第265話 世界大会二日目
配管工レーシングの世界大会の二日目が始まる。
今日は総当たりであるチーム対抗戦の残り8試合が行われる。
「さて、7戦4勝と思ったよりも結果が出ていないな」
「そうね。去年よりも確実に世界も実力を上げてきているわ」
「俺たちだってさぼってたわけじゃないんだが、向こうの方が上手だったってことだな」
「なんとも悔しい限りだぜ」
控室に集まったマッハたちは、残りの戦いを前に昨日の反省会である。問題点を洗い出して、今日の士気を高めるために行っている。
「まだ強豪たちが控えているからな。俺とルナが別々になることを祈りながら、いつも以上の力を発揮するしかない」
「ああ、そうだな。最初こそはこれほどの実力者だとは思わなかったが、改めてマッハに勝てたことは偶然じゃなかったことを思い知らされたぜ」
話をしながら、チームメイトの視線が満に集まる。
なにせ今年の話題の中心なのだから仕方がない。
「名実ともに新しいチャンピオンの誕生だろうな。まったく、こんなに簡単に引きずりおろされるたあ、思ってもみなかったよ」
「えと、あの、その……。なんだかすみません」
「気にすんなって。実力と運がものをいう世界だ。その両方を持ったルナは、チャンピオンを名乗るにふさわしい。今日もいつも通り実力を発揮して、その称号を不動のものにしてやれ」
「は、はい! みなさん、よろしくお願い……します」
最初こそ元気よく言い出したものの、だんだんと恥ずかしそうになっていく満である。
「日本チームのみなさん、準備をお願いします」
話をしているとスタッフが呼びに来た。
いよいよ泣いても笑っても、世界大会の後半戦が始まってしまうのだ。
「よっしゃ! まだ当たってねえ強豪チームがいるが、なんとしても優勝目指して、全勝といこうじゃないか」
「ああ、俺たちの実力を見せつけてやろうぜ!」
「マッハとルナちゃんだけだなんて言わせないからね」
円陣を組んで気合いを入れまくった満たちは、いざ出陣とばかりに、大会の会場へとその歩を進めていった。
会場の中は昨日よりも熱気に包まれている。
「な、なんだかみなさんの視線がこっちに向いてますね」
満はマッハの陰に隠れるようにしてこそこそと歩いている。
満にこれだけ視線が集まるのも無理はない。プレイヤーネームルナは、昨日の時点で散々暴れまくってくれたのだ。目立たない方がおかしいというものである。
昨日の対戦相手たちからどんどんと広まり、そのルナが所属する日本チームにあからさまな敵意が向けられているのである。
「ラークルートのショートカット、この大舞台で二周目三周目と連続で決めたんだ。注目されない方がおかしいってもんだぞ、ルナ」
「それにしても、ずいぶんと突き刺さるような視線ですよ?」
「そりゃそうだろう。みんな上を目指してる連中だ。ゲームとはいえ本気だからな、ライバル視されて当然ってもんだ」
なんだか怖くなってくる満である。マッハにしがみつくようにして震えている。
この姿を見ると、まだまだ満は子どもなんだと思わされるマッハやキーンたちである。
「大丈夫だ。手を出そうとして来ても俺たちが守ってやるからよ。ルナはいつものようにプレイしてくれればいいんだよ」
「ううう、分かりました。頑張ります」
「そうそう。ルナちゃんは私たちを頼りにして、ゲームに集中してくれればいいんだからね」
「そうだぜ。君のような少女に頼らざるを得ないのは情けないが、君のおかげで頑張れているところもある。ならば、君が安心できるようにしてあげるのが、俺たち大人の役目ってもんだろうよ」
チームメイトから次々と励まされる満である。これには思わずびっくりしてしまう満である。
「みなさん……ありがとうございます。僕、頑張りますね」
満はにっこりと笑顔を見せている。
「やっと笑ってくれたか」
「うんうん、可愛いわ」
「やっぱこの顔でいてくれないとな」
笑った満の姿を見て、口々に安心したようなことを口にするチームメイトたち。あまりにも揃って可愛いといってくるものだから、満は恥ずかしさで顔を真っ赤にしてしまう。
けれど、そのおかげでだいぶ精神的に楽になったらしく、気合いの入った表情で自分たちのブースへと向かっていく。
自分たちのブースへとやって来ると、スタッフの案内に従って、それぞれモニタとリチェンジの本体が置かれている席に座っていく。
席に座って大きくし呼吸をした満は、そのまま大会二日目が始めるのをただ静かに待ち続けた。
迎えた朝の10時、会場内に配管工レーシングの曲が流れ始める。
「レディース、アンド、ジェントルメン。大会に参加して下さっている選手のみなさん、おはようございます」
司会進行の挨拶が突如として始まり、ちょっと緊張していた満は思わずびっくりしてしまった。
「本日は大会二日目です。今日の結果で優勝チームが決まります。みなさん、悔いのないように精一杯走り抜けて下さい」
レーシングゲームであることを踏まえた、運営からの激励である。
「栄えある配管工レーシング優勝のチェッカーフラッグを受けるのは、果たしてどのチームか。ここに大会二日目の開始を宣言します!」
司会進行のこの言葉でもって、緊張の配管工レーシングの二日目が始まりを告げたのだった。