vブロードキャスト所属のアバター配信者たちのリアルでの忘年会が始まった。
マイカはちょっと緊張しているのか、コーラをちびちびと飲んでいるようだ。
「マイカ、そんなところでおとなしくしてないの。ほら、何を食べる?」
同い年であるぴょこらがやって来て、マイカの手を引っ張り始める。
「あっ、ちょっと待って。飲んでから、飲んでから行くから」
慌てたマイカは、コーラをぐいっと飲み干すと、ぴょこらと一緒に料理を選び始める。
マイトかぴょこらが一緒にいる様子を見て、ケンとフィルムは微笑んでいる。
「なるほど、リスナーたちが『ぴょこまいてえてえ』って言っていたのがよく分かりますね」
「そうですね。あの二人はなんだかとてもうまくいってますからね。社長がよく分からない路線を打ち出そうとするのも、なんとなく分かる気がします」
「ああ、確かアイドル路線でしたっけかね」
見た感じが真面目な感じ、この二人は対照的に似たタイプである。
この二人が話しているのは、五期生の計画が実行されると同時に構想されたものだ。
アバター配信者もただ配信を行うだけの時代ではない。ただかっこいい、ただ可愛いの時代は終わりを告げたのだ。
実際、一期生の華樹ミミも二期生の蒼龍タクミも、V ブロードキャスト社のトップではあるが、その成績は伸び悩んでいる。
四期生に関しては勝刀とふぃりあの伸びは微妙だ。
それに対して、幼さの残るぴょこらとマイカの二人の人気は特筆すべきところだろう。特に単独配信よりもペア配信の方が伸びている。
その理由としては、二人がボケとツッコミの両方ができて、なおかつそれが絶妙なところなのだ。強気でいたずら好きなぴょこらと、ちょっと弱気でドジっ子なマイカという対比もいい方向で働いている。
社長としては、そこに目をつけてもっと売り出そうとしているようなのだ。
「正直、アイドルはやってみてもいいですが、二人を使い潰さないかというのが懸念として挙げられますね」
「私もそう思いますね。フィルム、予定が合えば、私たちで二人の様子を見ませんかね」
「僕たちでいいんでしょうかね?」
どうやらケンは見守り隊を結成しようとしているようである。だが、フィルムの方は自分たちが男であり、二人が未成年の少女であることを気にしているようだった。
そこへやってふぃりあが近付いてくる。
「あらあら、面白いお話をしているようですね。私も混ぜてもらえませんか?」
「あ、ああ。そうですね。女性がいた方が二人も安心するでしょうしね」
ケンとフィルムは、結局ふぃりあの参加を受け入れる。
こうして、ぴょこらとマイカの知らない間に、二人の見守り隊が結成されたのだった。
そんなことになっているとはつゆ知らず、ぴょこらとマイカの二人は、同じ女性である先輩アバター配信者である一期生のミミとパピヨンの二人とがっつり話し込んでいた。
やはり憧れの先輩から話を聞けるとあって、マイカは目を輝かせて話に聞き入っていた。
「マイカ、こぼれてる」
「あ、ありがとう、ぴょこらちゃん」
話をしながら食べているので、マイカはついぽろぽろと食べかすをこぼしていた。それをぴょこらに怒られるという光景は、会議室の中になんともほんわかした空気を作り出していた。
すっかり二人はブイキャスのアバター配信者の癒しとなっているようだった。
この日のVブロードキャスト社の打ち上げは、終始ほんわかムードの中、夜7時まで続いたのである。