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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第168話 新しいことには頭を悩ませるものだ

 六月も下旬に差し掛かり、ようやく四期生の体制が落ち着いてきた頃だった。

 Vブロードキャスト社のアバター配信課では今日も社員が集まっていた。


「そろそろ七月です。第五期生の応募期間が始まりますが、みなさん大丈夫でしょうか」


 課長である柊が仕切っている。

 現在のVブロードキャスト社で抱えるアバター配信者の数は全部で十七人。

 社内に抱えるスタジオも三つしかなく、この人数が同時に配信を行うにはかなり厳しい状況だった。なので、基本的には単独配信というものは少なく、ぴょこらやマイカのように複数人がまとまって配信というのが通常である。

 本社配信というネックを取っ払うために設定したのが、今回の第五期生というわけだ。

 本社に出向くことなく、自分たちの環境で配信ができるようになる。

 配信の自由度が高くなる代わりに、様々なリスクが伴う。


「今まで閉鎖的だった環境をいきなりオープンにするというのは、正直って戸惑いましたね」


「そうですよ。今までセキュリティでガチガチにしてアバター配信者の個人情報に配慮してきましたのに、それをいきなり外部から配信OKだとか、さすがに俺たちも戸惑ってばかりです」


 森や橘が正直な気持ちを吐露している。

 海藤や犬塚たち他の社員も同じような思いだ。


「とはいえな、あれだけ大々的に発表してしまった以上、もう後戻りはできない。今もシステム開発部が必死こいて外部配信のためのシステムを構築してるところだ。もう詰めの状況だからデスマ状態だよ」


「ああ、あいつらも大変だな……」


「そのデスマが終わっても、テストと修正の地獄が待ってるもんな」


 柊も頭を抱えている状況に、システム開発部に同情せざるを得なかった。


「基本的な配信は大手の動画配信サイト『PASSTREAMER』との提携の上で行うのは変わらない。あそこのアカウントセキュリティは厳重だからな。その上で、どうやって外部の配信を制御するかっていうことだ」


「それはシステム開発部の問題でしょう。こっちは契約書に載せる文言を必死で考えてきたんですからね。今までとは基本は同じですが、さすがに社外での配信がメインですからね。必要に迫られた変更が何か所もあって大変でしたよ」


 選考は今までと同じで、書類選考、面接選考、実技選考の三段階で二か月半をかけて採用者を決める。

 なので、契約書が必要になるのは九月末になるはずなのに、もう新しい契約に向けて修正した契約書を作成したらしい。


「それで、どのようなシステムを考えてらっしゃるんですかね、社長は」


 橘がずいぶんと荒んだ態度を見せている。


「一応、私が聞いたところによれば、まず契約者は我が社のサイトにアクセスしてログインをする。そこからPASSTREAMERのリンクをクリックして専用のアカウントにログインをする。そういう形をとるらしい」


「またずいぶんと面倒ですね」


 柊の説明に森は率直な感想を漏らしていた。


「仕方ないだろう。我が社で作るアバターのデータを外部に流すわけにはいかないのだからな。我が社のサイトにアクセスしてもらうのはそのためだそうだよ」


「なるほど、分かりました」


 海藤はすんなり理解していた。さすがは配信の時に補助スタッフをしているだけのことはある。


 Vブロードキャスト社のアバター配信課の会議は、本格的に始まりを迎える新規第五期生の募集を前に、ずいぶんと過熱しているようだった。


「それで、今回の書類審査とかにも、華樹ミミくんに加わってもらうのかい?」


 話し合いの中で、柊が森に確認をしている。

 森はその質問にかなり唸るほど困ってしまった。

 華樹ミミこと星見は、前回の第四期生の選考でもかなり絡んでいた。

 しかし、彼女はあくまでも外部の人間である。将来的に入社するならまだしも、まだ一般人である華樹ミミを、会社の業務に積極的に関わらせるのはどうかというジレンマなのである。


「正直、彼女に話せば二つ返事で了承してくれるでしょうね。ただ、まだ一般人ですからね。そこが問題というわけなんです」


「アルバイト代を出せばいいとか、そういう問題でもないでしょうね」


「……やっぱりそうだよな。森、それとなく彼女に打診はしておいてくれ。正直人手が欲しいところなんでな」


「結局そうなるんですか。はあ、分かりましたよ」


 消極的な話をしていたのに、結局第一期生である華樹ミミに手伝いの要請をすることになってしまった。

 華樹ミミの担当をする森としては、頭が痛い問題のようだ。


 長々と続いた会議だったが、システム開発部と細かく連携を取りながら、選考を進めていくことになった。

 なにせ、配信者たちの使うアバターの管理はアバター配信課で、それを扱うためのシステムはシステム開発部で管理しているからだ。互いが協力し合わないと、どんな不具合が起きるか分からないからである。


「さあ、もう一週間もすれば七月だ。第五期生の応募に備えて体調を整えておくように」


 最後に柊が締めて会議が終了する。


 マイカたち第四期生の初の後輩となる第五期生。そこには一体どんな人物たちが集まってくるというのだろうか。

 初の外部配信を行うお抱えのアバター配信者たち。

 Vブロードキャスト社の分岐点はすぐそこまで迫っていた。

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