第239話 呼び出される風斗
翌日のこと、満は早速風斗に連絡を入れる。
「風斗、ちょっといいかな?」
『おう、なんだ?』
朝早くからだというのに、風斗は気前よく応じてくれている。さすが親友といったところだ。
「配管工レーシングって持ってるかな?」
『うん? 配管工レーシングか。あるけどどうしたんだよ』
突然満から持ち掛けられた相談に、どうやら面食らってしまったようだ。
風斗は電話越しに満に理由を尋ねている。
『ああ、なるほどな。一周年記念の配信で、何かして欲しいかと聞いたら、名前が挙がったと……。そういうわけか』
「うん、そうなんだ。配管工レーシングって、配信に許可いったっけ?」
『いや、許可は要らないな。ただし、オンライン対戦では名前が出るから、相手の了承が必要ってくらいだな。お前はあまり他のアバ信に興味はないようだが、結構配信しているアバ信はいるぞ?』
「あっ、そうなんだ」
風斗から話を聞いて、満はちょっとびっくりしたような反応を見せている。
どうやら本気で知らなかったようである。
『んー、一周年記念の配信としては、あまりふさわしいようには思えないんだよな。でも、お前がやりたいっていうのなら、貸してやらない手はないけどな』
風斗からは厳しい意見が出ている。
そのせいか、満は本気で悩み始めてしまったようだ。
『まあ、他人と同じってのが嫌なら、俺は別にいいんだぜ。でも、逆に考えれば他のアバ信とも絡みやすくなるともいえる。なんといってもお前は他人との交流が少ないんだからな』
「ううっ、そう言わないでよ、風斗……」
痛いところを突かれたらしく、満は困ったような声を出して訴えている。
この反応には、さすがに風斗も意地悪そうに笑ってしまっていた。
『まっ、とりあえず試しに一回遊んでみるか。これから行くから部屋で待ってな』
「あ、うん。ごめんね、わざわざ」
『いいってことよ。親友なんだから、これくらいは普通さ』
それと同時に通話は切られてしまった。
掛け直そうかとも思ったが、ああなっては風斗は止められないだろうと、満は諦めてやって来るのを待つことにしたのだった。
それから三十分後……。
「おっす、お待たせ。って、やっぱり女になってるのかよ」
「うん、すっかり日替わりだよ……」
風斗に言われて苦笑いをするしかない満である。
とはいえ、今はそんなことはどうでもいい。
お目当てのものを持ってきているのか、満は風斗に確認する。
「ちゃんと持ってきてるぜ。ほれ、満天楼リチェンジと配管工レーシング。それとモニタをつなげるケーブルな」
「あ、ありがとう。出力ケーブルまで持ってきたんだ」
「一応周辺機器も全部買ってるんだよ。でっかい画面で遊びたいからな」
「そ、そうなんだ」
風斗の準備の良さに、満は驚かされるばかりである。
「とりあえずパソコンにつないでくれ。動作を確認してみないといけないからな」
「あっ、そうだね。ちょっと待ってて」
満はつなげる前にやり方をインターネットで調べる。
「むぅ、キャプチャボードがないと映せないんだね」
「難しいことは分からないが、いろいろあるんだろうよ」
どうやら、配信用に映すには、間にワンクッション挟まなければならないらしい。
だが、どういうわけかそのための機材も、風斗が持ってきたものの中に入っていた。
「これがあれば撮影できるらしいよ」
「おっ、必要だって世貴にぃから聞かされて買っておいたやつだ。いや、持ってきて正解だったぜ」
なんともまあ、世貴の差し金だったらしい。最初からこの事態は予測していたのだろう。
「風斗、今度お礼させてもらうね」
「おう、それよりも世貴にぃに言ってくれ。舞い上がるほどに喜ぶぞ」
「ふふっ、今度にでも言わせてもらうよ」
満は白い歯を見せて意地悪そうに笑っていた。
その表情に思わずドキッとしてしまう風斗である。
「風斗、どうしたの?」
「い、いや、なんでもない。それよりもさっさとつなげちまえよ」
「あ、うん。そうだね」
顔を背けながら大きな声を出す風斗の態度をおかしく思いながらも、満は調べた手順に従ってリチェンジとパソコンをつないでいく。
無事に画面に映ったので、次に撮影用ソフトを使って録画できるかを確認する。
あまり長い時間ではなかったものの、撮影した映像をすぐに確認してみると、音声も含めてばっちり録画されていた。
「やったよ、風斗。ちゃんと録れてるよ」
「おう、よかったな」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ満の姿に、風斗はついつい笑ってしまう。
「なんだよ、風斗。笑わないでよね」
「悪い。飛び跳ねて喜ぶ姿がおかしかったもんだからな。ぷくくくく……」
「もう酷いよ、風斗!」
ぽこぽこと風斗を叩く満である。
「痛いな、やめろよ、満」
風斗が腕をつかんで動きを止めると、その時、思わず満と目が合ってしまった。
「わ、悪ぃ……」
「どうしたの、風斗」
顔を真っ赤にして下を向く風斗だが、満は相変わらずきょとんとして不思議そうに風斗を見つめていた。
なんて鈍いのやら。
「とりあえず風斗、パソコンに画面が映ったから、配管工レーシングをして遊ぶよ」
「お、おう。負けないからな!」
このあと配管工レーシングをして遊んだ二人だったが、どういうわけか初プレイだった満の全勝で終わったのだった。
満って実は相当なゲーマーなのではないだろうか。
そう思わされる風斗なのであった。