第267話 ゲーマーの妙技
満が操るプリンは、勢いよくコースから飛び出していく。
マッシュによる加速が残っているため、ハッカンで飛び出した時よりもさらに遠くに飛び出している。
普通ならコースから完全に飛び出してしまうものだろうが、ここからがゲーマーである満の腕の見せどころである。
空中でホップさせるとそのまま左に大きく旋回させる。もうこの時点でヘアピンで戻ってきたコースを飛び越えてしまっている。
明らかな暴走である。
コースアウト間違いなし。誰もがそう思っただろう。
(今だ!)
満は天性の勘でもって、二段目の空中ホップを決める。
そのまま落下してコーストコースの谷間へコースアウトかと思われた満の操るプリンは、なんとさらに飛距離を伸ばす。
[なっ?!]
対戦相手であるアメリカのプレイヤーの目が丸くなる。
飛行距離の延長に成功した満が操るプリンは、遠く離れた二回目のヘアピンカーブを抜けてきたコースへと一直線に落下していく。
ダンッ!
見事着地に成功した満は、そのままレースを続行している。
[ちょっと待ちなさい。なんなの、今の!?]
「えっ……、二段ショートカット?!」
そう、満はヘアピンで行ったり来たりするコースの真ん中を飛び越えてしまったのだ。
高低差のあるハッカンアイランドのコースだからこそ、実現可能のショートカットなのである。
とはいえ、ラークルートの第二コーナーショートカットよりも現実味のないショートカットであり、未だかつて誰も挑戦したことのない裏技である。
これには満のレースを観戦していた誰もが度肝を抜かれていた。
その結果、満の2対2の対決は、満の圧勝で勝ちを拾っていた。対戦相手もだが、チームメイトであるキーンもボロボロである。
[いや、あんな技を見せられては私たちの完敗よ]
[すごいわね。あんな技どこで見つけたのかしらね]
対戦相手もすっかり満を認めている発言である。
それというのも、満はこれ以外にも裏技をたくさんに披露していたからだ。
コースを戻ってきたスタート地点の砂浜。パワーのないプリンはここでも大きくブレーキになる。
ところが、満はパワーのなさを軽さでカバーしていたのだ。
その秘策は、大会前の一週間の間に見出されていた。
―――
「う~ん、プリンやマーシュだと、スタート地点でどうしてもスピードが大きく落ちてしまいますね」
リチェンジを握りしめた満は、ハッカンアイランドの攻略に挑んでいた。
その中で、どうしても軽さが目立つプリンとマーシュでは、砂地であるスタート地点で大きなタイムロスをしてしまうのだ。
「どうしたんだよ、ルナ」
「ああ、マッハさん。ちょっと困ったことになってましてね」
「なんだなんだ。お前でも分からないことがあるのか」
その日は珍しく全員が自由行動をしていて、ホテルに残っていたのは満とマッハの二人だけだった。
世界チャンピオンの座をかけて争うことになる二人は、その研究に余念がなかったからだ。
「あー、その砂地な。そこは俺も苦戦してるところなんだよ」
「マッハさんもですか。素直に走ろうとすると、砂の抵抗でスピードが落ちていくんですよね。軽いので沈むことはないですけれど、砂地が終わった後のリカバリーが厳しいんですよね」
「そうそう。そこが問題なんだよ」
満の話す内容に、マッハは共感しているようだ。
「だがな、ここにはちょっとしたコツがあるんだよ。ほら、コースをよく見てみろ」
「コースを?」
満が何周かハッカンアイランドを走っていると、砂浜の上にはやたらと何かがごろごろ落ちていることに気が付いた。
「あっ、これって木材ですかね」
「そうだ。どういうわけか砂浜には木材が流れ着いているらしくてな。配置はランダムだが、そこを走れば減速を抑えられるってわけだ」
「おお、これは知りませんでしたね。でも、なんで教えてくれるんですか?」
満は思わず何度も目をまばたきさせてしまう。
「そりゃまあ、お前は俺のライバルだからな。敵に塩を送るってやつだ。大会では味方だがな」
マッハの言い分に、満は思わず吹き出してしまう。
「うわっ、そこまで笑うか?」
「いえ、マッハさんも思ったより人がいいと思いましてね」
「大会じゃ俺も勝ちたいからな。だから、味方としてアドバイスをしているだけだよ。深い意味はないぜ」
「はい、わかっていますよ。でも、ありがとうございます」
「お、おう……」
屈託のない満の笑顔に、思わずマッハは顔を逸らして頬をかいている。
その後も二人は、あれこれと勝つためにひたすら配管工レーシングをプレイしたのだった。
―――
「その時に気が付いたのが、プリンやマーシュの軽さを活かしたジャンプなんですよ。木材の位置によりますけれど、うまく乗っかれば少し浮き上がります。そこで空中ダッシュを決めて砂浜を素早く駆け抜けるんですよ」
「理屈は分かるけれど、マネできる気がしないわ」
[同感ね]
[うん、無理だわ]
ヘッドギアの同時通訳機能のおかげで、満の理論はすんなりと相手にも伝わっている。
だが、なるほどよく分からんだったらしく、キーンも含めてこのありさまだった。
「よっしゃ、二勝で俺たちの勝ちだ!」
マッハの声が響き、どうやら対アメリカチームの対戦は2対1でマッハのチームに軍配が上がったようだった。