第199話 お祭りの夜
打ち上げ会場は多くのアバター配信者たちが集い、賑わいを見せている。
個人勢ばかりということもあって、普段は食費を切り詰めたりしているのだろう。それはおいしそうにビュフェスタイルの料理を味わっていた。
「かっかっかっ、さすがは一流ホテルの作る料理は違うな」
「清美、恥ずかしいからそんなに大きな声で言わないでよ」
「そうよ、天狐。まるで普段ろくなものを食べてないみたいじゃないのよ」
「仕方あるまいて。最近の依頼をすべて待ってもらっておるのだ。帰ったらしばらくカンヅメになるのだぞ? ならば今味わっておかねばいつ味わうというのだ」
天狐たちが騒ぐ声が聞こえてきた。
その声に導かれるように世貴たちは近付いていく。
「よう、相変わらずでっかい声だな。おかげですぐに見つけることができたがな」
「おう、ウォリーンではないか。帰ったら出汁天狐がよろしく言っていたと、ウェリーンに伝えておいてくれ」
「伝えておくよ。ライバルからの激励だから、あいつもやる気になるだろう」
表情はにこやかなのに、満と風斗はどこか危険な雰囲気を感じてしまう。これがライバル関係にある者たちというものなのだ。
その様子はとりあえず放っておいて、満は節美の姿に気が付いて走っていく。
「優勝おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。君は光月ルナだっけか。二位、おめでとうね」
「ありがとうございます。でも、僕みたいなのが二位を頂いてしまってもいいのでしょうかね」
「気にしないでいいと思うわ。審査員からも評価を頂いていたみたいだし、もっと胸を張っていいわよ」
にこりと節美が笑っている。
「あーっ、やっぱり倉間たちですよ。久しぶりですね」
「あれっ、向日先輩、お久しぶりです」
そこにかなみと銀太もやって来る。
「山科くんは大変そうね。どう、目の調子は」
「いやぁ、医者からは数年内に完全にといわれています。多少なりとまだ見えるうちに、こんな結果を残せて満足ですよ」
「そっか、心眼って君だったのかぁ。いやぁ、自分を貫いて上位にめり込むとは、実に君らしいと思うわ」
節美は銀太やかなみたちと話をしながら、にこやかな笑顔を見せている。
「おやおや、姉君。もしかして狙っておったのか?」
「だ、誰がよ。この二人の間に割り込むなんて勇気ないわよ」
天狐が茶化すと、怒ったように節美は言い返している。でも、否定はしていないようだ。
「かっかっかっ、素直でよろしい」
「天狐ってば、相変わらずね……」
鹿音が呆れたように四人のやり取りを見ている。
「あのー、お知り合いだったんですか?」
「うむ、高校の時の先輩後輩ぞ。わしはまだ中学生だったが、姉君とこの二人が知り合いでな。その関係でわしもよく知っておるのだ」
なんともまぁ、世間は思ったより広くないということを思い知らされる。
「しっかしすげえな。片や優勝、片や三位なんだからな」
「そういうおぬしらのところも二位だろう。まったく、上位三組がひとところに会しているというのも面白い話ぞ」
天狐がけらけらと笑っている。
「お~い、お前らも喋ってないで食えよ。料理は山のようにあるが、食っておかないと損だぞ」
いつの間にか話の輪から抜け出ていた世貴が、満たちに呼び掛けている。
本当に一体いつ抜けていったのだろうか。満と風斗が呆れたように顔を向けている。
「そうじゃったな。よく思えば腹が鳴っておる。わしらもさっさと頂くとしようではないか」
話もそこそこに、満たちは打ち上げのパーティーを堪能していた。
時折、他のアバター配信者たちから話しかけられることはあったものの、天狐たちが割って入ることでうまくアバター名はばれることなく話をすることができた。
パーティーもそこそこに、満たちは会場を後にすることになった。
長いようで短かったアバター配信者コンテストも、これで完全に終わりを迎えたのである。
「思ったより楽しめたな」
「そうですね。でも、二位はちょっと悔しかったので、次は優勝狙いますよ」
「はははっ、その意気だぞ、満くん」
こうして、スタッフの人たちが運転する車で、満たちは泊まっているホテルまで送られたのだった。
ところが、部屋に戻ってからだった。
「うっ、くっ……」
パーティー中は気が紛れて我慢が出来ていた満も、さすがに緊張が解けたようで苦しそうに部屋の中でしゃがみ込んでしまう。
「おい、満。大丈夫か?」
「満くん、救急車を呼ぼうかい?」
風斗と世貴がそれぞれ声をかけてくる。
「だ、大丈夫です。言いましたよね、僕の体には吸血鬼がいると。その影響が今になって強く出てきているみたいです……」
「し、しかしだな……」
世貴は心配そうに満を見ている。
そんな中、満に向かって風斗が両肩をつかんで声をかける。
「満、我慢するな。俺をかめ。お前の苦しんでいる姿なんて見てられないんだよ。だから……、だから、俺をかむんだ!」
「ふ、風斗……」
顔を赤くしながら息苦しそうにしている満には、その言葉に逆らうような余力はなかった。
「分かったよ。吸い過ぎないようには気を付けるけど、痛いのは我慢してね」
「ああ、約束する」
あまりにもいい雰囲気だったので、世貴は空気を読んでその場を離れる。
(まったく、いきなりなんてシーンを見せつけようとしてくるんだ)
世貴はそのまま飲み物を買いに、近くのコンビニまで出かけていったのだった。