第171話 実は今月はイベントが多いらしい
「おはようですわ、みなさま。光月ルナでございます」
『おはよるなー』
『おはよるな~』
無事に月頭の最初の週末を迎える。
そうなれば、光月ルナの配信は言わずと知れたあれだった。
「もう恒例となりました、月の最初の『月刊アバター配信者』の配信でございますわね」
『やっぱり、これがないと月が替わった気がしねえ』
『だよなー。これがあってこそ、ルナちの配信というもの』
もはや定番となっている、光月ルナの月刊アバター配信者という月刊誌のレビュー配信である。
自分のことが載っていることもあるので、ちょっとくすぐったくなるところがある満なのである。
「おほん、アバター配信者といえば、Vブロードキャスト社の第五期生の募集が始まりましたね。第一次審査は書類審査ですので、Vブロードキャスト社に規定の書面を送っての審査となるようですね」
『そういえばそうだな』
『既定の書面って、ただの履歴書やろ?』
「履歴書ですか。僕は詳しくは知らないのですよね。なにせ吸血鬼ですから」
リスナーのコメントに対して、満は困りポーズをしながら反応している。
中身である満は中学生。履歴書の『り』の字すらもまだ分からない年頃である。
とはいえ、それを言うわけにもいかず、吸血鬼という設定を使ってうまく逃げたのである。
『ルナちって思ったより世間知らずか』
『真祖ならしゃーない』
『知らないルナちもまたいい ¥2,000』
どさくさに紛れてスパチャコメントが飛んでくる。
これには満も笑うし、リスナーたちも草を生やしまくっている。
「おほん、今月いっぱいですから、思うところがある方は応募してみてもいいかもしれませんね。僕はもうこっちで十分ですから、遠慮しますけれど」
『ルナちはすっかり安定したもんな』
『レニちゃんの突撃放送事故、あれがすべてやったね』
『何があったんや、放送事故って・・・』
『詳しくはまとめサイトでも見るがええで』
「うん? まとめサイトですか?」
『しまった』
『おい、口を滑らすな』
リスナーたちが突然騒がしくなる。
さすがにこれには満も気になってしまったようだ。
「どういうことなんですか。説明して下さいませんか?」
圧力をかける。
そりゃまあ、気になってしまうのは仕方ないというものだ。
ある程度人気が出てくると、ネット上にある百科事典に個別記事が作られることがあるのだ。
リスナーが今ポロリとこぼしたのは、そういった系統のサイトのことである。
実は、光月ルナをまとめたサイトもすでに登場している。
『ルナち、あまり心配するな。悪口に関しては全部俺が消し去ってやっているぞ』
『ルナちのパパwww』
『またおるんか、この人www』
『配信があると毎回おらんか?ww』
世貴のコメントに反応して、リスナーたちが一斉に書き込んでいく。
あまりのツッコミの多さにあっという間にコメントが流れていってしまい、最後には『w』という文字だけが大量に表示されている事態となった。
世貴の登場は相変わらず反応ががよいようだった。
「おほん、どういうことが書かれているかは知りませんが、いちいち気にするつもりはありませんわ。僕は真祖、他人の評価など気にすることなどありませんわ。真祖は至高の存在なのですから」
『さすルナ』
『さすルナ』
リスナーたちのコメントが、面白いように同じ言葉が並ぶ。
「さて、だいぶ話が逸れてしまいましたね。第四期生のデビューから半年ですから、どんな方々が現れるのか実に楽しみですわね」
『禿同』
『外部からの配信だから、目が届かないって変なことするのがいなきゃいいんだがな』
『それは俺も思うな』
『事前に打ち合わせはするだろうけど、確かに心配になるな』
満もそうだが、リスナーたちの興味もかなり大きいようだ。
『ルナち、アバ信コンテストはどうなってる? ¥1,000』
そんな中、一人のリスナーがスパチャを使って質問を投げかけていた。
スパチャだと発言が目立つので、さすがに満も気が付いたようである。
「アバター配信者コンテストですか。本選考は七月末に行われるそうですね。今月の『月刊アバター配信者』にもきっちりと記載されていましたわ」
『今月末か』
『配信されるん?』
『アバ信コンテストって何?』
「大手のエンタメ会社が企画している、優秀なアバター配信者を決めるコンテストですね。優勝すると、全国の自治体のアピールに出演するなどの仕事が入るようです。知名度を上げるのであれば、一度は狙ってみる価値はあるとおみますわね」
『ほーん』
満が説明するも、質問したリスナーはいまいちよく分かっていないようである。
つまりは、大手企業がバックについて行われる、地域振興のアバター配信者になれるという企画である。
一年限りとはいえ一般への露出が一気に増えるので、アバター配信者の知名度が抜群に上がるというわけなのだ。
ちなみに、本選考の様子は配信が行われる。それは月刊アバター配信者にも書いてあるのだ。
「確かに応募はしましたけれど、リスナーの方々ならきっと結果は分かっていらっしゃると思います。ですが、ここでは差し控えさせて頂きますね」
『ルナちがそういうのなら、もう聞かない』
『うむ。無理強いをする人間にはなりたくないのだ』
実に聞き分けのいいリスナーたちなのである。
「さて、お時間になりましたので、本日はここまで。また次回の配信をお楽しみにしていて下さいませ。ごきげんよう」
『おつるな~』
『おつるなー』
満は『配信終了』のボタンを押して、今日の配信を無事に終えたのだった。