第247話 決着!配管工レーシング
世界チャンピオンの操るゴーリーから赤メットが噴出される。
ラークルートの後半のヘアピンカーブのある所でのことだ。ヘアピンカーブということは、光月ルナの操るハッカンとマッハ操るゴーリーとの距離が最接近している。
そして、このアイテムは障害物には阻まれるが、海や谷底のような地形は無視して飛んでくるという仕様なのだ。
それはどういうことかというと、赤メットは最短距離でハッカンに命中するということである。
このヘアピンカーブは、曲がった先の方が高所にあるのでショートカットは使えない。だが、直後に別のカーブがあるので、赤メットによって弾かれれば谷底一直線という危険な箇所だ。
万事休す、誰もがそう思った。
「甘いですね。赤メット対策はちゃんとしてるんですから。僕のアイテムを見て下さいませ」
光月ルナは赤メットが当たる直前にアイテムを使う。
ハッカンの体が虹色に光り始め、赤メットを弾き飛ばしてしまったのだ。
『あっ、アイテム欄のことを失念しとった』
『ステラやんけwwwww』
『ルナちもルナちで、よく引いとったな』
「なっ! くそっ、ショートカットで驚いて気が付かなかったぜ」
「ふふん、先程のあなたが引いたアイテム抽選の場所、僕もアイテムを引いていたんですよ。僕の方が運は上でしたね」
ステラで光りながら進んでいくハッカン。
光月ルナはステラ状態になってもまったく問題にせず、ラークルートをゴール目指して進んでいく。
「わー、私たち完全に空気だわぁ……」
「仕方ないぜ。しょせん、俺たちはただの数合わせだ」
トップ二人の熱い戦いに、すっかり参加していることすら忘れ去られていたアバター配信者の二人である。
「まあ、光月ルナの気遣いで俺たちも収益配分があるんだ。参加賞だと思って受け取っておこうぜ」
「そうだね……」
完全モブだった二人は、マイペースな状態でゴールを目指してカートを走らせたのだった。
結果は、光月ルナが5秒の差をつけてトップでゴールだった。
やはり、3周目で見せたあの第二コーナーショートカットが大きく響いていたようだ。
「やれやれ、完敗だな。あのショートカットは驚かされたぜ」
「はい、おそらくこのコースを選ぶと思って練習しておいたかいがありましたわ」
「……対策済みかよ」
光月ルナの種明かしに、マッハは苦笑いするしかなかった。
「あのインコーナーのジャンプコーナリングも驚かされたな。確実に成功させるとは、間違いなく世界トップレベルの腕前だぞ」
「そうでしょうか。今回はたまたまうまくいっただけだと思いますわ」
『たまたまで100%成功はしねえよwww』
『ルナち、煽んなし』
二人のやり取りにリスナーたちはお祭り状態になっている。
「いや、果たし状を叩きつけて正解だったな。これほどの腕前の持ち主がいるとは思わなかったからな」
マッハは実質の敗北宣言をしている。これにはリスナーたちからはどよめきが起きているようだ。
「なあ、今年の年末空いているようなら、どうだ、世界大会に参加してみないか?」
『ファーーッ!!』
『まさかのチャンピオンからのお誘い』
『こんな場面に出くわせるなんて、誰が想像しただろうか』
爆弾発言に、リスナーたちのお祭り具合がさらに加速していく。
時折スパチャが紛れ込んでいたが、嵐のように流れていくコメントの前には無力だった。
「うふふふ、考えておきますわ」
光月ルナも、どうやら乗り気のようである。
「それより、どうなさいますか? もう一勝負なさいますか?」
「いや、世界チャンピオンとしての意地もある。自分で決めた条件で負けたんだ、おとなしく引き下がろう」
「あら、残念ですわね」
『ルwナwちw』
『うわぁ・・・、やる気満々だぁ・・・』
『他のアバ信たちがドン引きしとるで、やめたげてよぅ』
結局あれやこれやとコメントが出たこともあって、結局はこの配管工レーシング対決は、一戦だけで終了することになってしまった。それだけこの一戦が濃すぎたのだ。
「おほん、まさか一周年記念だと言いますのに、これだけで終わってしまうというのは少々味気ない気がするのですが……」
「いやいや、濃すぎですって」
「そうそう。私たちが添え物にもならないくらい濃かったですよ」
参加してくれたアバター配信者たちからもこういわれる始末である。
「いえ、せっかくご協力いただいたのに、これといった見せ場もご用意できずに、申し訳ないと思いますわ」
「いえいえ、この場に同席させてもらえただけでも十分ですよ」
「ええ、そうですよ。改めまして、光月ルナさん、活動一周年おめでとうございます」
「ありがとうございます。姿を考えて下さった方、モデリングをなさってくれた方、配信を見て下さるリスナーたちの皆様のおかげで、僕も一周年を無事に迎えられました。本当にありがとうございますわ」
参加してくれたアバター配信者の言葉で、光月ルナは改めてここでみんなに対してお礼を述べている。
これにはみんなからも温かい言葉が返ってくるばかりで、心配されたアンチのような存在は見受けられなかった。
実はいうと、アンチもいるにはいたのだが、光月ルナの見事なまでの腕前に脱帽して黙ってしまったのだった。今では一緒に祝福する側に待っているのである。
こうして、光月ルナ活動一周年記念の配信は、大盛り上がりのうちに終了することができたのであった。