第164話 照れる満は可愛いらしい
「おはようですわ、みなさま。光月ルナでございます」
『おはよるなー』
『おはよるな~』
満が配信を始めれば、みんなはいつもの挨拶で反応をしてくれる。
すっかりリスナーとのやり取りも馴染んだものだ。
「本日の配信は、もう毎月の頭の定番となりました『月刊アバター配信者』ですわ」
『ああ、今月の頭だったな』
『おい、日付感覚』
『ルナちのおかげで、月の最初の週末なんだなって分かるんだよ』
どうやらリスナーたちの一部は、満の配信で日付感覚を取り戻すらしい。なんとも笑えない状況のようだった。
ただ、まだ中学生の満にはそのあたりのことはよく分からないようだ。
「みなさまがどういった状況なのかはちょっとよく分かりませんが、本日の僕の配信で少しでも元気になれたらと思いますわ」
『ルナち優しい』
『やっぱりママだよ、ルナちは』
リスナーたちがいろいろとコメントを打ち込んでくるものの、満はとりあえず微笑ましく思いながら軽く流しておいた。
「では、本題に入りますわね」
前置きもほどほどに、満は今日の配信のメインへと移る。
「今月購入しました『月刊アバター配信者』ですけれど、やはりVブロードキャスト社のことが大きく取り上げられておりましたね」
『ああ、ブイキャスの第五期生の話だっけか』
『社長のインタビューが四ページにもわたって載ってたな。どこにそんだけあるんだと思ったけど、ずいぶんと本気だったみたいだよな』
『みんなも思ったよりあの本読んでるじゃまいか』
『いやぁ~、ルナちが読んでるとなるとついな』
『わかるマン』
リスナーたちのコメントを見る限り、やはり好きなアバター配信者の影響というのは受けてしまうものである。
満の『SILVER BULLET SOLDIER』にしてもそうだからだ。真家レニの真似をしてみた結果、満自身もかなりはまっている状態になっている。
まだまだランキングは低いものの、遊び始めて一年未満としてはかなり上達が早いと思われる。
「えっとですね。その社長のインタビューですが、僕もかなり興味深く読ませて頂きました。思わず寝過ごして今日の配信の告知が遅れてしまいましたわ」
『ああ、ルナちのSNSの告知が遅いなと思ったらそういうことか』
『ルナちも興味あるん?』
『アバター配信者なら興味あって当然じゃね?』
『ルナちも受けるん?』
満の言葉に、いろいろと反応がある。
「ふふっ、僕は吸血鬼の真祖ですよ? どこかに所属するということはありませんわ。僕が中心なのですから」
『強気な発言キター!』
『やっぱりルナちはルナちよな』
なぜか盛り上がるリスナーである。
この盛り上がりには、さすがの満もちょっと困惑気味である。
「えっと、それでVブロードキャスト社の話題に戻しますね。書類審査は七月、二次審査を八月に行うみたいですね」
『まだ先だな』
『四期生がデビューしてまだ半年経っとらんから、余裕持たせたか』
『あー、なるほどね』
満のひと言から、リスナーたちは勝手に盛り上がっていく。それだけリスナーたちもVブロードキャスト社の動向は気になっているようだ。
「今回の特徴は、本社以外からの配信を解禁するみたいですね」
『今までのネックだったところやな』
『完全防音の本社と違って、生活音が入りやすいのが難点やぞ』
『身バレはあり得るよな』
『会社のデータ使うやろから、セキュリティとか大変そうだな』
またひと言でリスナーたちがいろいろと話を広げていく。
特に生活音は満にとっても問題だ。
アバター配信者の個人勢は、自室で配信していることが多い。
満も配信を始めるにあたって、風斗や世貴からも結構口うるさく注意されたところだ。
なので、カーテンもわざわざ二重にしてみたくらいだ。おかげで、満の配信には生活音はほぼ入ってこない。
「なるほど、本社だと移動が問題で、本社以外だと音が問題というわけなのですね」
『そうやなー』
『ルナちも音対策はしてるん?』
唐突に音対策について話題が振られる満。
だが、この程度では慌てないのが、吸血鬼の真祖ではないか。満は落ち着いて咳払いをひとつする。
「そうですわね。僕は吸血鬼ですから、太陽への対策をしなければなりません。そのためにカーテンは二重にしてありますから、自然と同時に音への対策もできていたようですわね」
『なるほど』
『カーテン二重はてうい』
『光を遮るほどなら、音も遮っちゃうのかー』
驚きと納得にあふれたコメントに、満はついふふっと笑ってしまっていた。
『ルナちの笑い声、いただきましたー』
『かわいい』
『真祖とはいえ、見た目は少女。笑い方もかわいいのう・・・』
リスナーたちの反応に、満は思わず顔を赤くしてしまう。
「お、おほん。お、おだてても何も出ませんでしてよ」
『照れてる』
『照れてるルナちはかわいい ¥5,000』
照れただけでスパチャが飛んできた。さすがにこれにはさすがに困惑してしまう満なのである。
「で、では、もうそろそろお時間もよろしいですし、本日の配信はこれにて終了いたしますわ。みなさま、ごきげんよう」
『おつるなー』
『おつるな~』
配信の終わりを告げる挨拶をすると、リスナーたちからいつもの挨拶が返ってくる。
恥ずかしく思いながら、このコメントには安心する満なのであった。