第269話 レース結果
結果として、日本チームは最後は1対2で負けてしまった。やはり満とマッハが同じところに振り分けられてしまったことが痛かった。その上、相手の主力が二人のいない方に割り振られたので、完全に運のない戦いとなってしまったからだった。
「くっそう、全勝とはいかなかった」
「勝負は時の運とは言いますけれど、こればかりは仕方ありませんね」
最後の戦いで勝てなかったことは、マッハにとってはとても悔しかったようだ。
結果として15戦11勝。優勝は狙える成績だが、他のチームの成績が伏せられている以上、発表があるまで結果は分からなかった。
「果報は寝て待てというし、おとなしく結果発表があるまで休ませてもらうか」
「そうですね」
そんなわけで、満たちは結果発表までの間、チームの面々で反省会となったのだった。
しばらく反省会をしていたものの、いつまで経っても結果発表からの表彰式が行われる気配がなかった。
「おかしいな。一時間もあれば表彰式になるはずなんだがな」
「何かトラブルでもあったのかしら」
明らかに遅れている状況に、会場内が騒めき始める。
『会場内でお待ちの参加者の皆様。協議が長引いておりますので、今しばらくお待ち下さい』
それと同時に、会場内にアナウンスが響き渡る。
理由は分からないが、どうやら揉めているようだった。
「おそらくは優勝とは別のところで揉めてるんだろうな」
「ああ、最優秀配管工レーサーのあたりだろうな」
「やっぱり揉めるか……」
どういうことなのだろうか。満にはいまいち分からない話だった。
「えっとね。個人戦の優勝者とは別に、個人の技術の素晴らしさなどを判定して表彰する項目があるのよ。そこでちょっと揉めているっていう推測ね」
「そうなのですね。どうして揉めているんでしょうか」
キーンの説明を聞いた満が疑問を投げかける。これにはマッハたちは呆れた顔をしてしまう。
「あのなあ、ルナ」
「うん、どう考えたって君のせいだよ」
「ええっ?!」
自分のせいで協議が遅れているといわれて、満は大声で驚いている。これにはマッハたちは笑えずに、顔を見合わせてため息をついた。
「いや、ハッカンアイランドでの減速対策を教えたのは俺だが、それ以上のことをやってくれたからな。あそこで減速しないで速度を保った以上で走り抜けたのは、おそらく君が初めてだ」
「それ以外にもショートカットが禁止されていないコースでの見たことのないショートカットの数々。そりゃ、関係者だって揉めることになるさ」
「普通なら全会一致になるところだが、やり過ぎたことでかえって揉めているとみるべきだな」
「ええー……」
あまりの言われように、満はショックを隠し切れなかった。
結果として、表彰式が始まったのはそれから30分も後のことだった。
団体戦優勝はアメリカに持っていかれてしまった。その成績は15戦12勝。最後のフランス戦が取れていれば、直接対決の成績で優勝だっただけに、実にマッハたちにとって悔しい結果となってしまった。
「ちくしょう、やっぱり全勝で行かないといけなかっただよ。俺の勘は正しかった」
「いくら言ってももう遅いわよ。結果、最終戦で運に見放された私たちの負けよ。諦めて受け入れましょう」
「……そうだな」
キーンに諭されて、マッハは結果を仕方なく受け入れていた。
個人戦の優勝は、もちろん満である。参加者名で言われるので、ルナと呼ばれていたが満のことである。
団体戦と個人戦の上位入賞者は社長たちから表彰される。そのため、満たちはブースを出てステージへと向かう。
本来なら他の賞も同時に発表されるのだが、今回はその発表がなかった。マッハたちは首を捻っているが、ひとまずは表彰を受けにステージの裾へとやって来た。
そこには団体戦の優勝アメリカチームと三位のフランスチームも並んでいた。
その瞬間、あまりかチームのリーダーであるマイケルが両手を広げて近付いてきた。
[いやあ、団体戦は惜しかったな。今年は俺たちが頂いたよ。ハハハハハッ!]
[うるせえな。とりあえず優勝おめでとう。来年は逆転してやるからな]
[いつでも受けてやるよ。何なら配信に呼んでくれ。君からの誘いだったら真夜中でも仕事中でも受けてあげるよ]
[さすがにそれは遠慮しとくぜ]
英語で話をしているらしく、まだまだ英語力の足りない満は内容が分からない。
キーンに尋ねると内容を教えてくれていた。内容を聞いた満は、この二人は仲がいいんだなとついほっこりとしてしまうのだった。
その一方で、フランスチームのトマからは睨みつけるような視線がずっと満に注がれている。
先日の言い分からするに、おそらく今の満の姿であるルナ・フォルモントとは浅からぬ因縁があるのだと思われる。
(彼が言っていた退治屋って、確かルナさんが何か言っていた気がしますね)
ふと夢の中でルナ・フォルモントと話をしていたことを思い出す満だが、そろそろ表彰式が始まるとあってひとまず脇に置いておくことにしたのだった。
こうして、この表彰式をもって長かった二日間のゲームの祭典は終わりを告げたのだった。
この二日間は、満にとってもちょっと充実した日々となったようである。