表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
216/231

第216話 満と父親

 久しぶりの祖父の家ではあるものの、満は収益で購入したタブレットを持ってきていた。

 スマートフォンでもいいのだが、いかんせん画面が小さい。ノートパソコンでもいいのだが、意外と重たい。そこで、タブレットを購入して持っているのである。

 しかし、アバター配信者になってまだ一年も経っていないというのに、ずいぶん稼いでいるものである。


「おや、満。いいものを持ってるじゃないか」


「あれ、お父さん。おじいちゃんと話してたんじゃなかったの?」


「ああ、もう終わった。俺も荷物を置きに来たところだ」


 父親が荷物を降ろすと、どさりという重い音がする。

 何かと思ったら、かばんの中からノートパソコンが出てきた。


「えっ、なんで持ってきてるの?」


「勤め先はお盆休暇に入ったが、業務までが休みとは限らないんだよ。対応するわけじゃないけれど、どんな要望が入っているのか、チェックはしておかないとな」


「た、大変だねぇ……」


「サービス業のつらいところさ」


 父親は困った顔をしている。


「そういう満はどうしたんだい、そのタブレット」


 父親が話題を振ってくる。


「うん、PASSTREAMERの自分のチャンネルをチェックしておこうと思ってね。いとこたちが来たら一緒に遊ぶけれど、やっぱり僕も気になっちゃうからね」


「まあ、そうだろうな。お母さんから聞いているぞ。ずいぶん人気だってな」


「うん、まあ。これを自分で買えるくらいには稼いでるよ」


「ははっ、息子に負けてられないな」


 タブレットを購入できるくらいの稼ぎを持つ満に、父親は対抗意識を燃やしている。息子相手に何をムキになっているのだろうか……。


「そういえば、先日のコンテストの結果、教えてもらってないな。あれはどうだったんだ?」


「えっ、あっ、うん……。二位だったよ。5000票くらいの差で」


「おお、そうか。頑張ったな、満。まったく、一年も経ってないのにそこまでやれるとはな」


 興奮した父親は、満の背中をバンバンと叩いている。


「い、痛い。痛いよ、お父さん……」


「ああ、すまないな。つい興奮してしまったようだ。悪い悪い」


 謝りながらも、父親はつい笑っていた。


「そうだ、荷物を置いたら近所を散歩するか。せっかく俺の実家に来たんだからな」


「そうだね。そうするよ」


 荷物を置いて一段落した満と父親は、母親に声をかけて近所の散策へと出かけていった。


 父親の田舎は、都会的な光景と田舎の風景が同居しているような静かな町だ。

 鉄道も走っていない場所ではあるものの、高速道路がかすめているのでそこそこ交通の便はある。

 そんな静かな町でも、少しずつ変化は起きているようだった。


「ショッピングモールが出店してるのか」


 家からちょっと離れたところに、小売り大手のショッピングモールができていた。


「去年はまだ工事中だったが、知らない間に完成してたんだな。便利にはなるが、なんともこの田舎には似つかわしくないな……」


 父親はどことなく歓迎していないようである。


「お父さんは嫌なのかな」


「便利になるのが嫌ってわけじゃないんだが、どこにでもあるとなると、どこにいても変わらない気がしてな。なぜか受け入れられないんだよな」


「ふうん、そういうものなのかな」


 父親の言葉に、満はちょっと考え込んでしまう。


「といっても、あればつい使ってしまうんだけどな。人間、便利には勝てないんだよ」


「ははっ、そういうものなんだね」


「そんなもんだよ」


 父親と一緒になって、満は笑ってしまう。


「おんや、空月さんとこの息子さんかい? 久しぶりだねぇ」


「ああ、おばちゃんじゃないですか。お久しぶりです。畑仕事の帰りですか?」


「うんにゃ。老人会の集まりの帰りさね。畑はまた涼しくなってからだね。こうも暑いと、外での作業もつらくてかなわんからねぇ」


「ああ、熱中症とかいろいろ言って危険ですからね。お体にお気をつけて」


「心配してもらって悪いねぇ。あんた方も気を付けるといいよ」


「ありがとうございます」


 手押し車を押しながら、近所のおばあさんがゆっくりと歩いて去っていく。

 出会って会話をするというのも、こういういなかならでは風景である。


「お父さんは知ってるんですか、今の人」


「ああ、小さい頃に畑に入ってよく叱られたご近所さんさ。満は会ったことがなかったんだっけかな」


「う~ん、覚えてないですね」


「そっか。まぁここに来ることもまれだから、しょうがないかな」


 会話をしながら、満と父親は近所の散歩を続ける。

 途中にあった自動販売機でジュースを買って飲みながら、30分ほどの散歩を終えて家へと戻ってきた。


「ただいま。いやぁ、暑くてたまらないな」


「お帰りなさい。まったく、汗ぐっしょりじゃないですか。もう出かけないんだったらお風呂にでも入ってさっぱりしてきて下さいよ」


「ああ、そうさせてもらうよ。満、久しぶりに一緒に入るか」


「うん、そうするよ、お父さん」


 父親の実家にやって来た当日のことである。

 満がこれだけ父親と行動したの一体いつぶりだろうか。

 普段はあまり交流はしていないが、父親と満の関係も思ったよりは良好のようである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ