第153話 青春は分からない
週末、再び満は風斗と街に繰り出していた。
駐輪場に自転車を預けて、いつものように並んで歩いている。
「満……。本当に女になることが増えたな」
「うん、なんだかごめん。でも、僕の意思じゃどうにもならないんだよ」
「だなぁ……」
今日も満は女になっているようだった。
中学二年生ともなった満の体は成長を続けている。
男の姿の時も身長は伸びてはいるのだが、女の姿の方も負けじと成長をしている。
まだ香織には負けるものの、全体的に女性らしさが増してきており、満はとても悩んでいるようだった。
「ルナさんが本格的に復活となれば、僕はこのことに悩まずに済むんだけどなぁ……」
「まあ、それはそうなるように祈るしかないな。付き合わされるこっちの身にもなってもらいたいぜ」
風斗は大きくため息をついていた。
なにせ、最近はすっかり暑くなってきてしまった。そのせいで満の服装も目のやり場に困り始めたのだ。全部暑さが悪い。
「とりあえず風斗、いつもの通り書店に寄っておく?」
「だな。今日は漫画の新刊を買う予定だったからな。やっぱ紙の本がいいぜ」
満に話し掛けられて、風斗はそのように返していた。
どうやら満も風斗も、本は紙派のようだ。
そういえば、毎月買っている『月刊アバター配信者』の本も、電子版が販売されている。だというのに、満は必ず書店で取り置きしてもらってまで雑誌を購入しているのだ。
「えっと、新刊コーナーはっと……」
書店に入るなり、風斗はきょろきょろと辺りを見回している。
「風斗、そんなに探すようなものかな。レジ前の棚がそうじゃないか」
「おお、そういやそうだったな」
気が逸りすぎたのか、本気かボケか分からない行動を取る風斗に、満は冷静にツッコミを入れていた。
「あったあった。やっぱりホップステップの漫画はハズレがないよな」
「まぁそうだよね。男女問わずに読んでる人は多いからね。まぁ、僕はこっちのヨルデーの漫画の方が好きだけどさ」
新刊コーナーの本をじっくりと見ながら、風斗と話を弾ませている。
結局、週刊誌で追いかけている漫画の単行本を購入して、満たちは書店を後にした。
「で、満」
「なんだよ、風斗」
書店から移動した二人は、いつものハンバーガーショップに移動していた。
ここの二階席でしばらく話し込むのが、いつものお出かけのパターンなのである。
「やたらと周りから見られてるな」
「本当だね。そんなに注目されるようなことしたっけか」
風斗に言われて、満は周りからの視線にようやく気が付いたようだ。
「何を言ってるんだよ。満が目立ってるに決まってるだろ」
「僕が? なんでだよ」
風斗の指摘が理解できないらしく、満は困惑した顔をしている。
「銀髪美少女なんてそうそうお目にかかれるもんじゃないからな。それにだな……、お前の服装もかなり興味を引いていると思うんだよ」
「ええ~……。こんな格好、今どき誰でもしてるじゃないか。ほら、あっちにもいるし」
今日の満の服装は、キャミソールにカーディガン、裾フリルの膝上スカートだ。ちなみにオーバーニーソックスは標準装備である。あくまでもお嬢様のイメージがあるような服装を選んでいる。
それでもかなりの視線を集めてしまっているのが、銀髪美少女の満というわけである。
食事を終えた風斗は、勢いよく立ち上がると、満の手を引いて店を立ち去ろうとする。
「ちょっと、風斗。急に引っ張らないでよ」
「悪い。今日はさっさと帰ってお前の家で話をしようか」
「どうしたんだよ、風斗。最近おかしいよ」
満が叫ぶものの、風斗は耳を貸さなかった。
「とりあえずさ、片付けだけはしていこう。放っていくのはお店の迷惑だよ」
「……そうだな。マナー違反はさすがにダメだよな」
テーブルの上が散らかしっぱなしの状態を確認した風斗は、満と一緒にてきぱきと片付けていく。
片付けが終われば、そそくさと逃げるように店を去っていった。
背後からは微笑ましさと嫉妬の様々な視線が突き刺さっていたのだが、鈍い満はまったく感じ取っていなかった。それどころか、風斗の突然の行動に困惑するばかりだった。
駅前の通りから満の家に戻ってきた二人は、早速家に上がる。
「まったく、どうしたんだよ、風斗」
「俺でも、分かんねえよ。でも、不思議と今のお前をあそこに置いておく気になれなかったんだよ」
怒る満に、風斗は落ち着かない様子で声を荒げながら答えている。
「ああ、くそっ。気持ちが落ち着かねえからもう帰る。また学校でな、満」
「えっ、ああ、うん」
満の家に上がりながらも、バタバタと帰っていく風斗の姿に、満は困惑しかできなかった。
びっくりした様子で部屋に母親がやってくる。
「あら、もう帰っちゃったの、風斗くん」
「うん、落ち着かないとか言って帰っちゃった」
「そっかぁ~。うん、青春だね」
「……お母さん? 何言ってるの、わけが分からないんだけど」
「……風斗くんも苦労するわね」
満の反応を見た母親は、頬に手を当てながら大きくため息をついている。あまりの鈍さに心配になったようだった。
一方の満は、母親の態度に首を傾げるばかりだった。
この複雑な友人関係。解決を見る日は来るのだろうか……。