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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
157/315

第157話 発表の日

 いよいよ問題の日がやって来た。

 今日は五月三十日。アバター配信者コンテストの一次選考の結果が分かる日だ。

 しかし、サイト上で案内されるのは本選考の日時と会場だけであり、参加者の名前は記されない。アバター配信者のプライバシーに考慮された形になっているようだ。

 その日の満は学校でも気が気ではなかった。

 本来なら吸血衝動で体が変化するはずなのに、緊張のし過ぎでルナの姿で学校に現れたからだ。

 朝、クラスにルナの姿で入ってきた時には、風斗は思わず椅子から転げ落ちたくらいだったのだから。


「なるほどな。一次選考の結果を気にし過ぎて変身したままと、そういうわけか」


「うん。夜はよく眠れたんだけど、起きたらこの姿だったから僕も驚いてるよ」


 ここ最近は満とルナの姿はほぼ一日交代だった。それが連日となると、風斗も思わず険しい顔をしてしまう。


「このまま、体を乗っ取られやしないだろうかな」


「うん、何か言った?」


 ぼそりと呟いたら、満に困った顔で迫られていた。その表情を見た風斗は、思わず満の手を払ってしまう。


「いや、なんでもねえよ。一人で見るのがつらいなら、俺も付き合ってやるからよ」


「うん、ありがとう、風斗」


 風斗の提案に喜ぶ満だったが、この時の風斗の顔をしっかり見ていないのは、はっきりいってミスだっただろう。


(……満は男だ。親友なんだから、こんな気持ちになるのは、おかしいだろ……)


 満がにこやかに笑う中、風斗は満の顔を直視できないまま、顔を真っ赤にしていた。


「と、とりあえず授業が始まるぞ。自分の席に戻れよ」


 直視しないまま、満を自分の席に戻そうとしている。風斗の態度を怪しく思った満は、不満そうな顔を向けている。


「変な風斗。こっちを見てよ。そしたら、席に戻るから」


「も、もうチャイムが鳴るだろ。さっさと戻れよ」


 風斗は意地でも顔を向けないつもりのようだ。自分の今の顔を満に見られたくないらしい。


「風斗~?」


 満は唇を尖らせているが、風斗は顔を背けたままだ。

 そこで、次の授業が始まるチャイムが響く。


「ほら、チャイムが鳴ったぞ。戻った戻った」


「は~い。それじゃ、放課後、僕の家に付きあってよね」


「分かったから、さっさと戻る戻る」


 追い払われるように、満は自分の席へと戻っていく。

 ようやく顔を満の方へと向けた風斗は、大きく安堵のため息をついていた。


(ふぅ、あいつと席が離れていて助かったぜ。まったく、どうしてこんな風になっちまったんだろうな。わけが分かんねぜ……)


 教師が現れるまでの間、風斗は机に軽く伏してしまったのだった。

 親友のはずの満との間に生まれた感情を、理解するのを拒むかのように。


 放課後、落ち着きを取り戻した風斗は満の家にやって来た。心の準備ができていないという満と一緒に、アバター配信者コンテストの一次選考の結果を見るためだ。

 コンテストのホームページでは通過者の発表が行われず、応募時に使ったメールアドレスに合否の結果が記載されている。

 そこには本選考にて扱うテーマも記載されているらしい。


「ただいま、お母さん」


「あら、お帰りなさい。風斗くんもいらっしゃい」


「お邪魔します」


 満の母親が出迎えてくれたので、ひとまず挨拶をしている。

 家に上がって満の部屋へとやって来ると、部屋の内装に風斗は思わず目を疑ってしまう。


「ずいぶんと、部屋の中が変わったな」


「う~ん、そうかな。やっぱり、こっちの姿の頻度が増えたから、知らないうちに影響されちゃったかな」


 もともと飾り気のない部屋だった満の部屋だが、半分くらい可愛らしいもので埋め尽くされるようになっていた。


「でも、この机の周りは元のままだよ。さすがに自分を見失いたくないからね」


 満はどこか誇らしげな表情をしている。


「まぁ、それは今はどうでもいいよね。とりあえずパソコンを起動するから、ちょっと待っててよ」


「お、おう」


 風斗に声を掛けて、満は早速電源を入れてメールチェックを始めることにする。

 この後何も手がつかなくなってしまう可能性はあるけれど、一番最初に確認作業をすることにした。

 実は応募した直後に自動返信で、アバター配信者コンテストの一次選考の結果に関わらず、応募者全員にメールは送信されるという記載がなされていた。だからこそ、満はメールを確認するのである。


「それじゃ風斗、メールボックスを開くよ」


「お、おう」


 満の言葉を受けて、風斗もごくりと息を飲んでいる。

 メールボックスには新着メールが来ていることを示すマークがついている。

 受信箱を開くと、『アバター配信者コンテスト公式』という名の差出人のメールが一番上にあった。時刻は13:17と書かれているので、お昼休憩後から一人一人に宛てて送ったものと思われる。

 意外と仕事が細かいなと思う満と風斗だった。

 ごくりと息を飲んで、二人は件名へと視線を向ける。

 そこにはこう書いてあった。


『一次選考通過のお知らせ』


 どうやら、満が送った動画は無事に一次選考を突破できたようである。


「よかったな。これで世貴にぃたちに相談ができるな」


「うん、僕もほっとしたよ。ひとまず、本選考の日時と場所を確認しなきゃ」


 嬉しさをかみしめながらも、次の段階に向けての準備へと入る。

 アバター配信者になってからの満の成長に、風斗は安心した表情を見せたのだった。

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