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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
254/321

第254話 まったく落ち着けない状況

「ふぅ……」


 その日の配信を終えた満は、改めて自分の体を見る。

 普通の少年であるはずなのだが、どう考えてみてもどこか感覚が違う気がするのだ。


「僕のプレイ、やっぱりどこかおかしいのかな……」


 配信中こそ真祖たる吸血鬼を演じて平然としているものの、終わればそこにいるのは中学二年生の少年だ。

 満自身もどこか自分の体が自分のものでないような感覚を覚えている。

 特に今回のように集中した時には、すべてがスローモーションに見えているのだ。


「もしかしたら、僕の体は少しずつ吸血鬼に変化してきているのかもしれないな。ルナさんの影響が、じわじわと出てきてるってことだろうかな」


 配信者デビューから一年を過ぎたということは、自分の体の中にルナ・フォルモントが入り込んでから同様に一年を過ぎたということになるのだ。

 さすがにそれだけの日数が経ってしまっているので、影響を受けていないというのは否定できない話である。


「さすがに一人になってしまうっていうことはないとは思うけれど、このままだといろいろ不安だなぁ……」


 さすがの鈍い満でも、こればかりは少し恐怖に感じてしまっているようだった。


「でも、こればっかりはルナさん次第ともいえるから、僕はいつも通りに生活するしかないかな」


 自分ではどうしようもないと結論付けた満は、この日のプレイ配信もアーカイブにすると、残っていた宿題を片付けてさっさと就寝したのだった。


 翌日のことだった。

 満のスマートフォンがぶるっと震える。


「おっと、なんだろう」


「どうしたんだ、満」


 昼休み、いつも通り風斗とおしゃべりをしていた時だったので、風斗も驚いたようだ。


「うん、ちょっと待ってね。今確認するから」


 満はスマートフォンを取り出すと、SNSのDMにメッセージが来ていた。


「あ、マッハさんからだよ」


「もう返事きたのか。昨日だろ、親の了承を伝えたの」


「うん、そうだよ」


 風斗とやり取りをしながら、満はDMをチェックする。


「あ、もう一件あるや」


 チェックしていたら、どうやらもう一通あったようだ。


「えっと、差出人は『藤倉』って書いてある。満天楼の人からだよ」


「そっちも早いな……」


 風斗は驚かされてばっかりである。

 それでも、満がDMをチェックし終わるまでは黙って待つことにしていた。

 なんだかんだ言っても風斗は気遣いができるタイプなのだ。


「ふぅ、どうやら僕は正式にマッハさんのチームに入ることになっちゃったみたいだ。藤倉さんからはパンフレット送るからメールアドレスに住所を送ってほしいって内容が来てた」


「マジか……。まあ、ゲームの世界だと年齢関係ないとは言うが、まさか知り合いからそういうのが出るとはなぁ……」


 風斗はがくっと頭を落として悩んでいるようだった。


「とはいえ、この銀髪美少女がいれば、チームにも華が出るだろうな」


「風斗、それって褒めてる?」


 思わずぽろっと出てしまった言葉に、満は不機嫌そうな顔をして聞き返している。


「あ、いや。悪い……」


 さすがに言い方が悪かったかと、風斗は反省している。

 ただ、美少女を目の前にした風斗は顔を赤くして目を逸らしてしまったので、それはそれでさらに満の機嫌を損ねてしまったようである。まったくもって難しいお年頃というものだろう。


「もう~……。ちゃんとこっち見てよね、風斗」


「あ、いや……」


 満が怒って風斗の顔をつかんで自分の方を向かせようとした時だった。


 キーンコーンカーンコーン……。


「あ、ほら、予鈴だぞ。次の授業の準備をするぞ」


「ちぇ~……、仕方ないなぁ」


 ちょうど昼休みが終わるチャイムが鳴り響いて、風斗は命拾いをしていた。

 ほっと胸を撫で下ろしながら、自分の席へと戻っていく。


(ふぅ、満が真面目な性格だから助かったぜ。あのまま話が続いていたら、俺は平静を保てなかったかもしれないぜ……)


 自分の席に着いた風斗は、そのまま午後の授業が始まるまで机に突っ伏して寝たふりをしていた。周りで見ていたクラスメイトのからかいをかわしたかったからだ。


(まったく、普通に話してはいられるが、時々見せる無意識の行動は本気でやばい。俺たちは男の友人同士なんだ。惹かれてたまるかよ……)


 風斗はもう、女の時の満を意識せずにはいられないようだった。

 風斗は風斗でこの状態だというのに、満は相変わらずの鈍さで男の時とほとんど変わらずに接してくる。そのために風斗は毎回悩ましくなってこのありさまなのだ。


(ダメだ。あくまでも友人としてあいつを支えてやらねえとな。そこにやましさなんてひとかけらもないんだからな!)


 世界大会への参戦が決まった友人を応援したい気持ちは山々なのだが、最近すっかり意識してしまった感情のせいで風斗の心はすっかり複雑である。

 この微妙な満と風斗の関係はいつまで続くことになるのだろうか。このままでは風斗の精神はもたなさそうである。


(それにしても配管工レーシングの世界大会か……。なんかとんでもないことになってきたもんだぜ)


 満から意識を逸らすために別のことを考え始める。どうにか落ち着くことはできたが、別の意味で落ち着かなくなってくる。

 なにせ自分の幼馴染みの友人が、世界の舞台に立ってしまうのだから。

 どのみち風斗の悩ましい状況は、しばらく続きそうである。頑張れ風斗。

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