第252話 世界大会に向けて特訓だ
さて、満の世界大会への参加は驚かれはしたものの、帰ってきた日の夜にはあっさりと了承されてしまった。
本来の男の状態ではないにしても、我が子のワールドワイドな進出に、両親は応援してあげようという姿勢のようだった。
反対されるかと思っていた満は、あまりにもあっさりと決まってしまったことに思わず脱力をしてしまっていた。
満は決まるや否や、マッハに対して連絡を入れておいた。
これで正式に決まれば、満天楼の藤倉に連絡を入れて、パンフレットが届くことになるはずである。
「それにしても、満ってば大きな大会に立て続けに出るのね」
翌日の朝、改めて母親から言われてしまう満である。
「うん、僕も正直驚いているよ。配管工レーシングって最近知ったばかりだけど、世界大会まであるだなんて驚きだなぁ」
「恐ろしいわね。先日まで知らなかったゲームでこんなことになるなんてね」
「まったくだよ」
満と母親はただ笑うばかりである。
「それで、世界大会に出るとしてどうするつもりなの?」
「そうだなぁ……。とりあえずは風斗といろいろ遊んでみるつもりだよ。配管工レーシングのコースは20以上あるっていうから、どのコースになったとしてもちゃんと対応できるようにしないとね」
満はもぐもぐと食事をしながら、今後の対応を考えている。
最悪、ゲームの実況配信も行って、練習するつもりであるようだ。
「まあ、お母さんはゲームのことはよく分からないから、頑張ってとしか言えないわね」
「うん、それで十分だよ。どんな状況でも最善の手を、十分な力で発揮する。それが大事なんでしょ?」
「まあそうね。応援はしてるわよ」
「うん、ありがとう、お母さん」
相変わらず満の家の親子仲はよさそうである。
ただ、この日も仕事な父親は泣いていいと思う。そう思える状況だった。
しばらくすると、風斗が家にやって来た。
「おーっす、満。配管工やるんだってな。まったく、ずいぶんと熱を入れるようになったな」
「しょうがないでしょ、風斗。昨日の今日だよ?!」
とぼけて話しかけてきた風斗に、満は渾身のマジレスである。
「悪い悪い。ボケたつもりだが通じなかったな。まったく、満は真面目だから困るぜ」
「もう、風斗ってば!」
風斗のからかいに、満は思わずぽこぽこと叩いてしまう。
あまりにも可愛らしい反応に、思わず笑ってしまう風斗である。
ただ同時に、今の満が男でよかったぜと安心してしまっていた。まったくもって、複雑なお年頃というものである。
それはさておき、パソコンのモニタとリチェンジを繋げて、少し大きな画面で配管工レーシングの対戦を行う満と風斗。
「さて、満。どのコースにするんだ?」
「そうだね。ハッカンアイランドコースにしようかな」
「また変わり種なステージを選びやがったな。このコースは初見だっけか」
「うん、まだ遊んだことないね」
どうやら今回選んだコースは、満は初プレイのようだ。
これは自分にも勝機があるかなと、風斗はついリチェンジを持つ手に力が入ってしまう。
ハッカンアイランドは、全コース中でも高低差ならばどのコースにも負けないコースだ。
スタート地点は砂浜という平坦な場所だが、ちょっと変わったギミックが仕込まれている。砂浜のためにグリップがあまり利かず、スタートダッシュの裏技も効果が半減である。その上で加速も減少するため、ハッカンの利点も潰されてしまう。
これだけでもなかなかにプレイヤー泣かせな仕様だ。
スタートした後は森を抜けて坂を駆け上がり、アップダウンと落石のある山岳地帯を抜け、これまた急激な下り坂の待つうねったコースを駆け下りていく。
シンプルなラークルートとは対照的に、プレイヤー泣かせな実にトリッキーすぎるコースなのである。
ちなみにここにもショートカットポイントはある。後半の下り坂がそうなのだが、ここはショートカットは楽だが、その後の操作が難しくなるというデメリットがある。そのため、分かっていてもなかなか使うことのないショートカットなのである。
いざレースがスタートすると、満も慣れないコースに最初は戸惑っていた。
「ははっ、さすがに初見だとミスが目立つな、満」
「そうだね。でも、負けないからね、風斗」
風斗がからかえば、満はちゃっかり挑発に乗ってくる。
だが、それで崩れないのが満なのである。
一周目こそ見の状況で抑えめに走っていたが、それはあくまでも一周目だけだった。
「大体読めたよ。風斗、覚悟!」
「半周近い差もできてるのに、諦めてねえのかよ」
「当たり前じゃないか。この程度で諦めていたら、世界大会なんて出られないよ」
一周目が終わったとたん、満の走りが完全に変わった。
「げっ、ドリフトを使いこなしてやがる」
初見コースも一周走っただけでこれだ。満の適応能力の高さをまざまざと見せつけられてしまう。
特に後半の下り坂コースの走りは圧巻だった。
ショートカットからのドリフトで、うまく下り坂を攻略していく。
「マジかよ……、差が詰まって来やがった」
二か所あるショートカットを無事に突破して、半周もあった差はみるみると縮まっていく。
「あー、惜しいなぁ……」
結果として、2秒差で満は敗北したのだった。
「嘘だろ……。あれだけあった差が、ハッカン相手にここまで詰められるのかよ」
「ちょっと様子を見過ぎちゃったな。あと、NPCの邪魔が入ったのは大きかったなぁ……」
運も実力のうちといえるので、これでも勝ちは勝ちなのである。これにより、ようやく風斗は満に勝利できたのだった。
「次は負けないからね」
「次やったら確実に負ける」
断りたい風斗だったが、結局強行され、見事リベンジを果たされたのだった。