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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
249/321

第249話 満天楼本社にて

 翌日、約束通りに満天楼本社を訪れた満たち。

 日曜だというのに、朝から社員が快く迎え入れてくれる。


「お待ちしておりました。いやあ、マッハさん、先日のアバター配信者との対戦、見てましたよ」


「いや、あれ見られてたんですか。チャンピオンながら、お恥ずかしい姿を見せてしまって申し訳ありません」


「いえいえ、あれは相手がおかしかったんです」


「まあ、その相手がここに来てるんですけどね」


「え?」


 マッハとのやり取りで、社員の目が点になる。

 そう、こき下ろしかけた相手がこの場に来ているなど、誰が想像しただろうか。


「お初にお目にかかりますわ。光月ルナでございます」


「あ、あばばばばば……」


 光月ルナ本人の挨拶に、社員が大慌てである。


「言ったじゃないですか。対戦相手を連れてくるって……」


 社員の同様に、思わず呆れてしまうマッハである。


「こ、これは失礼しました。それでは中へとご案内します」


 謝罪を受けた上で、満たちは許可証を受け取って中へと入っていく。


「ゲーム会社の中に入るなんて初めてだぜ」


「き、緊張するわ……」


 付き添いで来ている風斗と香織はガッチガチである。


「緊張は分かりますが、今日は日曜日で社員は少ないですから、少しは楽にできると思いますよ」


 社員がこうは言っているものの、さすがに楽にはできないというものである。

 案内されたのは、マーケティング部の会議室だった。


「ここでしばらくお待ち下さい。担当者がそろそろ来られると思いますのでね」


「あれ、四条さんが担当じゃないんですか」


「私は今日はカスタマー部門の補佐で来ているんですよ。たまたま手が空いていたので出迎えに出ただけなんです」


「それであんなことを言ったんですか。カスタマー相手にそれは失策ですよ」


「その通りですね」


 四条は困ったように笑っていた。


「失礼するよ」


 会議室の扉が叩かれ、中へと人が入ってくる。

 いかにも堅物そうな顔の人物だ。どうやら、この人がマッハと会う約束をした人物のようである。


「そこの銀髪の子が、話題に出ていた光月ルナか。初めまして、忍北内蔵(しのびきたないぞう)と申します」


「初めまして、光月ルナでございますわ」


 入って来た男性が挨拶をしてくるので、満も挨拶を返す。


「藤倉さん、嘘っぱちな名前を言うのはやめて下さいよ」


「へっ?」


 普通に挨拶をしたところで、マッハがツッコミを入れている。隣では四条が必死に笑いをこらえている。

 どうやら、目の前のいかにも固そうな男性がボケを放ったらしい。


「いや、若い子が来たというから冗談のひとつでもと思ったのだがね。申し訳ない。本当の名は藤倉武流(ふじくらたける)と申します。噂はかねがね聞き及んでおりますよ」


「あっ、そうだったのですわね。ふふっ、気付きませんでしたわ」


 自己紹介をやり直した藤倉に対して、満は笑って対応している。


「早速だけど、君たちのリチェンジと配管工レーシングを確認させてもらいたい。四条、預かったらすぐに開発部に行ってチェックをしてくれ」


「承知致しました」


 四条は満と風斗からリチェンジと配管工レーシングを預かると、どちらがどちらのかきちんと分かるようにしてから、開発部へと向かっていった。


「まあ、それだけで物足りないから、社内にある貸し出し用のリチェンジと配管工レーシングを使って、実際の腕前を見させてもらおうか。対戦で使ったラークルートでね」


「分かりました。やってみせますわよ」


 満はふんすと鼻息を荒くしている。

 満天楼の人の前で実際に見せつければ、これ以上ない潔白の証明になる。

 早速用意された配管工レーシングをプレイすることにする。

 満が選択したのは、やっぱりハッカンである。もはやここまでくればこだわりである。

 実際に走らせてみると、やっぱりハッカンでは中団に控えることになってしまう。満の一人プレイでも、やっぱりこの構図になるのだ。

 そして、一周目はインサイドジャンプだけで終わった。

 だが、二周目からそれは起きた。


「えいっ!」


 満の掛け声と同時に、第二コーナーのショートカットが炸裂したのである。

 ハッカンのトップスピードではとてもじゃないが普通は距離が足りない。


「なるほどな……。二段ジャンプとは、恐ろしいことをやってのけるな」


「二段ジャンプだって? そんな仕様ありましたっけか?」


 マッハが驚いている。


「隠し仕様だね。一般には知られていないはずなんだが、どうしてそれができるのだろうかな」


「えっ? みんな知らないことなんですか?!」


 びっくりした満は、つい素の口調で驚いてしまう。


「タイミングがシビアすぎるしな。というか、よく驚きながら普通にレースができるものだね」


 藤倉は驚いていた。

 驚いてよそ見していたというのに、画面内のハッカンは普通にレースを続けていた。


「あっ、マッハさんへの対策としてラークルートはやり込みましたからね。頭に入っちゃってるんですよ」


「……ゲーマーじゃねえか」


 風斗とマッハが同じ感想を呟いていた。

 結果、満はノーミスでクリアしてしまう。二回にわたるショートカットとコーナリングのうまさで、誰もが敵わないような圧倒的なタイムを叩き出していた。


「三周で3分59秒か……。ハッカン使いでトップスピードが遅いからか、それほど更新できなかったね」


「最速記録を30秒以上更新しているのに、ハッカンだからもったいなく感じるな」


 藤倉とマッハは、それぞれに感想を漏らしている。

 いきなりのスーパーレコードだというのに、なんとも微妙な空気が漂っている。

 同じコースを風斗とマッハにも走ってもらったが、二人ともショートカットを成功させることはできなかった。

 満の異常さばかりが目立つ結果に、会議室の中はすっかり静まり返ってしまうのだった。

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