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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
209/221

第209話 ガールズ・プールサイド(後編)

 市民プールへとやって来た満たちだが、最初に試練があることを忘れてはいけない。

 今日の満は、満のクラスの女子生徒たちと一緒にプールに来ているのである。そうなると、一人で着替えるなんてことができるわけもない。香織がかばってくれなければ、きっと満は女子の洗礼を浴びせられていただろう。そこだけはほっとする満だった。


「ごめんね、香織ちゃん。僕の代わりに……」


「い、いいのよ。ルナちゃんが無事なら、それで」


 クラスメイトたちに文字通りもみくちゃにされた香織は、すでに疲れているようである。髪の毛の乱れ具合とかに、その痕跡が見受けられる。

 こんな状態で今日一日大丈夫なのだろうか。心配になってしまう満である。

 それとは別に、満も満でこの炎天下のプールは問題がありすぎるというものだ。

 ルナの姿になっている満は半分吸血鬼だ。太陽光にはその分弱い。プールサイドは床からの照り返しが強く、さらには熱も持ちやすいときたものだ。

 以前に風斗と駅前に出かけた時に熱中症になりかけていただけに、満はかなり警戒を強めている。


(な、なるべく日陰にいよう……)


 同じ轍は踏むまいと、満はいそいそとプールサイドにあるパラソルの下へと入っていく。

 帽子にサングラス、ワンピース型の水着にパレオまで着用しているとはいえ、雲一つない快晴に満には不安しかなかったのだ。


「ルナちゃん、そんなところにいないで一緒に泳ごう!」


 だが、クラスの女子がそれを許してくれなかった。

 香織以外からすれば、今の満はちょっと色白なだけのただの美少女だ。吸血鬼だなんて知るわけがないので、無理やり引き込んでしまうのである。

 がっちりと腕をつかまれて、プールの方へと引っ張られてしまう。


「わわわっ、引っ張らないでよ」


 日陰に引きこもろうとした満だったが、あえなく引っ張り出されてしまう。その時に、急なことだったので満は体勢を崩してしまう。


「危ない!」


 香織が飛び込んできたものの、勢いは簡単に止まらなかった。

 二人は揃って転んでしまう。


「わわっ、ごめん。大丈夫?」


「う、うん、私は大丈……」


 大丈夫と言おうとした香織だったが、今の自分たちの体勢を見て、思わず言葉を失ってしまっていた。

 なんてことだろうか。満の顔が自分の胸部に埋もれているのである。

 女の子同士ならそう気にすることもないだろうが、香織は満のことをよく知っている。そのために、思わず固まってしまったのだ。


「ふぅ、クッションがあって助かりました。……って、香織ちゃん?!」


 自分がどういう状態にいるのか気が付いた満は、慌てて香織から離れる。

 自分がとんでもないことをしでかしたと気が付いて、顔を真っ赤にした上で気まで動転してしまっている。

 両手を顔の前であたふたと動かす満を、香織は頬を膨らませながらじっと見つめている。


「うわぁ、可愛い反応」


「女の子同士でもこういうことあるわよね」


「尊い……」


「あなたたちね……」


 満と香織の反応を見て、クラスの女子たちの反応は様々だった。

 ただ、一人だけかなりご満悦そうだったので、唯一真面目そうな女子からは冷めた視線を向けられていた。

 こんなことはあったものの、どうやら日陰ですぐには休めそうにない。仕方なく満はプールへと入ることに決めた。

 とはいえ、これだけ日が照っていれば、プールの水もほんのり温かい。ぬるま湯というにふさわしい状態となっていた。

 平日とはいえ夏休みでもあるので、満たち以外にも子どもの姿をちらほらと見かける。そのために、プールに入ってもそう自由が利くような状況ではなかった。


「あっ、ごめんなさい」


「いえ、こちらこそ」


 油断をすれば人とぶつかることもしばしば起きた。

 ただ、ぶつかった相手が男女を問わずに、どきりとしたような顔をしていくことに満は不思議を感じていた。


「男女問わずにイチコロか……」


「ルナちゃんの美少女さはもう兵器といってもいいのですよ」


「少年が歪みそう」


「少し黙ろっか……」


 なんか一人だけ感想がおかしくないだろうか。満と香織は揃ってそんなことを思ってしまった。

 思ったよりも混雑していて狭い市民プールではあるものの、満たちは水をかけあったり、狭いスペースながらにも泳いだりして楽しんでいた。


 そんなこんなで二時間が経過する。

 さすがにあまり身動きが取れなかったのか、みんなどことなく不完全燃焼である。


「あー、思ったより混んでたから遊び足りないわ。ねえ、カラオケ行かない?」


「いいわね。みんなも大丈夫?」


 シャワーを浴びて服を着替えたクラスの女子たちが話をしている。当然ながら、これには満たちも含まれている。


「私は構わないけれど、ルナちゃんはどうかな?」


「えっ、僕も構いませんよ」


 香織が行きたがっているようなので、満もつられるように参加に同意していた。


「そっか、それじゃ決まりね。駅前の商店街のカラオケボックスで足りない分はしゃいじゃおう!」


「おーっ!」


 プールではしゃいで終わりかと思った女子会は、カラオケボックスという二次会に突入することとなったのだ。

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