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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第176話 世貴と羽美の慌ただしい日

 満たちが期末試験を終えた頃、世貴たちもまた前期末試験に追われていた。

 二年生の段階で大抵の単位を確保しておこうとして、授業を詰め込んだのがいけなかった。


「世貴、ここ分かる?」


「どこだ、見せてみろ。……おい、羽美。これが分からないのかよ」


「仕方ないでしょ。工学系の世貴と頭の構造が同じだと思わないでちょうだいよ」


 二人もまた、今は前期末試験の対処の真っ只中。

 講義の進み具合によってテストのタイミングが違うために、その都度テスト勉強が待っている。

 おかげで、最近の羽美はバイトを入れづらくて困っている。


「はあ、クロワとサンの売り上げがあるからバイトを入れなくてもどうにかなってるけど、そろそろお店に迷惑をかけてないか心配になってくるわね」


「だったら、土曜日くらい入れたらどうなんだ? 大学は休みなんだからさ」


「う~ん、そうしようかしらね。ああ、悩むわ」


 本気で羽美は頭を抱えていた。

 二人の生活を支えているのは、羽美のバイト代と絵師としての報酬、それと世貴の3Dモデルの売り上げである。

 去年に光月ルナのためのペットとして生み出したクロワとサンの3Dモデルは、色違いなどを含めて何種類か売り出している。他にも光月ルナの屋敷のオブジェをいくつかがラインナップされている。

 一度買えばそれまでの3Dモデルではあるものの、光月ルナの人気も相まって、なぜか今も継続的に売れていた。

 おかげで、羽美がこうやってバイトに出られなくなっても、親の仕送り以外の収入がわりかし安定しているのだ。


「クロワとサンが売れているとはいっても、いずれは限界が来る。こうやってバリエーションを増やしても、年月が経てば目に見えて売れなくなってくるんだ。貯められる時に貯めておかないとな」


「うん、そうだね。試験の終わった曜日からバイト増やすわね」


「ああ、そうしてくれ」


 羽美のバイトに関して、試験が終わり次第増やすことを確認したので、ひとまずこの話題はここで打ち切りとなった。

 だが、羽美がすぐに別の話題をぶん投げてくる。


「それで、世貴」


「なんだよ」


 まだ話が続くのかと、ちょっとうっとうしそうな反応をする。


「今月末のアバター配信者コンテスト、どうするのよ。場所はアリーナでしょ? 交通費で結構飛ぶわよ?」


「ああ、そういえばそうだったな。おかげで単位がいくつか落ちそうで困ったよ」


 羽美がアバター配信者コンテストの話題を出すと、世貴もさすがに困った顔をしていた。

 単位を落としても、来年、再来年で取り返すことはできるだろう。でも、世貴にとっては許しがたい汚点なのである。


「教官に言ってどうにかしてもらえないの?」


「一部の教官は融通が利かないだろうからな。まあ、でかいコンテストだから、ダメ元で訴えてみるか」


 羽美の提案にあまり乗り気ではないものの、世貴はひとつの手段として考えておくつもりのようだ。


「それで、どんな感じにするか決まってるの?」


 改めてアバター配信者コンテストのことで、世貴に確認をする。


「ああ、テーマは与えられているからな。それに沿って今構築しているところさ。悪かったな、羽美。そのためのルナちの新衣装を描き下ろしてもらってさ」


「そのくらい構わないわよ。私たちの子どもなんだもの」


「それ、外で言うなよ? 絶対誤解されるからな」


「分かってるって」


 世貴は頷きながらも、羽美に注意をしていた。

 アバター配信者の絵師をママ、3Dモデラーをパパというために、羽美からこんな発言が飛び出たのである。

 世間にはアバター配信者のことはそれなりに浸透しているとはいえ、まだまだ知らない人もいる。なので、世貴がこのように指摘するのも頷ける話なのだ。


「さて、さっさと勉強を済ませたら、アバ信コンテストに向けて調整を再開させなきゃな。大学を出るのは最低限やらなきゃいけないが、重要度でいったらアバ信コンテストの方が高いんだよ」


 まったく揺るがない世貴の信念である。

 彼の生活は、すべてがアバター配信者のためにあるといっても過言じゃないくらいだった。

 なにせ世貴は、将来の就職先としてVブロードキャスト社を志望しているくらいなのだから。試験くらいで彼の歩みを止めることなど、到底不可能なのである。


「さーて、どこまでやれるか分からないが、せっかくの機会だ。俺の持てる力のすべてをアバ信コンテストにぶつけてやろうじゃないか」


 試験勉強を終えた世貴は、今度はパソコンに向かって意気込んでいる。

 画面には、光月ルナの標準衣装が表示されている。

 世貴はここから、今回のアバター配信者コンテストのテーマに沿った光月ルナのグラフィックを作っていくのである。


「大体イメージはできてるんだ。任せてくれよ、満くん。俺は必ずあの舞台で、君を一番輝かせてみせるからな!」


 カタカタとキーボードやマウスを操作し始める。

 操作に応じて、画面の中の光月ルナのグラフィックが少しずつ変化していく。

 しばらくすると、羽美に描き下ろしてもらった新規の衣装を身にまとった光月ルナが表示されていた。


「うむ、さすがは羽美だな。俺が出した注文をしっかりと全部入れてくれてる。これなら、いい線を狙えるんじゃないだろうかな」


 表示されている光月ルナの姿に、世貴はかなり満足した様子だ。

 世貴が意気込むアバター配信者コンテストの開催日まであと二十日ほど。

 はたして、満と世貴はどこまで通用するのだろうか。運命の日が段々と近付いてきていた。

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