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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
219/321

第219話 賑やかさと……

 十四日は墓参りをして、十五日にはみんなは仕事が始まるので帰っていくことになる。

 親戚との再会も実質二日程度で終わりを迎えてしまう。


「ほっほっほっ、孫たちまでやって来て、実に楽しかったわい」


「ええ、そうですね、おじいさん。ご先祖様たちも、きっと喜んでくれているでしょうね」


 祖父母が満たちを見送りに、玄関先まで出てきていた。


「こっちも、お父さんたちが元気そうで安心しましたよ」


 満の父親が言葉を返す。


「何をいうか。ひ孫の顔を見るまでは死ねぬぞ」


「本当ですね。誰が見せに来るのか、楽しみですね」


「いやいや、競争じゃないんですからね。それは子どもたちにちょっと酷というものじゃないですかね」


「ほっほっほっ、久志め、言いよるのう」


 祖父は実に楽しそうに笑っている。


「孫たちも、いつでもまた来るといいぞ。わしらは常に歓迎するからな」


「はい、また来させてもらいます」


「まあ、早くても年末でしょうけれどね。去年はちょっといろいろあって来れなかったですけれど」


「そうだぞ、久志。年末に帰ってこなかったの、お前だけだったんだからな」


 満の父親が困った顔をしていると、影郎が突っかかってきた。


「そうよ。私の方は夫だけは自分の実家に戻ってたけれど、年末年始には顔を出したのよ?」


 日向からも責められる始末である。


「まったく、花穂(かほ)の高校受験だってあったのにね」


「お母さん、私がいいっていったんだから、そこは責めるポイントじゃないわよ」


 満の父親を責めるつもりが、娘から思わぬ妨害を食らってしまっていた。


「今年は星太(せいた)の高校受験だけど、おじいちゃんには会いに来るわよ。ね?」


「俺はそのつもりだよ。年末はゆっくり過ごしたいしな」


 花穂に同意を求められた星太は頷いている。


「でも、アバター配信者の配信を見ながら騒ぐ姉貴に比べれば、友人連中の方がまだマシなんだがな」


「言ったなー?」


 弟からいろいろとばらされて、花穂はヘッドロックをかけて頭に拳を擦りつけている。


「なんだ、花穂はアバター配信者にはまってるのかよ。おとといもめちゃくちゃ語ってたしな」


「ええ、はまってるわよ」


「ほう、どうしてかね?」


「なんというか、身近に感じるのよね。コメントとはいえど、直にやり取りできるアイドルみたいな感じかな」


 花穂はにっこりとしながら話している。


「おいおい、話はそのくらいにしておこうじゃないか」


 影郎と満の父親が止めに入る。


「真昼間で暑いし、これから帰るところなんだ。長話をしてたら誰かが倒れるかもしれないだろ」


「はーい。それじゃ仕方ないわね」


 花穂は残念そうな顔をしながら、渋々話を打ち切っていた。


「ごめんなさいね。花穂ってばアバター配信者に本当に夢中でね。なんでもオーディションを受けるって書類出したのはいいけど、落とされちゃったみたいなのよね」


「えっ、それは本当なの、花穂お姉ちゃん」


 日向の話を聞いて、満が花穂に迫っている。


「え、ええ」


 困惑しながら反応する。


「Vブロードキャスト社の第五期生のオーディションだよね。お盆前に二次審査やるって話だったから」


「そ、そうよ。詳しいのね、満って」


「あ、うん。僕の友だちにもアバター配信者に詳しい人がいてね。そこから話を聞いてるんだ」


 聞き返されて適当にごまかす満である。自分がアバター配信者をしていることも、自分で仕入れた情報だということも、話せないのだからしょうがない。


「そうなのね。あっ、満もアバター配信者やってみないの?」


「えっ、僕が?!」


 花穂から話を振られて、満は思いっきり驚いている。


「そうよ。知ってるアバ信に声が似てるし、きっと大うけだと思うよ」


「へ、へえ~。ちなみにそれは誰のこと?」


「光月ルナ」


「ぶほっ!」


 まさか自分のキャラの名前が出てくるとは思わなかったので、満は思いっきり吹き出してしまう。


「はいはい、話はそれまでよ。さっきもいったでしょう?」


 日向が花穂の口を塞いで、会話を強制終了させていた。


「ごめんなさいね。この子ってば本当にアバター配信者のこととなると目の色変わっちゃうから」


「あ、いえ。僕が話題を振ったのが悪かったんです」


「満くんは優しい子ね。それじゃ、また年末に会えるのを楽しみにしているわね」


 日向は花穂を引きずりながら、夫と星太が待つ車へと向かっていった。


「それじゃ、私たちもそろそろ戻ろうか」


「そ、そうだね」


「それじゃ父さん、達者で」


「うむ、久志たちも元気でやるんじゃぞ」


 それぞれの家族で挨拶を交わすと、満たちも車に乗り込む。

 順番に去っていく子どもたちの家族を見送りながら、祖父母はしばらく高速道路のある方向を眺めている。


「……一気に静かになりましたね、おじいさん」


「そうじゃな。まったく、お盆の三日間というのは経つのが早いわい」


 暑すぎる夏は、セミの声すら聞こえてこない。たださんさんと太陽の光が降り注ぐだけである。


「さて、次にやって来るのは暮れか」


「そうですね」


「だったら、その時は家で採れた野菜で出迎えてやらねばな。ばあさん、畑に行くとするかの」


「はい、おじいさん」


 家の中に一度引っ込んだ祖父母は、今日も元気に畑仕事に向かったのだった。

 次に子どもや孫たちと会える日のために。

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