第243話 広がる衝撃
配管工レーシングの世界チャンピオンからの挑戦状を叩きつけられたことで、光月ルナのSNSへの書き込みが増えていた。
満はエゴサが面倒なのでマイペースにすごしているが、気になった風斗はエゴサをして唖然としたらしい。
『よう、満。大丈夫そうか?』
「あ、風斗、なにがなの?」
配信のない日に、風斗から電話がかかってくる。
心配そうな声で話し掛けてくる風斗だが、満は特に気にした様子がない。
『あー、お前エゴサしてないのか』
「見るだけ無駄だよ。多すぎて追えないし」
『それもそうだな。俺が代わりに見といてやるから、お前は一周年記念配信の準備を頑張ってくれ』
「うん、任せておいて」
満があまりにもあっけらかんとした様子だったので、風斗はあっさりと電話を切ってしまっていた。
心配してくれている風斗のことをありがたく思いながら、満は次回の配信の内容を一生懸命考えていた。
一方、満と通話を終えた風斗の方はため息が止まらなかった。
それというのも、エゴサをしてみた結果、宣戦布告から一日しか経っていないというのにまああれこれと書き込んでくれているようだ。
(まったく、これだから暇人どもは……)
風斗は書き込みを見て呆れかえっていた。
よく知りもしないであることないこと書けたものである。
もちろん、大半は配信で世界チャンピオンと光月ルナの対決を心待ちにしているファンたちの声だ。
しかし、妄言だけで光月ルナを貶めるような書き込みもあるのは事実。
風斗は学校で会った時に、店名と住所を隠した状態でレシートを公開するようには伝えておいた。不正改造を疑う連中が多いからだ。
わけも分からないで満は頷いていたが、こういう証拠だって重要なのである。
その日の夕方には、光月ルナのSNSが更新される。
その呟きには、満天楼リチェンジと配管工レーシングを購入した時のレシートの画像が貼付されていた。もちろん、個人情報が特定されそうな部分は付箋で隠された状態でだ。
日付は例のハッカンでのプレイ配信をした日の前日だ。ちなみにだが、満が配管工レーシングを初めて遊んだのは、その二日前である。
うん、なにかといろいろおかしいのである。
(根っからのゲーマーでもこうはいかねえよ。あいつは本気でバケモンだ)
風斗がこう思うくらいには満はおかしいのである。
光月ルナのポストには次々とコメントが書き込まれていく。
『プレイ配信の前日購入wwwww』
『友人に遊ばせてもらって即購入とか、本気すぎやろwww』
『この量販店なら正規品で間違いないな、新品しか扱ってないし』
『プレイ歴三日であの腕前?
いや、シルバレのことを思えば当然かな』
『全敗した友人、同情するぜ…』
ほとんどがプラスの反応である。自分に対する気遣いまで混ざっていて、つい笑ってしまう風斗だ。
しかし、全体のコメント数から見れば少ないが、やはりいくらかおかしな書き込みが出てくるものだ。
風斗は親友を守るために、攻撃的すぎるものには通報処理を施していく。
「よく知りもしねえで、よくもそこまで言えるもんだな」
子どもながらにも呆れてしまう程だった。
エゴサの真っ只中、風斗のスマートフォンが鳴り響く。画面を見てみるとそこにあったのは世貴の名前だった。
「世貴にぃ、どうしたんだよ」
『いやあ、風斗。なんか大変なことになっているみたいだな』
「ああ、あいつの腕前が化け物すぎるんで、やっかみが起きてるみたいだ」
どうやら心配になった世貴が風斗に状況を確認しに来たようだ。
『アバ信だから身元が割れることは考えにくいが、もしもっていう時はお前が満くんを守ってやるんだぞ』
「分かってるよ。それはそうと世貴にぃ」
『なんだ?』
「衣装はできそうか?」
『それなら心配はない。くれぐれも満くんの周辺には気を付けてくれよ』
風斗の質問に答えた上で言いたいことだけ言うと、世貴からの通話は切れてしまった。
世貴も満のことが心配でたまらないようである。自分の腕前を証明できるのは現在は光月ルナだけだから、世貴も必死なのだろう。
ところが、世貴は現在、満の一周年記念の衣装を手掛けている最中だ。よくチェックする暇があるというものである。
(満もバケモンだが、世貴にぃも十分バケモンだよなぁ……。俺の周りって人間離れしたやつ多くないか?)
おかしなことに気が付いてしまう風斗だった。
「はぁ……、疲れたぜ」
エゴサが終わった風斗は背伸びをしている。
気が付けば2時間以上が経過していて、すっかり時間は夕ご飯の時を迎えていた。
「とんでもねえ量の書き込みの数々だったな。これが有名になるってことか」
さすがに世界チャンピオンの登場には驚かされた。
このことで注目されるということはどういうことか、まざまざと見せつけられたのだった。
世界チャンピオンとの対決が待ち遠しい、光月ルナの一周年記念配信まで二週間程度。
満本人はいたってマイペースでいる中、周囲はだんだんと熱狂の渦に巻き込まれつつある。
一体当日はどうなってしまうのだろうか。風斗は心配でたまらないようだった。