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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第194話 突撃!隣のアバター配信者

 香具師草かおるが去ったと思ったら、今度は隣の無法師心眼が満たちを訪ねてきた。


「お邪魔します。なにやら騒がしかったようですけれど、大丈夫でしたか?」


 女性が満たちを心配してやって来たようだ。

 そのくらいに香具師草かおるとのやり取りが気になったようである。なにせ薄いパーテーション一枚で区切られているのだ。多少大声を出せば、全部丸聞こえなのである。


「いえ、まったく問題はありませんでしたよ。ご心配頂いてありがとうございます」


 心配をしてもらったので、一応お礼を言っておく世貴である。

 それにしても、やって来た女性はかなりきれいな人物のようだ。満は思わずじっと見てしまっている。


「どうしたんだ。勝手に出ていかれては困るぞ」


 後ろから男性の声が聞こえてくる。

 目は開いているものの、その手には白杖が持たれている。


「隣が気になったから様子を見に来ただけですよ。あなたこそ勝手に動かないで下さい。ほとんど何も見えないのに、勝手に動かれてはあちこちにぶつかってしまうでしょう」


「白い杖を持ってられますが、目が悪いのですか?」


 世貴が男性を見て質問をしている。


「ああ、小さい頃から目が悪かったんだ。どうやら目の難病を患っているようでね、もう数年もしないうちに私からは光が失われるだろう」


 男性重い話をはにかみながら話していた。

 どうやら盲目の僧侶というアバターは、リアルの自分をベースに生み出したもののようだ。


「申し遅れてすまない。私はアバター配信者『無法師心眼』。本名は『山科銀太(やましなぎんた)』という。実家は大工をしているのだが、なにぶん私がこれなので跡を継げなくてね。少しでも後継者を育てられるようにと、この世界に飛び込んだんだ」


「私は幼馴染みでモデラー担当の『向日(むこう)かなみ』と言います」


 そんな中、二人は満たちを相手に自己紹介をしてくれた。

 自己紹介をされたからには、自己紹介は返すべきだろう。そう思った満たちだったが、銀太が手を出して止めてきた。


「私たちが勝手に名乗っただけだ。君たちまで名乗る必要はないよ。あまり姿はよく見えないが、そちらの子たちはまだ幼いようだしな」


「そうですよ。アバター配信者たちは基本的には中の人たちの名前は分からないものです。ですから、無理に名乗る必要はないですよ」


 二人揃って、満たちの名前を聞くつもりはなさそうだった。

 ここまで言われてしまえば、満と風斗はどことなくほっとしたようだった。


「いや、俺だけは名乗らせてもらうよ。さすがに礼儀ってものがある」


 世貴だけは違う反応を示していた。


「俺は波川世貴(なみかわせき)っていう。光月ルナのモデラーはこの俺だ」


「へえ、すごい。あの技術とても興味があるのですよ。よかったら紅葉の景色を作ってもらいたいわ。私じゃそこまで複雑なのができないから、困っていたのですよ」


 世貴の自己紹介を聞いて、かなみはかなり興味を示しているようだ。


「いいんですかね。後継者のためにお金が必要なんでしょう? 依頼なんて出すと、かなりの金額が吹き飛びますよ?」


 さっきの話を聞いていただけに、世貴は少し渋っているようである。

 確かにそうだ。降雪の風景のことを考えれば、簡単に六桁円は吹き飛びそうな手の込みようなのだから。

 一般的なアバター配信者なら、数か月分の収益が吹き飛びかねない金額である。


「いいのいいの。お金の心配なら心配しないで。あなたの技術があれば、簡単に取り戻せそうな気がしますし」


 かなみはにこやかに笑っていた。


「せっかく知り合いましたし、なんだかどんな配信なのか見てみたくなりましたね」


「本当かよ?!」


 満がつい口にすると、風斗は驚いていた。ただ、名前だけは絶対言わなかった。


「アバター配信者名で検索すればすぐに見つかるよ。ただ、私の配信はどれもこれも真面目な解説配信だ。君たちの年齢ではきっと堅苦しく感じるだろうな」


「別にいいですよ。勉強だと思えば堅苦しくても気にならないと思います」


「そうか。君はいい子だな」


「えへへへ」


 あまりにも満が気を遣ってくれるので、銀太はつい微笑んで褒めてしまう。

 満も褒められたせいで照れ笑いをしている。

 話をしている真っ最中、スピーカーからは次の登場アバター配信者を告げる司会の声が聞こえてくる。


『キツネとタヌキの共同戦線、狸小路稲荷~!』


「おっ、やっと来たか」


 告げられた名前を聞いて、世貴が声を出して反応している。


「世貴にぃ、知ってるのか?」


「知ってるも何も、俺たちは中の人に会ってるじゃないか。出汁天狐のお姉さんだよ、このアバ信が」


「ええっ、あのおとなしそうな人がですか?!」


 満は大きな声で驚いている。


「どれどれ、自分のブースに戻ってもいいが、ここで一緒に見させてもらって構わないかな」


「ええ、構いませんよ」


 銀太の問い掛けに、世貴は快く了承している。

 とはいえ、五人も集まればブースはかなり狭く感じてしまう。

 家が大工だという銀太はかなり体格がいいので、さらに狭く感じてしまうようだ。


「出汁天狐とかいったな。多分、私も知っている人物だ」


「へえ、そうなんですね。事実なら世間は狭くないですかね」


「まったくそうだな、世間は思ったより狭いようだ」


 世貴の反応に銀太は笑っている。


 アバター配信者コンテストももう残りは数組だ。

 そこで登場した狸小路稲荷というアバター配信者に、満たちは食い入るような注目を向けたのだった。

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