第253話 ガチゲーマー
「みなさま、おはようですわ。光月ルナでございます」
『おはよるなー』
『おはよるな~』
月曜日の夜は、いつものように配信を始める満である。
それにしても、時折素が出るとはいっても、このお嬢様然とした喋り方もすっかり板についてきたものだ。さすがは一年間続けてきただけあるというものである。
「はい、今回の配信でございますけれど、今日も配管工レーシングの配信をしたいと思います」
『キターーーーーッ!』
『すっかりはまってるなぁ』
『またあの変態プレイ見せられるん?』
『ドン引きレベルだったからな、あのショートカット』
リスナーたちの反応は真っ二つといった感じである。
実際、満のプレイは素人のそれではなかったのだから軽くホラーである。
「今回のコースはハッカンアイランドでございますわ。友人が遊びに来ておりましたので、試しに遊んでみましたのよ」
『ああ、あのアップダウンの激しいコースかぁ』
『ハッカンであの島まともにクリアできるん?』
「それは見てのお楽しみですわよ。それでは始めますわよ」
前置きもほどほどに、満は画面を配管工レーシングのプレイ画面に切り替える。
「そうですわ。僕の使っているリチェンジと配管工レーシングですが、満天楼の方にチェックして頂きました」
『ぶっほ』
『本社行ったん?』
唐突な話にリスナーたちはものすごい勢いで食いついている。
「はい、ちょっとしたご縁で訪問させて頂きました」
『マジかよ・・・』
「結果として、僕の使っているものは不正なしの正規品だと証明して頂きました。ですので、僕がしていることはみなさまにも再現が可能ということですわね」
『無理だね』
『できたら苦労しねえwwwww』
「即否定でございますか……。悲しいですわね」
リスナーたちの反応につい笑ってしまう満だった。そのせいで、言葉と感情がかなり不一致になっていて、リスナーたちにはこれがまた受けているようだった。
そして、どうにか無事に光月ルナによりハッカンアイランドのプレイ実況が始まる。
「スタート地点は砂地ですので、ここではほとんどの方がまともなスタートを切れません。このごちゃつきをどうにか突破するのが最初の難関ですね」
『たしかに』
『特に目の前がユッケンやゴーリーだと即衝突とかあるからなぁ・・・』
『ああ、確かに加速が遅いから壁になりやすいもんな』
そう話しながら、満は最初のコーナーに向けてインコースにハンドルを切る。
「なので、自分位置に合わせて、外に切るか中に切るかをします。今回は最内でしたので中に切りました」
『なるほ』
コースの前半は、実に淡々と進んでいく。このあたりは特に何もやることがないからだ。
しいて言えば、他のキャラの動きに注意して、崖下に叩き落されないことを心がければいいのだ。
光月ルナの真骨頂は後半になる。
後半には急カーブと急こう配が連続する下り坂だ。
「さて、先日の僕のプレイを見ていた方ならピンときたと思いますが。ショートカットを使います」
『やっぱりかいwww』
『ですよねー』
ショートカットの単語が出た瞬間、コメント欄が盛り上がる。
ラークルートの第二コーナーのショートカットが鮮烈に蘇ってきたからだ。
リスナーたちの頭の中がショートカットに満たされたその瞬間だった。
「さあ、一回目ですわ」
下り坂に入って最初のカーブでのことだった。早速光月ルナが動く。
ここは直後にヘアピンカーブでほぼ真下に戻ってくるためにショートカットがやりやすい場所である。だが、そうは許さないといわんばかりに、直後にはもう一度ヘアピンカーブが待ち構えている。
この無茶苦茶な構造のために、ショートカットを決めた後に崖下に落ちてしまって、あまりリードが取れないプレイヤーが続出したという魔のショートカットである。
ところが、光月ルナにかかれば、そんなものなどまったく問題がなかった。
『うそだろwwwwwww』
『魔のショートカットを難なく突破しおった・・・』
『さすルナ』
一発目のショートカットを成功させた後の操作も的確で、崖下に落ちることなくすいすいと進んでいく。
たった一発のショートカットであっという間に順位が大幅に上がる。
その少し後の二回目のショートカットも無事に決めると、あっという間にトップに立ってしまう。
その後は危なげなくトップを走り続け、圧勝をして見せる光月ルナである。
『ハッカンで圧勝wwwww』
『ガチでバケモンやんwww』
『誰がルナちに勝てるいうねん』
あまりの圧勝劇に、コメント欄は完全にお祭りになっていた。
「そうですわね。ショートカットをしたタイミングにうまく赤メットをぶつけるとか、そうでもしないといけないと思いますわね」
『ルナちが冷静にマジレスしてる・・・』
『でも、マジで落下によるタイムロスを誘わんと勝てんよな、これは』
「後は僕と同じことを速いキャラですれば勝てると思いますわよ」
『たしかに』
『それができたら苦労はしねえwww』
コメント欄は相変わらずお祭り進行である。
「そんなわけでして、僕は対戦相手を募集しておりますので、いつでもお相手致しますわ」
『おことわりー』
『勝てる気がしねえ・・・』
『信じられるかい?これで配管工レーシングプレイ歴半月程度なんだぜ?』
『それが一番信じられねえwww』
騒がしい雰囲気の中、この日の光月ルナの配信は無事に終わりを迎える。
結局、光月ルナの中の人がガチのゲーマーであることが知れ渡るだけとなった配信だったようである。
しばらくの間、アバター配信者スレだけでなく、配管工レーシングスレもお祭りになったのはまた別のお話。