第275話 自己紹介からして盛り上がる
「はいみなさま、年末いかがお過ごしでしょうか。華樹ミミです」
配信が始まると、華樹ミミが総合司会として挨拶を始める。
『ミミたそ~』
『ああ、このボイスだけで癒されるぅ・・・』
普通に喋っただけなのに、リスナーたちからはこの反応をされてしまう。さすがブイキャスの癒し枠である。
「おう、今日はブイキャスのみんなが集まっての忘年会だ。蒼龍タクミだぜ」
『キャー、タクミ様ー!』
二番目の人気を誇るタクミが出てくれば、今度は黄色い声援が飛んでくる。
さすがはVブロードキャスト社の一番人気と二番人気。ここだけでコメントがとんでもない勢いで流れていく。スパチャもたったふたことなのにたくさんあるようだ。
「年末年始のおすすめ映画とか知りたいですか? 瀬琉フィルムです」
『映 画 マ ニ ア k t k r』
『なんでおるんよwwwww』
順番に忘年会参加者の自己紹介をしているのだが、瀬琉フィルムのところでいきなりコメントが爆発している。
どうやらリスナーたちには場違い扱いをされたようだ。
「失礼ですね、君たち。こういう時だからこそ、僕の映画のうんちくが役に立つのではないですか」
「フィルム、リスナーに突っかかるな」
「そうですよ、フィルム。今日は忘年会、楽しみませんと」
「そうですね。では、僕の後は四期生のみなさんです」
タクミとケンからのツッコミを受けて、フィルムはおとなしく参加者紹介のバトンを渡していた。
フィルムの紹介の後は四期生で、締めに回ってきたのがマイカだった。
「はい、マイカちゃんだにゃ。きちんと紹介を締めるにゃ」
「ふえっ?!」
ぴょこらにそんなことを言われて、思いっきり慌てるマイカである。
『分かってたはずなのに慌てる姿、かわええなあ』
『どじっこ萌え』
驚きのひと声だけなのに、それでもリスナーのコメントは流れていく。
「あ、あ、黄花マイカです。初めての忘年会ということで、頑張らせて頂きます」
『気楽でおkやで』
『肩の力、抜いてこー』
リスナーたちはとても紳士だった。
こうしてひと通りの挨拶が終わる。
参加しているのは、華樹ミミ、夜風パピヨン、蒼龍タクミ、腐乱ケン、瀬琉フィルム、茨木勝刀、泡沫ふぃりあ、鈴峰ぴょこら、黄花マイカの全部で九人である。
こうやって見てみると、四期生が全員揃っているのに対し、三期生が一人などいろいろと勘繰りたくなる状況になっていることがよく分かる。
だが、せっかくVブロードキャスト社の所属アバター配信者がこれだけ揃っているのだ。リスナーたちはおとなしく楽しもうと考えた。
『うん、五期生はおらんの?』
リスナーからの質問がスパチャで飛んできた。
「いい質問だな」
タクミが反応する。
「五期生も本当はこの場に参加して頂きたかったのですが、会社の調整がまだうまくいかないようでしてね。リスナーという形で参加して頂くことになりました」
『だにぃっ?!』
『ってことは、こうやってしゃべっている中に五期生が?!』
ざわつくコメント欄だが、明かせるわけがないので名乗り出てくる者はいなかった。
というわけで、九名のブイキャスのアバター配信者による忘年会が始まった。
「こういう時はやっぱりゲームだよな」
「タクミ先輩。ゲームなら俺だって負けませんぜ」
「おっ、やるか?」
タクミが呟くと勝刀が乗っかる。
「いけませんよ、二人とも。ミミさんに迷惑をかけてはいけません」
パピヨンに注意されて、二人はしゅんと凹んでいる。
『説教されて凹むタクミ様は草』
『鬼も蝶にはかなわなんだか』
これだけで大ウケである。
「それでは、早速忘年会を始めてまいりましょう。こういう時はやはりこれに限りますね」
そう言ってミミが表示させたのは、イラストソフトだった。
『フリーソフトか、これは』
「はい、イラスト伝言ゲームです。二チームに分かれまして、お題のものをイラストだけで伝えていき、最後の人が正解できればポイントになります。もちろんですが、文字を書いちゃいけませんよ、模様でもです」
「なあ、ミミ。ちょっといいか?」
「はい、なんでしょうか」
「司会は誰だ?」
「もちろん、私です」
ミミが笑顔のグラフィックのまま言い切るので、リスナーたちの反応がお祭り状態だった。
『やっぱりか』
『ミミたその画力が見てみたい』
『うまく逃げるなぁ』
やっぱり、華樹ミミのイラストを見てみたいので文句も出ているようだった。
「ブイキャスのトップの特権です」
『言wいw切wりwおwっwたw』
『予想通りすぎて腹がいてえwww』
『ミミたそに敵うブイキャスがおらんのがなぁ』
あまりにも堂々とした逃げ宣言に、リスナーたちは更なるお祭りとなっていた。
そんなこんなでわちゃわちゃとした感じで始まった、Vブロードキャスト社所属のアバター配信者たちの忘年会配信。
最初のゲームはまさかのイラスト伝言ゲームである。
三期生たちの実力はある程度知っているリスナーたちも多く、初参加となる四期生の画力に期待しているようである。
ちょうど男女四人ずつということでチームとなり、いろんな注目が集まる中、ゲームが始められたのだった。