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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第185話 会場見学

 会場の入口にやってきた満たちは、入口でイベント参加者の札を見せている。

 世貴が手続きをした時点で、参加人数分を渡されたらしい。


「むむっ、ずるいぞ、貴様ら!」


 天狐が吠えている。


「はいはい、天狐ちゃん。さっさとアバ信コンテストの参加の手続きしましょうね」


「うぎぎぎぎ……」


 鹿音にたしなめられて、唸りながらも天狐はアバター配信者コンテストの手続きを始めている。


「なんでこう何度も手続きをせねばならぬのだ。まったく面倒なことだぞ」


「すみません。私たちも上からの指示でやっているだけですので」


 天狐が文句を言っていると、スタッフの男性がぺこぺこと何度も頭を下げていた。

 まったく悪くないというのに、天狐が文句を言ってわめくものだから、スタッフも大変なものである。

 その様子をしり目に、満たちは案内役のスタッフの後ろについて会場内を見回ることにした。


「すごいですね。このように事前見学をさせて頂けるなんて」


「はい。当日、アバター配信者の方々が力を十分に発揮できるようにと会場に慣れて頂く狙いがあります」


 案内役のスタッフは会場内を案内しながら説明をしている。

 今歩いている場所は、アバター配信者たちが配信を行うブースである。

 控室の中をみっつに区切って配信を行うことになっているらしい。


「結構狭くなりますね」


「そうですね。ですので、あまり大きな動きをするとパーテーションに当たってしまいますし、他の参加者の方にも迷惑がかかります。ちなみに、ひとつの控室に入られる方々は同時に配信を行って頂くことになりますので、トラブルには十分お気を付け下さい」


「はい、分かりました」


 控室の見学を終えると、満たちは次の場所へと移っていく。

 次にやって来たのは、本選考の会場となるアリーナの中だった。


「うわぁ、大きいし広い。実際に見てみるとこんな感じなんですね」


 当日は、バックスタンドに立てられた巨大スクリーンに自分たちのアバターが大きく映し出されるらしい。

 アリーナの中の収容人数はかなりの人数なので、配信場所とは別の場所とはいえ、リスナーたちとかなり近い距離にいることになる。

 控室にはアリーナからの声が届くことがあるらしいので、生の反応を聞きながら配信という、また違った意味での緊張感を味わうことになるようだ。


「このコンテストの優勝者は、地域PRなどで活動することになるそうですからね。これくらいの距離感には慣れておく方がいいかと思いますよ。まあ、これ、主催者の言葉なんですけれどね」


 説明をしながら、スタッフの男性は笑っていた。

 満たちもつられて笑ってしまう。


「それにしても、こんなところで配信ができるなんて、夢のようだなぁ……」


「まったくだぜ。こんな大きなハコでみんなに見てもらえるなんて、この上ない幸せだよな」


「うん、僕、頑張っちゃうぞ」


 世貴に言われて、満は両手の拳を握って気合いを入れていた。


「おや、こちらの女性がアバター配信者ですか。これほどの美少女ですと、その姿のままでもよさそうですけれどね」


「えへ、えへへへ……」


 スタッフに褒められて、満は照れてしまっている。美少女と言われて嬉しいらしい。

 どうやら女性になっている間は、完全に意識が女性に染まってしまっているようだ。

 この満の様子を見た風斗は、なんとも複雑な気持ちになっていた。


「まあ、この子がアバター配信者なのは当たりなんですが、そのことは他言無用でお願いしますよ」


「分かっています。アバター配信者は中の人が分からないのも一つの魅力ですからね。私も携わる者として、重々承知をしております」


 スタッフは笑顔を返していた。


「うん? あれは何をやってるんだ?」


 風斗が会場内のステージに指差しながら疑問を口にしている。


「ああ、あれはバミ付けですね。当日の進行を想定しながらスタッフでリハをしていましてね、参加者の立ち位置というものを決めている最中なんですよ」


「へえ、そうなんですね。イベントひとつでも大変なだなぁ」


 スタッフの説明に、満は感心しているようだ。

 普通、一般人はイベントの裏側なんていうのはよく知らない。このように舞台の裏が見られることなんてめったいないわけだし、満のこの反応も頷けるというものだ。


「ふぅ、やれやれ。やっと追いついたわい」


「天狐ちゃん、足速いわよ」


「清美、待ちなさいってば」


 天狐たちが揃いも揃って息を切らせながら満たちに追いついてきた。


「まったく、どうして走るんですか。今はまだ準備中なんですから、むき出しになったコードにつまずいて転びでもしたらどうするつもりなんです」


 天狐たちから遅れること、女性のスタッフがやっと追いついたようだった。


「ライバルであるこやつらと別行動など認められぬ。さあ、残りは一緒に見学をするぞ。断ろうともわしはついて行くからな?」


 なんという天狐の執念なのだろうか。

 あまりの執着の強さに、風斗と世貴が顔を見合わせて引きつった笑いを見せている。


「僕は構いませんよ。せっかく会ったのですから、仲良く見学しましょう」


 満一人だけは能天気に笑顔で天狐たちを受け入れていた。

 さすがの風斗たちもこの笑顔には勝てず、このあとは天狐たち三人と合流して六人で会場見学を行ったのだった。


「では、これでよろしいでしょうかね。明日は最終準備のために立ち入りができませんので、本番に向けてしっかりと備えて下さいね」


 スタッフの男性は、優しく満たちを見送っていた。


 満たちが帰った後、女性のスタッフが男性に声をかける。


「まったく、副社長ともあろう方が、なぜこんなところに顔を出しているんですか」


「別にいいじゃないか。我が社のイベントに参加して下さる方たちです。しっかりと直にもてなしてあげたいじゃないですか」


 副社長と呼ばれた男性がにっこりと笑っている。


「身分を隠して一スタッフのふりをする。まったく、食えない方ですよ、副社長は」


「いいじゃないか。でも、参加してみたかいがあったというものだ。先程の二組、いいところまで行きそうだよ」


「勘、ですか?」


「そう、勘だよ」


 意味ありげに微笑む副社長。


「さあ、あさっての本番に向けて、しっかりと準備をしようじゃないか。頼んだよ、主任」


「はい、副社長」


 とんでもない上役がいたものである。

 そんなことを知らない満たちはホテルに戻り、あさってのイベント本番に向けての調整を始めたのだった。

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