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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第186話 コンテスト当日の朝

 いよいよアバター配信者コンテスト当日を迎える。


「ふわぁあ~~……。くそねみぃぜ」


 風斗が大あくびをしている。


「やあ、おはよう風斗。その様子じゃ眠れてないみたいだな」


「おはよう、世貴にぃ。まだ調整してたのか」


「ああ、もちろんさ。本番で最高のパフォーマンスを披露するには、入念で細やかな調整が必要なんだ。手なんか抜けるものじゃないよ」


 風斗と話をしながらも、調整を行う世貴の手は止まらない。


「よくこの状況で冷静に作業してられるな……」


 風斗はちらりとベッドの方を見る。そこでは、満がまだぐっすりと眠っていた。

 冷房を効かせすぎているので布団はがっつりとかぶっているし、寝相がいいので乱れてもいない。なんとも気持ちよさそうである。


「俺は妹の羽美と同じ部屋で暮らしているんだぞ? さすがに一年半ともなれば慣れてしまうものだ。満くんは寝相がいいからいいが、羽美なんて最悪だ。起きたら布団から抜けてしまっているなんてしょっちゅうだからな」


「羽美ねぇ……、寝相悪すぎないか?」


「まったくってもんだよ。俺が言うのもなんだが、あれで結婚できるのかどうか疑いたくなってくるよ」


 世貴の話に、風斗は表情が複雑だった。


「もう少しで調整が一段落するから、風斗は満くんを起こしてくれ。朝食を食べて会場に向かうぞ」


「わ、分かったよ」


 風斗は仕方なく、世貴に言われて満を起こすことになった。


 一足先に廊下に出て、満が着替え終わるのを待つ世貴と風斗。

 今回のコンテストで使うパソコンは、二人で分担して持っている。仮にも女性である満に重たいものを持たせるわけにはいかないという男心が働いたのである。


「ごめん、二人とも待たせちゃったね」


 遅れて満が出てきた。

 今日はモーションキャプチャとヘッドギアを装着するとあって、満の服装はハーフパンツにスニーカーである。上半身も胸元が見えないようにしている。満だってちゃんとTPOを弁えているのである。

 しかし、そんな格好でも風斗は思わずどきりとした表情を見せていた。


「ははっ、風斗。そういうことならさっき起こさせたのは悪かったね。だが、その様子だと、俺が起こしに行っていたら不機嫌になっていただろうな。まったく、難しい年頃だな」


「せ、世貴にぃ!?」


 肩を叩いて耳元でささやく世貴に、風斗が顔を真っ赤にしている。

 二人の様子を見ていた満は、何をやっているのか分からずにきょとんとした表情を見せている。こっちもこっちで相変わらずのようだ。


「かっかっかっ、朝から元気だのう」


 廊下で話をしていると、先日聞いたばかりの声が聞こえてきた。

 くるりと振り向くと、そこには出汁天狐たちの姿があった。


「天狐か。同じ階に泊まっていたのか」


「ご挨拶だな、そんな嫌そうな顔をするでないぞ。今日のコンテストではライバルではあるが、持てる力を十分発揮できるように励まし合おうではないか」


 世貴の反応にもけらけらと余裕を持って反応している。さすがはコンテストではただの助手でしかない絵師である。他人事のように話をしている。

 話をしていると、天狐の後ろから節美と鹿音の二人も姿を見せる。


「さあ、いよいよ今日が本番ですね。いい勝負をしましょう」


「こちらこそな。今日のために大学の単位をいくつか犠牲にしてきたんだ。きっちりと結果を出してやるよ」


「おお、怖いのう。わしも人のことは言えんがな、かっかっかっ」


「天狐ちゃん? あとで説教かしらね」


 世貴の言い分に便乗して、天狐も大学の講義をいくつかすっぽかしてきたことを告白している。これには鹿音がいい顔をしなかった。


「かっかっかっ、案ずるな。ちゃんと手は回しておる。来年はいよいよ卒業だからの。一年を棒に振るような真似はせぬて」


「えっ? この人、世貴にぃより年上だったのか」


 天狐が話した内容に、風斗がびっくりしている。


「その通りぞ。わしは今年二十一歳の大学三年生ぞ。専攻は情報工学で、そこのウォリーンと同じなのだよ」


「私の後輩なのよね、天狐ちゃん。一年間だけ一緒だった縁で、天狐ちゃんのイラストをいろいろ動かしているのよ」


「ってことは、あなたがそっちのモデラーってことか。つまり、アバ信は……」


「そう、わしの姉君だ。かつてはアイドルを夢見ておった、バリバリのアイドルオタクぞ。それがアバ信なぞ、世の中どうなるか分かったものではないな。かっかっかっ」


「や、やめなさいよ、清美」


 節美は恥ずかしそうにしながら、天狐を叱っていた。

 しかし、今ストに参加するアバター配信者をばらすとは、なかなかに余裕があるようだ。


「あのー、そろそろ朝食にしませんか? 話が長引くと、遅れちゃいますよ?」


「おお、それはいかん。さっさと行くぞ、者ども」


 ようやく話に入り込んだ満の言葉で、天狐は慌てたようにエレベーターへと向かう。

 天狐の姿にくすっと笑いながら、満たちは一緒にエレベーターへと移動して、朝食ビュッフェに向かう。


 慌ただしく迎えたアバター配信者コンテストの朝。

 天狐たちと出くわしたことで少し緊張はほぐれたようだったが、本番では何が起こるか分からない。

 会場に向かう電車の中で、満たちは今一度気合いを入れ直していたのだった。

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