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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
213/321

第213話 なんだかんだで頼りになる人

「で、なんで俺が花宮にカラオケに誘われているんだよ」


「ごめんなさい、村雲くん。相談できる相手があなたしかいなかったの」


 Vブロードキャストに呼び出された翌日のこと、香織は風斗を呼び出していて、駅前のカラオケボックスにやって来ていた。


「村雲くんなら、秘密を守ってくれるかなと思って。本当につき合わせちゃってごめんなさい」


「まあいいよ。夏休みの宿題も終わって暇だったし。で、なんなんだよ、用事っていうのは」


「うん、守秘義務っていうのもあるけれど……」


 香織はかくかくしかじかと事情を説明し始めた。

 それを聞いた風斗は険しい表情をしながら腕を組んでいる。


「あのなあ……。漏洩だぞ、それは。世貴にぃのこともあって、俺はその手の話は詳しいからな」


「分かってる。分かってるけれど、私が『黄花マイカ』だって知っているのは村雲くんだけだし、相談がしやすいから」


「そういうのは両親でいいだろうがよ」


「いや、なんだか、お母さんたちだと恥ずかしくって……」


「……わけが分からねえ」


 風斗は香織を咎めているのだが、香織の言い訳を聞いて顔がますます引きつっていっている。

 最終的には大きなため息をついていた。


「分かったよ。カラオケを聞いて歌の特訓に付き合えばいいんだろ。カラオケの採点機能だけじゃダメなのか?」


「ひ、一人カラオケは気が引けるのよ」


「なるほどなぁ……」


 香織の言い分が分からなくはないので、仕方なく風斗は香織のカラオケによる特訓に付き合うことにした。


 サマーフリータイムという12時間の長時間フリータイムを使って、夕方まで一曲一曲ジャンルを変えながら歌っていく。

 風斗もよくそんな地獄のような状況に最後までつき合ったものである。


「う~ん、カラオケの採点機による評点は67点から96点までばらつきが大きかったな」


「む、難しいね」


 結果を目の当たりにして、風斗と香織はここまでを振り返っている。


「それにしても、ずいぶんとジャンルをばらけさせていたな。一応知ってる曲だったみたいだが、理由はあるか?」


「うん、アイドル路線になったとして、どんな歌を歌うか分からないから、できる限りどんなジャンルでも歌えるようになっておこうと思ったの」


「なるほど、一理ある。だがな、花宮は重要なことを忘れている」


「えっ?!」


 香織の話を聞いていた風斗は、問題点を指摘する。


「アイドルってことは、歌って踊れることが基本だ。つまり、ダンスもすることになるんだ。花宮、お前、運動は得意か?」


「うっ……」


 風斗の指摘に、香織は思い切り黙り込んでしまう。

 香織の体育の成績は平均的なところだが、いかんせん本人が苦手意識を持ってしまっている。それゆえに風斗はそこを心配したのだ。


「走り込みをしろといっても、この夏の暑さだ。脱水症状やら熱中症やら心配になるからな。自分の部屋の中で腕立てとか腹筋とかくらいだろうな、できたとしても」


「ふむふむ」


「ダンスに関しては、会社の方があてがってくれるだろうし、花宮は基本的な体力を作ることを心がければいいさ」


「分かったわ。やってみる」


 風斗のアドバイスを聞いて、香織はやる気を出していた。


「とりあえず、この件は誰にも黙っておくよ。お前もこれ以上は誰にも話すなよ?」


「もちろんよ」


「そっか。それじゃ、俺の感じたことを話していくから、覚悟しろよ?」


「お、お手柔らかにお願いね?」


 体力の話をした後は、風斗から香織の歌についての印象を延々と聞かされる。

 最後まで付き合ってくれた風斗の言葉だけに、香織も真剣に聞き入っている。


「そっかぁ……。機械の採点とはずいぶんと印象が変わっちゃうのね」


「機械は機械だからな。歌に設定されている情報との一致具合を見るくらいだ。やっぱり花宮は声量が足りないと思うんだよな。まっ、配信で歌う程度なら気にはならないだろうが、踊って疲れてくるともろに影響が出るからな」


「うん、気を付ける」


 風斗のアドバイスに、香織はこくりと大きく頷いた。


「さて、それじゃ俺は帰るぜ。お前と一緒にいるところを万一満に見られたとしたら、どう思われるか」


「満くんなら鈍いから問題ないんじゃ?」


 風斗の心配に、香織はきょとんとした顔で指摘を入れている。

 これには風斗もびっくりしている。


「なんだ、満って名前で呼ぶようになったのか」


「あっ、う、うん……」


 風斗に指摘し返されると、香織は顔を真っ赤にしていた。


「そうか、一歩前進したな。それじゃやっぱり俺としちゃ一緒に帰るわけにはいかない。気を付けて帰るんだぞ、花宮」


「うん。今日はありがとうね、村雲くん」


「なに、いいってことよ。俺たちは幼馴染みなんだからな」


 親指で自分を差しながら、にかっと歯を見せて笑う風斗。その姿に、香織は思わず笑ってしまっていた。


 カラオケボックスの支払いはどういうわけか風斗が済ませてしまい、そのまま先に帰ってしまう。

 香織は自転車をこぎながら、一人家へと帰っていく。


(村雲くんに相談して正解だったかな。ずいぶんと気持ちが楽になった気がする)


 風斗はなんだかんだ言いながらも、人の相談にはよく乗ってくれるのだ。

 実際、満も風斗に助けられている。

 風斗と知り合いでよかったな。

 香織はそう思いながら、笑顔を見せたのだった。

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