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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
212/321

第212話 思わぬ提案

 女子会の翌日、香織はVブロードキャスト社にやって来ていた。


「おはようございます」


「おはようございます」


「久しぶりだね、ぴょこらちゃん」


「久しぶりだよ、マイカ」


 マイカが控室に姿を見せると、そこにはぴょこらがいた。


「今日は何の用か聞いてる?」


「配信とは言われてなかったけど、とにかく来てほしいとだけ言われたわね。お盆を前に何があるというのかしら」


 ぴょこらも聞かされていないらしく、腕を組んで唸りながら首を捻っている。


「とりあえず、森さんたちが戻ってきたら聞いてみましょうか」


「そうね」


 休憩室に備えられているドリンクやお菓子をつまみながら、マイカたちは森たちがやって来るのを待っていた。


 しばらくすると、マイカたちの元に姿を見せたのは森ではなかった。


「あれ、海藤さんじゃないですか」


 ぴょこらの方を担当する海藤だった。よく見ると、犬塚も立っている。


「森でしたら、別件で席を外していますので、私たち二人が今日呼んだ理由をお伝えしますね」


「外部に漏らすわけにはいきませんからね」


 海藤が説明すれば、犬塚は困った表情をしている。

 これは相当に重要な案件だと思われる。マイカたちはごくりと息を飲む。

 ひとまず、マイカたちと海藤たちが向かい合って座る。


「実はですね。今オーディションを行っている五期生との差別化のために、四期生たちにテコ入れをすることになりました」


「なんと!」


 マイカたちは驚いている。


「そこで、なにかとセットで活動することのある二人には、……アイドルみたいなことをさせてみてはどうかという話になったんですよね」


「へ?」


 ぴょこらの表情が歪んでいる。


「私たちも抵抗はしようとしましたよ。最近の社長は思いつきで動くことが多くて困っていますから」


「だけど、反対したのは担当している私たちだけ。結局数で負けて押し通されてしまいました。本当に申し訳ないですよ」


 海藤と犬塚は、マイカとぴょこらに対して深々と頭を下げている。


「いやぁ、たまにだったら考えてもいいと思いますよ。あたしたちの魅力は互いの掛け合いですから、できればトークに重点を置いてもらう方がいいんですけれどね」


 ぴょこらははっきりと自分の意見をぶつけている。だが、別にアイドルまがいのことを否定しているわけではないようだった。


「そうですね。私も別に構いませんよ。ダメだったらダメでしたですっぱり止めればいいと思いますし、スタジオ配信ならではの強みだと思います」


 マイカも否定的ではなかった。


「歌も踊りもレッスンは必要でしょうけれどね。私たちはまだ中学生ですし、やれることならやってみようと思います」


 二人から前向きな回答が得られたことで、海藤も犬塚もほっとしているようだった。


「二人ともありがとうございます。無茶振りだとは思ったのですが、受け入れてもらえて私たちはほっとしていますよ」


「わがままな社長でごめんなさいね」


 海藤と犬塚は再び深く頭を下げていた。


「だったら、どのくらい歌えるかというのを見るために、カラオケに行きませんか?」


「おっ、いいわね。あたしは参加するわよ。好きなアーティストの曲って、時々思い切り歌いたくなるのよね」


「うんうん、分かるよ、その気持ち」


 マイカとぴょこらがいきなり盛り上がり始めた。

 二人がやる気になったのを見て、海藤たちも思わずにっこりと笑顔を見せてしまう。


「二人がやる気なら、早速出かけましょうか。犬塚、出回りをするという伝言を残しておいて下さい」


「分かりました」


 海藤と犬塚は早速行動に出る。

 マイカとぴょこらは海藤の運転する車に乗り込み、近くのカラオケボックスへと向かう。

 少し遅れて犬塚もやって来た。

 日中の6時間フリータイムを使い、マイカとぴょこらは歌えるだけ歌を歌っている。

 その様子を、海藤と犬塚は真剣な表情で見守っていた。


「二人とも、ソプラノですね」


「ええ、マイカの方がさらに高い音域まで出ているし、すごく澄みきっているわ」


「これ、報告するんですよね?」


「もちろんよ。方向性を決めるには、二人の音域、声量、得意なジャンル、そういった情報はしっかり見ておかないとね」


 気持ちよく歌っている二人を見ながら、海藤と犬塚は話をしていることを悟られないようにしながらこそこそと話をしていた。

 ちゃっかり評価中なあたり、アバター配信者の担当者といったところである。


 結局6時間をフルには使わず、4時間くらい経ったところで切り上げることになった。

 二人が歌い過ぎてのどを痛め始めたことと、夕方になって送り届けないといけない時間を迎えてしまったからだ。


「今日は配信でもないのにわざわざ来て頂いて本当にありがとうございました」


「いえ、打ち合わせも大事な仕事ですからね」


「まぁそうね。次はいつになるのかしらね」


「それはまた決めましょう。予定がなければ数日後でも大丈夫ですし」


「分かりました。確認して都合のいい日をお伝えしますね」


 話がまとまると、海藤はぴょこらを、犬塚はマイカを車に乗せて家まで送り届けたのだった。


 マイカとぴょこらのアイドル計画。

 はたしてうまくいくのかどうなのか。

 Vブロードキャストの迷走は始まったばかりである。

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