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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
204/206

第204話 炎天下のハプニング

 その週の土曜日、満はいつものように風斗と一緒に街に出かけていた。

 ところが、風斗の様子は落ち着かない。

 理由はもうお分かりだろう。


「はあ、なんでお前は狙いすましたかのように、出かける日に女になってるんだよ……」


 そう、満はまた女になっていた。

 そもそも、変身の頻度が上がっているのだから仕方あるまい。


「いいじゃないか、風斗。これでも少し落ち着いてきたんだから」


「お前の心構えだけだろうが……」


 まるで漫才のようなやり取りである。

 今日の満は、長い銀髪を頭の上でお団子にしている。いわゆるシニヨンという髪型のようだ。

 服装は夏っぽい感じだが、UVカットの機能のついたロングカーディガンに日傘という完全防備でやって来ている。もちろん、日焼け止めも塗っている。もはややっていることが女性顔負けレベルにまで来ていた。


「見てると暑苦しいな、薄手なんだろうけど長袖だから」


「仕方ないじゃないか。ルナさんに負担をかけるわけにはいかないから、僕が気を付けるしかないでしょ。ルナさんと早く分離するためにも、僕は徹底的にやるしかないんだ」


 引き気味に話す風斗に対して、満は強い決意を秘めた表情で話している。覚悟が違う。


「そもそも、今の僕は吸血鬼だよ? こんな時間に外に出歩ける方がおかしいんだからね。ルナさんに聞けば、『皮膚が焼ける』って仰ってましたからね」


「そ、そうなんだな。わ、悪かったよ」


 満の必死の訴えに、風斗は気圧されながらも納得していた。


「でも、自転車の間は日傘が差せないから大変だったなぁ。帽子をかぶっても飛びそうになってたし。女の人って大変だな」


 満は夏になってからの体験のおかげか、女性の大変さというものを身をもって思い知らされていた。

 隣を歩く風斗は、満の様子を見ながらつい愚痴をこぼしてしまう。


「そんなに言うんだったら、早く花宮のことも気付けばいいのによ」


「風斗、何か言った?」


「いや、なんでもない」


 くるりと満が振り向いてきたので、風斗は平静を装いながらごまかしていた。

 ふいっと顔を背けていたので、満は不思議がって風斗の顔をジト目で見つめているが、風斗は口笛まで吹いてごまかそうとしている。


「まったく、怪しいなぁ……」


「本当になんでもねえよ。それよりさっさと本屋いくぞ。いつものやつ買うんだろうが」


「あっ、そうだった。今月も取り置いてくれてるかな」


 思い出したかのように満は走り始める。


「おい、こらっ。日傘を差したまま走るな。危ねえだろうが!」


 急に走り出した満を、風斗は一生懸命追いかけていった。


「いらっしゃいませ~」


 いつもの本屋に到着した満と風斗は、すっかり息が上がっていた。

 走った距離は大したことはないものの、さすがにこの夏の暑さはシャレにならないものだった。


「くそっ、さすがに暑すぎるな。本を買ったらいつものファストフード店で休むぞ」


「そ、そうだね……」


 風斗に比べて、満の方は完全に息苦しそうだ。

 さすがに体が吸血鬼の影響を大きく受けているのだろう。この炎天下であれだけ必死に走れば、苦しくもなるというものだ。


「満、さすがに少し休んでろよ」


「う、うん。そうさせてもらうね」


 どこかふらふらとする満は、目を離すと危なさそうだった。


「わわっ、大丈夫ですか? 椅子をお持ちしたので、どうぞお座り下さい」


 どこからともなく店員が背もたれ付きの椅子を持ち出してきていた。なんと気が利く店員だろうか。


「すみません。立てるか?」


「そっか、ここじゃ邪魔だもんね。そっちの壁際まで動くよ」


「水と冷たいタオルを持ってきますので、休んでて下さいね」


 椅子を持ってきた店員がすぐさま奥へと引っ込んでいく。

 壁際に移動して椅子に座った満は、やっぱりつらそうだった。


「どうしちゃったんだろ、僕……」


「多分、熱中症だな。これはしばらくお出かけできないな」


「そ、そんなぁ……」


 呼吸を荒くしながらも、残念がる満である。

 普通なら大丈夫だったのだろうが、吸血鬼である状態にあるので、おそらく耐性が下がっていたのだろう。そのために、風斗が平気でも、満はこの通りダウンしてしまったと思われるのだ。

 だが、幸いなことに店員がすぐに対処してくれたおかげで、しばらく休んでいた満はかなり回復したようだった。


「満、大丈夫か?」


「う、うん。店員さんが必死に看病してくれたから、とりあえずは回復したよ」


 本を買って戻ってきた風斗の心配の声に、満は申し訳なくなりながらも反応していた。


「それだけ喋れるなら、確かに大丈夫そうだな。辛かったらろくに喋れなくなるからな」


「そうだね……」


 満はまだつらそうな表情ではあるが、にこりと笑っていた。


「すみません。本当にありがとうございました」


「いえいえ。困った時はお互い様ですよ。いつも来て下さっている常連さんですし、このくらいは人として当然です」


 風斗がお礼を言うと、店員からはさらっとこの言葉が出てきた。

 店員の言葉に、いつもここを使っていてよかったと思う満と風斗なのであった。


「見るからに体が弱そうな子ですから、しっかりと守ってあげて下さいね、彼氏さん」


「なっ……、違いますし、ただの友人ですし!」


 直後の店員の言葉に、風斗はつい取り乱してしまっていた。

 男女が一緒にいて仲がよさそうだと、事情をよく知らない人にはこう映ってしまうらしい。


「……次行くぞ。本当にお世話になりました!」


「わわっ、風斗、引っ張らないでよ!」


 顔を真っ赤にしながら風斗は書店を出て行く。

 実に初々しい姿に、店員はにこやかな表情で手を振りながら見送ったのだった。

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