第240話 お試し配管工配信
それから一週間が経過した日のこと、満は光月ルナのSNSに一周年記念配信の内容を書き込んだ。
『一周年記念配信では、配管工レーシングのプレイ配信を行うことにしました。挑戦者求むですわよ』
この投稿がなされるや否や、ものすごい勢いでいいねやリポストがされていく。
あまりのスマートフォンの暴れ具合に、満は久々に通知オフに設定してしまう程だった。
「反響がすげえな、満」
「う、うん……。配管工レーシングって、そんなに人気なの?」
「まあなぁ、非公式ではあるものの、大会が行われるくらいにはな」
「ふえええ……、そうなんだ。知らなかったよ」
風斗から返ってきた答えの内容に、満はとても驚いていた。
クラスの中で一緒に話していることから、今日の満は女の子である。男の子であるなら一緒にいるのは香織なので、当日の性別は明白である。
満は男女どちらでもほとんど態度が変わらないのだが、さすがに目の前にいる風斗はそうはいかなかった。
成長期に入った満の体型は、男女ではっきりと違いが出てきている。そのせいもあって、女の子の状態の満を相手にする時、風斗はちょっと落ち着かなくなる時があるようだ。
「しっかし、一周年記念の企画で、配管工レーシングの対戦相手を募るとは、またでかいことに出たな」
「まあね。風斗とプレイしてみて、なかなか楽しくなってきちゃったからね。だったら、アバター配信者らしく、他の人も巻き込んでみようかなーってね」
「まっ、いいかもな。個人勢なせいもあって、真家レニ以外ほぼ知り合いがいないからな」
「ぶぅ……」
風斗にすっぱりと言われて、満は唇を尖らせていた。かなりご機嫌斜めになったようだ。
「まっ、当日どのくらいのゲーム参加者が集まるか楽しみだな」
「そうだね。というか、僕とどのくらいの人が遊んでくれるんだろうなぁ……」
楽しみにしている一方、満は不安もあるようだった。
こういうイベントじみたことは初めてなだけに、不安が付きまとってしまうというものだ。
「とりあえず、当日までに一回配管工レーシングの配信をしておいた方がいいな。当日になって慌てるとかなったら、目も当てられないぜ」
「うん、そうしよう。それは配信者としては情けない限りだし」
そんなわけで、次の配信で早速配管工レーシングの配信をすることが決定した。
はたして、満の腕前を見たリスナーたちの反応はどのようなものなのか。
次の配信日が巡って来て、満はいつものように配信を行う。
この日のために、わざわざリチェンジと配管工レーシングを購入してきた上、メンバーズサイトにまで登録を済ませた満。それは実に本気というものだった。
「みなさま、おはようですわ。光月ルナでございます」
『おはよるなー』
『おはよるな~』
いつもの挨拶が返ってくる。
「さて、本日の配信は、一周年記念の企画を前に動作確認を兼ねて配管工レーシングの実演配信を致します」
『マジかよ』
『wktk』
リスナーたちの反応は、驚きと期待に満ちたものだった。
「当日にあたふたしないためには、予行演習というものは必要ですわ。ですので、本日はそのテストというわけでございます」
『りょ』
『予行演習助かる』
リスナーたちも興味津々のようである。
というわけで、配信画面内にゲーム画面を表示させる。SILVER BULLET SOLDIERのように全体窓ではなく、部分窓で表示している。
「ちゃんと映ったようですわね。ひとまず、配信はできるということが分かりました。では、早速『ひとりで遊ぶ』でプレイを始めたいと思いますわ」
満は早速キャラを選択する。
『よりによってそれ選ぶんかい』
『配管トカゲかよ』
通称ハッカンと呼ばれるデフォルメされたトカゲキャラを選ぶ満である。
加速力が高いが、最高速度が遅いというキャラクターだが、満はこれで風斗に無敗を誇ったのだ。
満が選んだキャラに対しては様々な反応があったが、いざゲームが始まるとみんなすっかり黙り込んでしまった。
『嘘だろ・・・?』
『ハッカンでラップ平均1分切り?』
『短いコースだからタイムが早くなるのは分かるけど、ハッカンでこのタイムはねーわ』
『ステラ取ったとしてもなぁ・・・』
『まさか改造?』
いろいろと憶測が飛ぶ。
「いえ、正規販売店で購入した新品ですよ」
『嘘だろwww』
『ルナちてうい』
満の証言に、リスナーたちは驚愕していた。
だが、これは嘘ではない。街にある電器屋で満自身が購入したものである。もちろん、アバター配信者の収益を使った自腹購入だ。
『でもまあ、シルバレの腕前からしても、ルナちってゲーム強そうだからな・・・』
『うむ、納得がいきそうな結果ではある』
一部のリスナーはSILVER BULLET SOLDIERを引き合いに出して、無理やり納得しようとしていた。
つまりは、全員ドン引きである。
「おほん。とりあえず当日は挑戦者をお待ちしておりますので、チャンネルかSNSにてDMを送って下さいませ」
『これ、挑戦者現れるんか?』
『いやぁ・・・』
『当日が楽しみだー』
なんとも困惑しているリスナーたちだった。
光月ルナの配管工レーシングのお試し配信は、なんとも言えないどよめきの中無事に終了した。
はたして一周年記念で挑戦者が現れるのか、リスナーたちの注目はそこに注がれることになったのだった。