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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第251話 ルナの複雑な気持ち

 家に帰った日の夜のこと、満の姿は闇夜の中にあった。

 家の屋根に上って呆ける少女は、どうやら満ではないようだ。


「やれやれ、なんだかとんでもないことになってきたようだのう」


 久々のルナ・フォルモントである。

 体の状態を満の方へと戻すために、吸血をしようと外に出てきたのだ。

 だが、すぐには吸血に向かわずに、ここ最近の満に起きたことを振り返っているようである。


「思ったよりも、満の人気は高いようだな。これならば、妾がこの世界に実体を取り戻す日も、そう遠くはなかろうて……」


 実態を取り戻せるということは喜ばしいはずなのだが、この時のルナ・フォルモントはどうも憂鬱そうな気持を抱えてしまっているようだった。

 一体、何が問題だというのだろうか。


「仕方あるまい。グラッサの娘のところにでも行くとするか」


 どうにも煮え切らないらしく、状況を打破するために小麦の家へと向かっていった。


 時間はまだ夜の12時の前である。こんな時間でも満はとっくに眠っていた。だからこそ、ルナ・フォルモントが活動できているのだ。

 ところが、小麦の方はまだ起きている。翌日が祝日ということも関係しているのだろう。


「あれ、ルナさんじゃないの。どうしたんですか」


「やれやれ、妾の方だとすぐに分かったか」


「あったり前じゃないですか。これでも退治屋の娘ですよ?」


 窓がコツコツと鳴ったので、小麦はすぐに対応していた。

 民家の二階から入ろうとするあたり、さすが吸血鬼といったところ。常識は通用しないのである。

 小麦が窓を開けると、ルナはすぐに部屋の中へと入る。もちろん、靴はちゃんと脱いでいる。


「それ、パジャマですか。可愛いですね」


 小麦はつい笑ってしまう。

 キャミソール型のトップスとショートパンツのボトムスというセパレート型のパジャマだが、ハートのドット柄という可愛らしいものだったからだ。


「妾の趣味というわけではないが、最近の満はずいぶんと女にも慣れたようでな。服装がどんどんと可愛くなってきておるのだよ」


「なるほど、理解できますね、それ」


「ええい、いつまでも笑っておるではない。少しは妾の話を聞け」


「いいですよ。明日はお休みですから、時間くらいはありますからね」


 夜も遅い時間だというのに、二人は床に座り込んでしまった。


「そういえば、光月ルナはなんだか大変なことになっているようですね」


「ああ、あばたあ配信者こんてすとといったか、あれで二位になってからというもの、登録者数が増えたな」


「いいですよね、それ。ああ、受験生じゃなきゃ、私も参加したのに……」


 小麦はアバター配信者コンテストに参加できなかったことが、やはり悔しいようだった。

 小麦も真家レニというアバター配信者である。それゆえにお祭りに参加できなかったことはつらいのである。


「自分の事情を優先させるのは当然だろうて。ましてやおぬしは、グラッサに負けたくないのであろう?」


「うん、ママには負けたくない。負けたとしても肩を並べられるくらいの存在になりたいの」


 ルナの言葉に、拳を握って宣言する小麦である。


「向上心があることはいいことだ。グラッサはちょっと特殊だから敵わぬとは思うが、おぬしも十分活躍できると思うぞ」


「えへへ、ありがと」


 ルナに褒められて、小麦は嬉しそうに微笑んでいる。


「それはそれとして、ルナちが羨ましいんだけど」


「どうしたんだ、急に」


 急に不機嫌になる小麦に、ルナも困惑している。


「配管工レーシングの世界チャンピオンと絡めるなんて、羨ましすぎるじゃないのよ。ルナちのゲームの腕前はすごいのは認めるんだけど、まさかあんなことにまでなるなんて」


「なるほどな。知名度のある者との絡みというのは、この世界じゃあどばんてえじというやつになるからな」


「レニちゃんの登録者数を超える勢いだよ」


「先駆者とすれば、悔しいのか」


「もちっ!」


 すがすがしいほどに悔しさを認めている小麦である。


「でも、世界チャンピオンかぁ……。レニちゃんもSILVER BULLET SOLDIERのトップから挑戦されたいよ」


「自分から打って出ないのだな」


「レニちゃんは臆病なのよ」


 呆れるルナに即答する小麦である。

 あまりにも元気な即答だったので、ルナも呆気に取られてしまう程だった。


「まったく、面白い奴よのう……」


「てひひひひ……」


 お互いに笑い合う小麦とルナである。


「まったく、話し声が聞こえると思ったらあなたですか、ルナ・フォルモント」


「おう、邪魔しておるぞ。妾もたまには人と話をしてみたくなるからのう」


「だったら、せめて玄関から入ってくれませんかね」


「何を言う。こんな時間に来るのはどこからだとしても怪しいやつなのじゃろう? だったらお前さんの邪魔をせんかっただけマシだと思うがの」


「あのですねぇ……」


 ルナの言い訳に、父親は困った顔をするばかりだった。


「そうじゃ、近いうちに光月ルナが面白いことになる。満が発表するまでは妾も黙っておくが、におわせくらいならいいじゃろうて」


「なになに、気になるなぁ……」


「ダメじゃな。お前さんとはいえ、これは話すことはできぬ。光月ルナの配信を楽しみにしておくことだな」


「えー、けちー」


 ルナ・フォルモントの態度に、小麦は不満ばかりである。


「それでは邪魔したな。妾は食事をして家に戻るとするよ」


「うん、気をつけてね」


 別れの挨拶をすると、ルナ・フォルモントは夜の街へと飛び去って行ったのだった。

 小麦はルナの言い残した言葉が気になったものの、その夜はぐっすりと寝つけたのである。

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