第180話 世貴と合流する
駅の改札外で、世貴は壁にもたれ掛かりながら満たちの到着を待っていた。
「さて、満くんたちの家からすれば、順調ならそろそろ到着する時間かな」
世貴は一人で大きな荷物を持って、到着を今か今かと楽しみにしているようだ。
ちなみに、羽美はやって来れなかった。期末試験とバイトが重なって、どうしても抜けられなかったのである。
しかし、今回必要なデザインは全部起こしてもらっているし、最低限のモデリングは終わっている。つまり、羽美の出番は一応終わっているので、コンテストには影響はないようだ。
もっと明かしてしまうと、いろいろな手続きがあるために、世貴は相当早く会場には足を運んでいた。
既に本選考の登録に、宿泊場所の確保。必要最低限は既に済ましてしまっていた。
準備万端にしておきながらも、世貴はさも先程やって来たかのように振る舞っている。
ただ下手に辺りをきょろきょろと見回してしまうと、田舎者丸出しに思われると思ったらしく、世貴はじっとまっすぐ前を見て満たちの到着を待っている。
「世貴にぃ」
「おう、その声は風斗か。やれやれ、待ちくたびれたぞ。満くん……は?」
声をかけられて反応した世貴だったが、そこで見た光景に思わず固まってしまっていた。
風斗と一緒に現れたのは、なんと銀髪美少女である。想像もしていなかった事態に、世貴は思い切り固まってしまっている。
「世貴兄さん、僕だよ。これはちょっとしたわけがあるから、ちょっと場所を変えて話がしたいんだけど……」
「この声は満くんか。むむむむ……、事情は分からんが分かった。なら、ホテルに行こうか。一応三人部屋を確保できたんでな」
「分かったよ。それじゃ風斗、一緒に行こうか」
「お、おう」
世貴は混乱する頭を必死に落ち着けると、満の要求に素直に応じている。
どうにか無事に世貴と合流できた満たちは、世貴が押さえたというホテルへと向かって歩き始めた。
世貴が押さえたのは、移動がしやすいようにと駅から比較的近いホテルだった。
こんな場所を押さえられると思ってもみなかった風斗たちは驚いている。
「まだ七月中だったのがよかった。大きなイベントもアバ信コンテストだけだから、余裕で部屋を確保できたよ」
世貴はにこりと笑っている。
ホテルのフロントへ行き、世貴はさっき手続きをした人物だと伝える。
ところが、フロントはやってきた面々に驚いていた。男三人だと聞いていたからだ。
「すまない、こっちの確認不足だったんだ。部屋はそのままでいいからカギを頼む」
「はい、畏まりました。では、こちらがルームキーでございます。どうぞ、ごゆっくりおくつろぎ下さい」
どうにか無事にルームキーを受け取り、満と風斗を連れて世貴は部屋へと移動していく。
「世貴にぃ、ずいぶんと大荷物だな」
「そりゃそうだ。ノートパソコン二台に着替えだのなんだのと詰め込んできたからな」
「パソコン二台?」
満はきょとんとした顔で世貴に尋ねている。
「そりゃそうだろう。一台は俺が扱う調整用のパソコン。もう一台は満くんがアバターを操作するためのパソコンだ。一台じゃ手間がかかるし面倒だからな」
「あ、そっか」
満はうっかりしていたようだった。
「でも、さすが世貴にぃだよな。そういうところに抜かりはない」
「当たり前だ。俺はこのアバ信コンテストに人生を賭けるといってもいいくらいに入れ込んでいるからな。それはそうと満くん、モーションキャプチャとヘッドセットはちゃんと持ってきているかい?」
「うん、忘れずに持ってきたよ」
「オーケー、部屋の中で早速調整を始めるから、服を着替えて準備をしてくれ」
「分かった」
ひとまず最低限の話の話だけを済ませると、ルームキーに書かれた部屋番号の前へとやって来る。
中に入った満たちは、エアコンをつけて荷物を置く。
「ああ、涼しい。生き返るー」
「おい、満。年寄りみたいなことを言うな」
ベッドに座り込んだ満の放ったひと言に風斗は鋭くツッコミを入れていた。
「だって、しょうがないでしょ。今の僕の性質から考えれば、外は厳しいんだし」
「うっ、まあ、そうだな……」
満は風斗に言い返しながら、途中で買ってきたトマトジュースを一本開けていた。
「おやおや、リアルでも役作りかい? 感心するな」
「世貴にぃ、違うよ。こいつ、今半分本当に吸血鬼になってるんだ」
「……どういうことだい?」
笑いながら話す世貴に風斗が口を挟むと、世貴の表情が一気に真顔になる。
「こいつが女になっていることにも関係しているんだ。まあ、驚くだろうし信じられないとは思うけど、ひとまず聞いてくれよ」
「アバター配信者に不思議のひとつやふたつがあっても不思議じゃないとは思ってるが、関係者だから一応聞いておこう。知り合いでもあるしな」
世貴はしっかりと満と風斗と向き合っている。
全身から漂わせる雰囲気に、満は思わず寒気が走ってしまう。
さすがは今年で二十歳を迎えた世貴の迫力である。逆らえない雰囲気がある。
二人は少し縮こまりながらも、世貴に対して満の身に起きたことを話し始めたのだった。