第232話 夏休み最後の日曜の真家レニ
「こんばんれに~」
『こんばんれにー』
『こんばんれに~』
家に帰った満は、久しぶりに真家レニの配信を見ている。
夏休み中は真家レニの配信は増えていたのだが、ただちょっとばかり内容が縮小傾向にあった。やはりリアルが忙しいのだろう。
「にししし、ちょっと配信内容が薄くてごめんねぇ」
『問題ナッシング』
『リアルの方が大事だからな』
『レニちゃんが見られればオッケーです』
「みんな、ありがとうね」
温かいリスナーの言葉に、真家レニは嬉しそうな声で感謝を呟いている。
「とまぁ、しんみりするのはよろしくないし、今日は全部盛りでいっちゃおうか」
『何をする気だwwwww』
『全ww部ww盛wwりww』
リスナーたちが大げさに反応している。
「夏の終わりには大きな花火をどーんと打ち上げるものだよ、にしししし」
そんなわけで、楽しそうな様子で真家レニはいきなり『SILVER BULLET SOLDIER』を始める。
夏休み限定ミッションも次のメンテまでなのだ。最後にド派手にかますつもりのようである。
「リスナー、乱入するかい?」
『レニちゃんの腕前について行けるわけがねえ』
『レニちゃんの凄腕が見たいんじゃあ!!』
真家レニが誘うものの、リスナーたちは誰も乗ってこなかった。
それもそうだ。真家レニの腕前は世界でもトップクラスに入る。素人が参加したところで足を引っ張ることしか考えられないからだ。
そんな中だった。一人の猛者が真家レニの乱入の呼び掛けに乗った。
『【光月ルナ】では、せんえつながら・・・』
『ふぁっ!?』
『ルナちキターーーー(゜∀゜)ーーーー!!』
『レニちゃんの隣に立てるのは、リスナーの中ではルナちしかいねえ!』
『本 命 降 臨!!』
満が乱入すれば、リスナーはお祭り大歓喜である。
「あれれ、ルナちかぁ……。しょうがないにゃあ」
真家レニはそういうと、とあるクエストを選択する。
『当然のようにSSSランクwwwwwwww』
『安定のおにちくww』
『やっぱりシルバレ配信ならこうじゃないとなあっ!!(歓喜)』
コメントがさらに盛り上がっていく。
「みんなに合わせてお祭りを楽しもうと思ったのに……。本気出さなきゃいけなくなったじゃないのよ」
『くるか・・・、鬼のレニちゃん』
『本気モードのレニちゃんktkr』
そんなわけで、真家レニと光月ルナによる共闘クエストが始まった。
『見ろ、敵がごみのようだwww』
『ああ、フライパンのバターのように敵が溶けていく』
『ストップウォッチの秒未満のようなカウントアップwww』
目の前の非現実的な現実に、コメント欄はお祭りモードだった。
そして、そうこう言っている間にあっという間にボス突入である。
『ふぁっ!?』
『おい、1分半やぞwww』
『この二人、並外れすぎやろ・・・』
『俺たちは・・・伝説の目撃者になるのか・・・』
リスナーがそうこう言っている間に、ボスのゲージが削れていく。
「固いねぇ」
『なんかギミックありそうやな』
今までは数発で沈むことのあったボスが、数十発当てても倒れない。いつも以上に耐久があるようだ。
*【光月ルナ】あっ
満が何かに気が付いたらしい。
*【光月ルナ】えい
短い文を打ち込むと、満はボスの眉間に狙いを定める。
ズドン!
一気にゲージが削れた。
「おー、眉間が弱点かぁ。どうりで顔を執拗に守ってるはずだよ」
弱点が分かれば後は早い。
注意を引いてガードを甘くすれば、弱点にズドン。
あれだけ削れなかったボスが、眉間にたった三発撃ち込んだだけで倒れてしまった。
「やりぃ☆」
『ほえ~、気付かんかった』
『【光月ルナ】ずっと顔を手で隠すようにしてたので、なんでだろうなと思ったのですわ』
『ルナち、ナイス』
満のナイスアシストに、称賛のコメントが流れていく。
「いやあ、2分29秒かぁ。ちょっと届かなかったね」
『いやいや、十分早い』
『ワイらやったら、開幕の襲撃であぼんしとる』
真家レニは悔しそうなコメントをしているが、リスナーたちからは褒められるばかりだった。
「二度目はさすがにやめておくかな。初見で見抜けなかったレニちゃんの負けなのだ」
『潔くてえらい』
そんなわけで、あっという間に『SILVER BULLET SOLDIER』の配信を終わる。
続けて、時々しているイラストを描くコーナーに移る。
「今回は珍しく、リアルの人を描こうと思います」
『おおっ、誰や誰や』
『リアルの人物は珍しい』
「ちなみに、ご本人様には許可を頂いています。早速描いていっくぞー☆」
『本人許可済とは強い』
リスナーとやり取りを終えて、真家レニはさらさらと絵を描き始める。
さっきの『SILVER BULLET SOLDIER』の配信との落差がすごい。
『まったくうまいなぁ、レニちゃんは』
『そして、いつもの通りの描き順のおかしさよ』
『なんで、リアルの人物でこんな描き方できるん?』
リスナーたち、大混乱である。
「はい、できました」
『誰?』
『おお、イリスか』
『知らんぞ』
『かー、その程度の知名度なのか』
どうやらイリスの知名度はものすごく低そうだった。
「にししし、レニちゃんの知り合いだから、応援よろしくなんだぞ☆」
『りょ』
こうして、真家レニの配信は終わる。
なんともドタバタした夏休み最後の土日は、花火のように華やかな一瞬を見せたのだった。