第203話 配信再開はやっぱりこれ
「みなさま、おはようですわ。光月ルナでござます」
アバター配信者コンテストから帰宅して、満はゆっくり休んだこともあり、配信を再開させていた。
『おはよるな~』
『おはよるなー』
『ああ、ルナちの配信だ、生き返る~・・・』
『わかるマン』
実に十日間ぶりとあって、リスナーたちの反応がなんともいつもとは違う。戸惑いを感じて笑ってしまうくらいだった。
「実にお待たせしてしまって申し訳ございません。ですが、先日のことを思えば、みなさまも納得して頂けるかと思いますわ」
『アバ信コンテスト、見とったで』
『惜しかったよなぁ、優勝できたと思ったのに』
『せやな、純粋にルナちを応援しとったから悔しかったのう』
どうやらリスナーたちは、アバター配信者コンテストを見ていたようだった。
具体的に話に出していないのに、リスナーからはすぐにピンと来たという反応が返ってきていた。
『とはいえ、順当に実力で選ばれた気がするわ』
『うんうん、狸小路のトーク力は侮れんかったな』
『ルナち、ごめんよ・・・。ワイ、狸小路に入れたんや・・・』
リスナーの一部からは謝罪コメントが出てくる。
だが、満もリスナーたちも特に責めるようなことは言わなかった。
『己の気持ちに従っただけ、誰も責めんて』
「そうですわよ。だからこそ、あの結果だったのです。みなさんが一番良いと思ったアバター配信者に素直に投票した、それでいいのですわよ」
『ルナち・・・』
『あかん、ワイ泣きそう・・・』
満の話に、リスナーたちはなんともしんみりとした雰囲気を醸し出している。
このままでは配信がしづらくなりそうだと思い、満は予定通りに配信を進めることにする。
「はいはい、それでは気持ちを切り替えていきますわよ。配信再開一発目は、やはりこれに限りますわね」
『おっ!?』
『まさか・・・!?』
両手を打ち鳴らす満の言葉に、リスナーたちが素早く反応している。
満から飛び出した『これ』という単語で、多くのリスナーはすぐにピンと来たようだった。
「はい、もちろんこれです。『SILVER BULLET SOLDIER』ですね」
『キターーーー(゜∀゜)ーーーーッ!』
『っぱ、ルナちといったらこれよ』
『真家レニとルナちにはこれがないとな』
リスナー大歓喜である。
『【真家レニ】ルナちがシルバレやると聞いて』
『レニちゃんwww』
『噂をすればwww』
『【真家レニ】ルナち、ちょっと待ってて。今から起動する』
どうやら真家レニもこの配信を見ていたようで、SILVER BULLET SOLDIERをやると聞いて混ざろうとしていた。
『【真家レニ】今回はレニちゃんの勝手で混ざるから、収益は気にしなくていいよ』
さすがは真家レニである。満が気にしそうなことを先に潰している。
『【真家レニ】それでも気が済まないというのなら、レニちゃんの配信に乱入するのだぁっ!』
『あwかwんwおw腹w痛wいw』
『レニちゃん、平常運転』
『なんだか分からんが、ヨシッ!』
真家レニが登場したことで、少々お祭りムードのようである。
「おほん。それでは、どのクエストをするかは、真家レニ様にお任せしますわ。僕だって腕を上げましたから、ついていってみせますよ」
『【真家レニ】いってくれたなー?よーし、それじゃ張り切ってこれいってみよう!』
『難易度SSSwwwwwww』
『レニちゃん、ルナちの配信やぞ』
真家レニに任せたら、なんと最高難易度の共闘クエストを選択していた。
「大丈夫ですよ。それではやってみましょうか、真家レニ様」
『【真家レニ】そうこなくっちゃねー☆』
なんとも真家レニは楽しそうな打ち込みである。
そうこう話をしているうちに、画面の中ではクエストが始まっていた。
挑戦するのは学生の夏休みに合わせて設置された高難易度の共闘クエストだ。
山と海の二つのステージがあり、難易度も最低ですらAランク(高難易度)。今回選択したのはSSSランクなのでそのさらに四段階も上の難易度なのだ。
「ふむふむ、共闘かつ最高難易度とあってか、通常とは敵の数が5倍ですか。499体の雑魚とボス1体を相手にするんですね」
満はそう冷静に分析しながらも、近付いてくる雑魚を次々と撃破していっている。
『ルナちも慣れたもんやな』
『最初の一斉襲撃もあっさりクリアしとる・・・』
『この二人が共闘すると、もしかするともしかするかも・・・?』
リスナーたちも息を飲んでプレイ画面を眺めている。
ちなみにだが、このSSSランクのクエストも配信は可能。なぜなら、出現位置や構成がその都度変わるかららしい。そう簡単にクリアさせるかという運営の意地が見える。
『【真家レニ】さぁボスが出るよ』
「オッケーですわ」
『もうボスかよ』
『早くてわけわかめ』
どうやらボスが出るタイミングになったらしい。よく見ると討伐カウントが493と出ている。すでに残り10体というタイミングを突破していたのだ。
満を持してボスが登場。咆哮を上げてカッコよく登場する。
「えいっ!」
満がそういうと同時だった。
ボスはあっという間に倒れてしまった。
『は?』
『何が起きた、解説ーっ?!』
『【真家レニ】ヘドショ2発。これで倒れるとは弱すぎっしょ』
どうやら、ボスが出現すると同時に、挟み撃ちでヘッドショットを決めたようなのだ。
阿吽の呼吸でこれができるのは、さすがにそうそういないだろう。
「やりました。新記録ですね」
『【真家レニ】やったね。イベ限定アバゲットだぜっ☆』
しばらくの間は、歓喜する二人とは裏腹にリスナーたちは完全に言葉を失っていた。
「おほん、時間としてもちょうどいい感じになりましたので、今日はこの辺りで配信を終わりたいと思いますわ。真家レニ様、本日はありがとうございました」
『【真家レニ】乱入してごめんね。そう言ってもらえると気が楽になるよ☆』
真家レニの嬉しそうなコメントに、満はモニタの前で思わずくすりと笑ってしまう。
すぐに気を取り直し、配信の締めのセリフをしっかりと決める。
「それではみなさま、ごきげんよう」
『おつるなー』
『おつるな~』
『今日もいいものが見れた』
こうして、アバター配信者コンテスト後初の配信は、無事平和に終わることができたのだった。