第221話 美少女と花火と配信と
「おはようですわ、みなさま。光月ルナでございます」
『おはよるな~』
『おはよるなー』
父親の実家から戻ってきて、実に初めての配信である。
『やっとルナちの配信が始まったぞー』
『うう、やっと戻って来たんだ』
『長かったぜ、この一週間・・・』
ひと声聞いただけで、リスナーたちのこの反応である。これにはかえって満の方が困惑してしまう。
「え、ええ……、そうですのね」
『ルナちにはルナちの安心感があるからなぁ』
『つまりは、ワイらはルナちの配信を待っていたってこと』
『せやせや』
『ルナちはいつも通りしてくれたらいいんだよ』
満の反応ひとつで、リスナーたちからは大量の反応が返ってくる。さすがは個人勢のトップクラスになってきただけのことはある。
みんなからの優しいコメントに、満はつい感動してしまう。
「本当にみなさま、ありがとうございます。本当にお優しい方ばかりで、僕は嬉しく思います」
『ええんやで』
『ルナちは愛でるに限るからね』
『ルナちの笑顔こそ、我らの宝!』
満がお礼を言えば、さらにリスナーたちはヒートアップしていく。本当に心から光月ルナのファンたちなのである。
『休止中の投稿動画を見たが、渡したものがちゃんと動いてくれたようで安心したよ』
『ま た あ ん た か』
『毎回いるよね』
こういうコメントをするのは、言わずと知れた光月ルナのモデラーである世貴である。
世貴は満の配信を最初期からずっと見続けている古参かつ固定のリスナーである。
「ふふっ、またモデラー様がいらっしゃるのですね。本当にいつも素晴らしいものをありがとうございます」
満は頬に手を当てながら、世貴にお礼を言っている。
「ですが、いくらなんでもリアルすぎませんかしらね。ねずみ花火はあちこち動き回りますし、破裂した後はクロワとサンがびっくりして僕の後ろに隠れちゃうんです」
『あー、見た見た。可愛かったよな、クロワとサン』
『ねずみ花火って、そういや最後に破裂したんだよな』
『打ち上げ花火でちゃんと音が入ってるのはどういうことなのかしら』
リスナーたちが花火の話で盛り上がっている。
『リアルにこだわるのが俺のポリシーでね』
世貴は世貴で、涼しい反応である。
「まったく、モデラー様には頭が上がりませんわね。僕の人気を支えている要素でもありますし」
『いやぁ、俺なんて大したことないよ。ルナちの魅力あってのことさ』
『こやつ・・・、謙遜してるぞ』
『できる・・・っ!』
世貴の反応にリスナーたちはうち震えている。
もしかしたら、光月ルナにアンチがつかない理由は、このモデラーのおかげではないかと。
『というわけだ、俺が手掛けた子をもっと愛でてやってくれ』
『ははー・・・』
リスナーたちはひれ伏していた。
「まったく、敵いませんわね、モデラー様には」
満もついつい笑ってしまっていた。
「それでは、本日の配信では、そのモデラー様がの努力の結果をお見せ致しましょう。着替えてきますので、ちょっとお待ち下さいませ」
『おっ、ルナちのお着替えだ』
『いつもの衣装から何に変わるんやろ』
リスナーたちがわくわくしながら待っていると、画面には浴衣に着替えた光月ルナが現れた。
「絵師様とモデラー様が頑張って下さったそうです。どうでしょうか、浴衣は」
浴衣に着替えて現れた光月ルナに、リスナーたちは大興奮のようである。
『いい・・・』
『吸血鬼に浴衣ってどうかと思ったが、似合っとるやん・・・』
『俺は今日という日を忘れないぞーっ!!』
実に騒がしくなっていた。
「ふふっ、ありがとうございます。本当に素晴らしい衣装を用意して頂いた上に、みなさまに褒めて頂けるなんて」
満はクロワとサンを召喚する。
呼び出された二匹は、光月ルナにすぐにすり寄っていた。
「では、せっかくですから本日は、先日投稿しました花火をリアルタイムでお見せ致しましょう」
満が言えば、リスナーたちは大興奮である。世貴が作り出したあの変態技術を実際に見られるのだから。
可愛いアバターと中の人と常軌を逸したモデリング技術。そのすべてを一度に目撃できるのは、この光月ルナの配信だけなのである。
満は、庭へと移動して様々な花火を見せた。
線香花火、ねずみ花火、それと打ち上げ花火。そのどれもが、なんともリアルなものだった。
『なんか、本当に自分も花火してる気分になったぜ・・・』
『これがバーチャルなんだぜ・・・』
『打ち上げ花火は、リアルに声が出ちまったぜ』
『おまいもかwww』
『俺がいっぱいいるぞ』
どうやら打ち上げ花火では『たまやー』や『かぎやー』という掛け声を出してしまったリスナーが大勢いたようである。
『計 画 通 り』
トドメは世貴のこのコメントである。
コメント欄は大草原だった。
そんなこんなで、いい感じの時間を迎える。
「お時間もよろしいようですので、本日はこのくらいにしておきましょう」
『もうそんな時間か』
『楽しい時間はあっというまやなぁ』
リスナーたちも名残惜しそうである。
「それではみなさま。暑い日がまだまだ続きますので、お体にお気を付け下さいませ。ごきげんよう」
『おつるな~』
『おつるなー』
『ルナち、マジ天使』
『吸血鬼やぞwww』
お盆あとの配信一発目はこうして無事に終えることができたのだった。