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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第158話 燃える世貴

 一次選考を突破したという知らせは、すぐに世貴にも知らされる。


「おっ、満くんからのメールだな。ふむ、なになに? そうかそうか、そりゃそうだよな」


「どうしたのよ、世貴。顔がにやけてるわよ」


 この日はたまたまそばにいた羽美が、あまりにも世貴が緩んだ顔をしているものだから気持ち悪がっている。


「そりゃあ、羽美、俺だって喜びたくなるさ。アバター配信者コンテストの話は、前もしただろう?」


「ああ、なんか言ってたわね。ということは、予選を通過したってわけね」


「ザッツライト!」


 わけの分からないポーズを取りながら、なぜか英語で返してくる世貴である。これには羽美も呆れ顔になってしまう。

 世貴も羽美も、昔っから満のことを可愛がっていた。まったくもって血のつながらない相手だというのに、実の弟じゃないかと思えるほどだった。

 そう、呆れてはいるものの、羽美も大概なのだ。


「私の場合はキャラデザを描き起こして、それからはほとんど関与してないものね。世貴の方はいろんなものを追加してたから、自分のことのように喜ぶのは当たり前か」


「その通りだよ。〆切の直前に桜を追加したのも大きいようだね。でも、人前に出ることになると思うと、俺もなかなかに緊張してしまうな」


 こんなことを言ってはいるが、世貴の顔は実に楽しそうだ。

 プロを相手に実力勝負ができるのだから、自分の力を試すにはもってこいというものなのだ。

 さすがの羽美もわくわくとした表情を見せ続ける世貴に興味を持ったのか、パソコンのモニタを覗き込んでいる。


「おう、やっぱり気になるか。一応羽美も関係者だからな、しっかり目を通しておいてくれ」


 世貴は満が転送してきたメールの内容を表示させる。

 メールが表示されると、羽美と一緒に内容を再確認し始める。


「ずいぶんと大きな会場を押さえているのね」


「一大イベントだからな、アバター配信者にとっては。こんなところでモデルを組めるのかと思うと、楽しみで体の震えが止まらなくなる。ああ、早く当日にならないかな」


 世貴の興奮具合は留まるところは知らなかった。

 ところが、羽美の方はとても冷静だった。


「張り切るのはいいんだけどね、どうやってこの会場まで行くの? 私たちの大学はまだ終わってないし、前期末の真っ只中よ? 単位落とすのはやってられないわね」


「まぁそうだね。高校生以下だと確実に夏休みに入っているとはいえ、俺たち大学生はそうとはいかないからな。なあに、対策は立ててあるさ」


 やたらと自信たっぷりな世貴の姿に、羽美の理解はまったく及ばなかった。


「確かに、会場までの足は必要だな。最悪満くんの両親に頼むことにしようか」


「それが妥当なラインかしらね。私たちも免許を取ったはいいけれど、若葉の運転じゃ気が気じゃなくなるだろうし」


「そうだな。俺たちの役割は満くんのサポートだ。不安にさせてしまっては意味がないからな」


 世貴は自分の立ち位置をしっかりと理解しているようである。

 とにかく自分たちがどうやれば満の実力をいかんなく発揮できるのか、そればかりを考えている。


「よし、とりあえずこの件は了承と返しておくよ。移動手段は満くんに任せて、俺たちは徹底的にサポートだ」


「了解。とはいっても、私は当日は行かないけどね。こういう時って絵師は出番がないもの」


「そうだな。とりあえずテーマが分かっているみたいだから、適当にラフを描き起こしておいてくれ。あとの処理は全部俺がやるから」


「そこまでいうんじゃ、あたしはそれに従うわ。まあ、頑張ってちょうだい」


 羽美はそういうと部屋を出ていく。

 今日の料理は羽美が担当しているからだ。


 羽美が台所に移動したのを確認すると、改めて世貴は満から転送されてきたメールに目を通す。

 そこには本選考で扱うテーマが書かれているのだ。


「ここに書かれたテーマに沿ったアバターを用意して、当日にも発表される内容を踏まえて配信を行う。まったく、俺たちの実力が問われるいやらしい審査だな」


 難しそうだなと言っているようだが、さっきから顔はにやけたままである。

 嫌がっているというよりは、楽しみで仕方がないという表現がしっくりくる状態である。


「まっ、ここに書かれたテーマに沿ったアバターやテクスチャなら、それほど時間もかからずに用意できるだろう。満くんが実力を発揮できる環境を、しっかり整えてやらなきゃな」


 椅子に座って、世貴は本格的にパソコンをいじり始める。


「ふっ、実に燃えてきたな。これは眠れない夏になりそうだな」


 もうすぐ六月である。

 約二か月後に控えたアバター配信者コンテストの本選考に向けて、世貴の戦いは既に始まっていた。

 世貴は不思議と満のためなら手間暇を惜しまない。

 ある程度作業が進んだところで、世貴は大事なことを忘れていたことを思い出した。


「そうだ、メールに返事を送っていなかったな。会場への往復を任せることも伝えておかないとな」


 作業を一時中断して、世貴は満に向けたメールをしたため始めた。


 アバター配信者コンテスト。今年は一味も二味も違ったコンテストになりそうである。

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