第266話 いきなり大勝負
いよいよ始まった二日目の競技。
チーム対抗戦の残り8戦である。
満たちの最初の対戦は、アメリカチームだった。
[よう、いきなり当たったな]
[そうだな。まっ、早々に面倒な連中が終わってくれるのはいいことだ]
[言ってくれるな? お前との決戦もそうだが、昨日いた銀髪の子との対決も楽しみだ。あれだけ攻めたレース運びができんだから、俺も楽しみで仕方ないってもんだ]
[はっ、すっかり魅せられちまってるな]
[お前だってそうだろ?]
表情の見えないインカム越しの会話だというのに、不思議と表情が浮かんできてしまう。そのくらいにマッハと相手チームの男性との会話が弾んでいた。
英語が分からなくても声のトーンで察せてしまうのだ。
[さて、そろそろ始まるな。世界チャンピオンの意地を見せてやるぜ]
[俺だって負ける気はねえぜ。全力で勝負だ!]
相手チームとの会話を終え、マッハは満たちへと振り返る。
「相手は前回優勝を争ったキングダムだ。こいつらに競り勝って、弾みをつけるぞ!」
「おーっ!」
気合いを入れ直すと、満たちはそれぞれの席に座る。
今日の初戦の抽選が始まり、ペアを組む相手、対戦相手、コース、使用キャラの順番に決定されていく。
満のペアはキーンで、対戦相手も女性が二人となったようだ。
「ハッカンアイランドね。私はゴーリーで、ルナちゃんはプリンか。慣れないキャラだけど大丈夫そう?」
「大丈夫ですよ。一応全キャラ扱えるようにはしてきましたのでね」
「さすがね。とはいえ、数年間マッハとチームを組む私としては、ルナちゃんにばかり頼ってちゃいけないわね。このハッカンアイランドはショートカット使いたい放題だから、遠慮なく相手を叩き潰してあげて。援護するから」
「分かりました。遠慮なくやらせてもらいますね」
キーンの言葉に、はにかんだ笑顔を見せる。
「うっ、可愛すぎる……」
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。それよりももう始まるわよ、準備して」
急に鼻を押さえるキーンが心配で声をかける満だったが、キーンに言われて再び席に座る。
心配で再びちらりと視線をキーンに向けた満だったが、そこで見たのは真剣な眼差しをモニタに向けるキーンの姿だった。
この切り替えの早さには、満は思わずびっくりしてしまう。
「ほらっ、ぼさっとしないの。司会の声がかかるわよ」
「は、はい!」
少々きつめのキーンの言葉で、満にも気合いが入る。
「本日一戦目、スタート!」
司会の声が響き渡れば、すべての画面にスターター役のクラウディというキャラが現れる。
信号が青に変わると、満もしっかりロケットスタートを決める。
満が今回扱うキャラプリンは、加速も最高速も中間くらいの平均的なキャラだ。
ただ、その最大の特徴は軽いこと。ジャンプ台に乗った時などに飛び上がる高さは、他のキャラよりも高い。そのため、浮き上がると距離を稼ぎやすくなる。
その反面、ぶつかられたり、赤メットを当てられたりすると、他のキャラよりもスピンの回数が多くなってしまう。あと落下するタイプのコースアウトでは落ちるまでに時間がかかり、タイムロスが大きくなる。
なんともまあ、デメリットばかりが大きいキャラと言えよう。
しかし、操作性なら主人公兄弟であるミドルやトールよりも良く、コーナリングの性能はピカイチなのだ。
満はプリンでもまったく動じることなくレースを進めていく。さすがにプリンの最高速はハッカンよりも速いので、ハッカンで走っていた時に比べれば前の方にいる。
一周目は様子見なのか、アイテムボックスで引いたアイテムを使うような気配は、今のところ誰も見せていない。
どんどんと坂を登っていき、ハッカンアイランドで最も高い場所に到達する。
一周目はここで初めて動きが出る。
頂上付近では短いものの直線部分がある。そこでキャラによってはマッシュを使った方がいいというわけだ。ちなみにプリンはここでは使ってはいけないタイプ。プリンはスタート地点の砂地で使う方がよいとされている。
それは軽さゆえに砂地をうまくクリアできないから。マッシュによる加速力で強引に突破するのがセオリーと化していた。
ところがだ。ここ満が意外な行動に出た。
「それっ!」
ポチッと頂上入口でマッシュを使う。
「えっ?!」
この意外な行動に、チームメイトであるキーンすらも驚いてしまう。
[なんだ、こいつ。プリン使ってるのに、てっぺんでマッシュを使ってるわよ?]
[ウケる。砂地でもがく姿が見れそうだから、このまま泳がしときましょう]
相手チームは満の行動をあざ笑っている。
(一体、何を考えているのよ、ルナちゃんは……)
キーンも満の行動にまったく理解を示せなかった。
だが、満の狙いはそこにあったのだ。
頂上の直線部分が終わり、左にカーブして下り坂に入る。
「まずは一回目!」
満が得意とするショートカットに打って出る。
[ばっかじゃないの]
[マッシュによる加速が残っているんだから、その状態でのショートカットがうまくいくと思ってるわけ?]
(そうよ。無茶苦茶よ、ルナちゃん)
同じコースを走る三人から暴走だと思われた満のショートカット。
キーンは焦り、対戦相手にはバカにされている。だけど、満一人だけは自信満々の表情だった。
(笑っていられるのも今のうちです。さあ、いきますよ!)
その時、画面の中ではみんなの度肝を抜く、とんでもない事象が発生したのだった。