第182話 アバ信関係者は濃いキャラだ
満たちがアバター配信者コンテストのために現地した頃、他にも参加者たちが集まってきていた。
「ほう、ここがコンテスト本選の地か。まるで祭りでもあるかのように人がたくさんおるのう」
「やめて下さい、田舎者丸出しよ」
駅から姿を見せたフリルブラウスの女性が、扇子を手に目の前の光景の感想を述べている。
後ろからついて来たサングラスをかけた女性が、本気のツッコミを入れている。
「かっかっかっ、細かいことを言うでないぞ、姉君。人が多いということは、それだけ観客が見込めるということ。わしたち、チーム『あぶらあげ』の力を見せてやろうではないか」
「あのね、演者はあなたじゃないでしょうに。なんで絵師であるあなたがついて来ているのよ、出汁天狐」
「姉君、わしをその名で呼ぶでないぞ。あくまでも今のわしは今をときめく女子大学生、ただの倉間清美ぞ」
「普通の女子大学生はそういう言い方をしない!」
なんとも的確で冷静なツッコミである。
「なあに、今回やって来たのは、わしのライバルであるウェリーンが手掛けたアバ信が参加しているという直感が働いてな。ぐーたらかき氷で退屈しのぎをする予定を諦めてまで来たのだよ」
「そういう恥ずかしいこと言わなくていいから! 年頃の乙女としての恥じらいを持って!」
漫才のような掛け合いに、二人に視線が集中し始める。
さすがに道行く人たちから視線を向けられるのは耐えられなかったのか、二人はその場からそそくさと移動を始めたのだった。
ホテルに到着すると、ロビーで待っていた女性と合流する。
タンクトップにジーンズという非常にラフな格好をしていて、ホテルの利用者の中では結構目立つ格好をしていた。
「待ってたわよ、倉間姉妹」
「おお、久しぶりよな。わしの絵の動画はいつ見ても素晴らしいぞ」
「ええ、天狐ちゃんのイラストってなんか動かしやすいからね。まさか、その延長戦でアバターの作製をすることになるとは思っていなかったけれど」
ぽりぽりと頬をかきながら話している。
「何をいう。わしがこれだけの絵師になったのは、PiPy殿の力あってこそ。おかげで企業案件まで受けられるようになったのだからな」
「ああ、ブイキャスのアバターだっけか。すごいわよね」
「こらっ、そういうことは大きい声で言わないの。誰かに聞かれていたらどうするのよ」
「はははっ。これはすまぬな、姉君」
姉に指摘をされて、清美は素直に謝っていた。
守秘義務は大事である。
「それじゃ、全員が揃ったわけだし、チェックインをするわよ」
「頼む、姉君」
「やっと荷物が置けるのね。機材が多いから配送サービスを使おうかと思ったくらいだもの」
フロントへ向かおうとする姉の後ろで、PiPyは自分の荷物を見て嘆いていた。
彼女は今回のアバター配信者コンテストに3Dモデラーとしての参加である。そのため、世貴と同じように使う機材のあれこれを持ってきていたのだ。
どうりでタンクトップから突き出た腕がムキムキとしているわけである。重い機材を持って動いていれば、自然と鍛えられてしまうのだ。
手続きを終えれば、スタッフが出てくる。どうやらPiPyの荷物運びを手伝ってくれるようだ。
「あ、お願いします……」
さすがにここまで暑い中を担いできて限界が来ていたのか、PiPyはスタッフに手伝ってもらって荷物を移動させることとなった。
部屋まで楽に移動しようとして、清美たちはエレベーターの前までやって来る。
ちょうどエレベーターが到着して、扉が開く。
中に入ろうとしたのだが、中には人が乗っていたらしく、出てくる人と危うくぶつかりそうになった。
「おっと、すまぬな」
「いえ、こちらこそよく見ないで飛び出してしまってすみません」
「満、お前慌てすぎなんだよ。本当にすみませんでした」
中学生くらいの男女が飛び出てきて謝罪だけすると、そのまま外に向かって歩いていった。
「中学生かしらね。元気があっていいわよね」
姉はぽつりと呟いている。
それとは対照的に、清美はにやりとした笑みを浮かべている。
「どうしたのかしら、天狐ちゃん」
清美の表情を見たPiPyが驚いた様子でじっと見つめている。
「いや、なんでもないぞ。さっ、早く部屋に入って長旅の疲れを取ろうではないか」
「まったくよ。妹ってばずっとこの調子でしょ。付き合わされる私はもう大変ったらありゃしないわ」
「姉君、そんなにわしの口調が嫌か?」
「古すぎて肩がこるのよ」
姉妹のやり取りに、PiPyはおろか、荷物運びの手伝いをするスタッフまで笑っていた。
「ふん、分かっておらぬな、姉君は。普段からのキャラづくりというのはとても重要ぞ。わしは油揚げ大好きというところまでこだわっておるからな」
「あーはいはい、分かったわよ。まぁ、私もキャラづくりが大事ってのは分かっているからね。言いたいことは分かるわよ」
結局部屋に着くまでもずっとこの調子だった。荷物運びを手伝うスタッフは笑いをこらえるのに必死だったのはいうまでもない。
今日もまた、アバター配信者コンテストの参加者がこの地に集ってきているのだった。