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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
257/321

第257話 世界大会が始まる

 世間ではクリスマスが近付いてきた頃、満はいよいよ出発の時を迎えていた。


「今年のクリスマスは一緒にいられないのね」


「だね。マッハさんたちとの待ち合わせは一週間前で、世界大会は二日間にわたって行われるから、早めに行っておかなくちゃ」


 今日の満は男の子の状態だ。なので、ウィッグをつけて対応している。

 さすがに一週間以上女の子の状態を保ち続けるのは、困難だろうということらしい。ただし、服に関しては女物しかないので、とても辛そうだ。

 これも全部ルナ・フォルモントとして最初に会ってしまったがためである。


「女装はつらいけど、もうなんだか平気な気がします」


「まったく、慣れっていうのは怖いわね」


 怖いといいつつも笑いをこらえきれない母親である。

 満自身は見た感じが女の子といっても通じそうなくらいだったので、本当に女装であっても違和感がないのである。


「まさか詰め物をさせられるなんてなぁ……」


「そこだけはしかないわね。女の子としてちょっと育ちすぎちゃったもの」


 満は自分の胸を見てため息をついている。

 女の状態ならまったく気にはならないものの、男のままだとかなり気になってしまうようだ。


「今日はとりあえずばれないことを祈ってなさい。そろそろ待ち合わせの時間なんだから、駅まで送っていくわね」


「あ、うん。お母さん、頼むよ」


 会話を終えると、満は母親の運転する車に乗り込む。

 一応プライバシーに配慮して、マッハとの待ち合わせは以前満天楼本社に向かった時同様に駅前を指定した。

 満がよくやって来る駅前は、家から程よい遠さにある上にランドマークとしてはこの上ないものである。

 ようやく駅前までやって来た時には、すでにマッハは到着して待ち構えていたようだ。


「よう、待ってたぜ」


「本日からお世話になります。ルナ・フォルモントです」


 挨拶をした満だったが、マッハどういうわけか表情が歪んだ。


「ちょっと感じが違わねえか?」


「そ、そんなことないですよ。それよりもチームメイトの方はいらっしゃらないのですかね」


 ぎくっとする満だったが、マッハ以外に誰もいないことが気にかかった。


「ああ、あいつらは現地集合だ。ルナ以外は全員成人してるからな。みんなこの日のために有給温存してるんだからよ」


「そうなんですね。みなさん、ここに賭けたらっしゃるんですね」


「なんてったって世界大会だからな。ゲームだからあまり評価はされないが、それでも勝てば世界チャンピオンだ。世界一って肩書きは嬉しいもんだろうが」


「そうですね」


 満たちはいろいろと話をしていると、マッハが満の母親にようやく視線を向ける。


「あなたが、ルナの保護者ですか。まったく似てませんね」


「それはそうですよ。ルナちゃんはうちでお預かりしているだけですから。ご両親は仕事で忙しくて大変だそうでして、夫の仕事のつながりでということなんです」


 何か言いづらそうにしている雰囲気を感じ取ったマッハだったが、これ以上はプライベートに踏み込み過ぎると感じてここで話を打ち切る。


「それじゃ、ルナさんはお預かりしていきます。なんといっても期待の星ですから、大切にさせて頂きますよ」


「はい、お願いしますね」


 話を終えると、満は荷物をマッハの車に移し替える。


「なんだ、リチェンジと配管工レーシングも持ってきてるのか」


「あれ、要りませんでした?」


「ああ、大会では満天楼が用意したものを使うからな。不正がないようにするため、みんな同じ条件で戦うことになるんだよ」


「そうなんですね。でも、練習はしておいた方がいいですよね」


「それはそうだな。かくいう俺も持ってきているしな。手放せないってもんだ」


 これには満もつい笑ってしまう。

 最後にもう一度挨拶を交わすと、満はマッハの車に乗り込んでいよいよ大会の舞台へと向かう。


「世界大会は東京で行われるからな。都会には慣れてるか?」


 運転をしながら、マッハ助手席に座る満を心配してか声をかけてくる。


「多少は慣れてます。アバター配信者コンテストで都心近くには行ったことがありますから」


「ああ、なんか聞いたことがあるな、それ。俺も配信者のはしくれだから、アバ信のこともちったあ知ってるんだ。観光大使だかPR隊長だか務めるんだよな、それの優勝者」


「そうですね。僕は今年の大会で二位だったんですよ」


「ほぉ……。そいつぁ、すげえな」


 マッハは素直に感心しているようだった。


「まったく、そんな奴とチームが組めるたあ、面白い巡り合わせだな。とはいえ、他のやつらは聞いてもピンとこねえだろうがな。ま、ルナみたいな子ならみんな優しくしてくれるさ、楽にして構えてな」


「はい、ありがとうございます」


 マットとの間の雰囲気は終始穏やかな感じだった。

 高速道路を飛ばしに飛ばして目的地に着いたのは、なんと辺りが真っ暗となった夜10時のことだった。


「チェックインは大丈夫ですかね」


「そいつは心配要らないぜ。それよりも、他の連中だな。もう着いているだろうから、そいつらにどやされることは覚悟しておけ」


「ええ……」


 マッハに脅されると、満は露骨に怯えてしまっていた。


「待て待て。どやされるのは俺だけだ。もしお前に向かうようだったらかばってやるから安心しな」


「約束ですよ」


「もちろんだ」


 いきなり不安になる満だったが、マッハが白い歯を見せながら自信たっぷりに言うので、マッハに任せることにした。

 車を駐車場に停めて降りた二人は、チェックインをするためにホテルへと足を踏み入れた。


 配管工レーシングの世界大会。その始まりは、ちょっと不安まみれとなったのだった。

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