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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
152/316

第152話 華樹ミミの持ち込み企画

 Vブロードキャスト社で会議が行われていた翌日の事、本社ビルを訪れる一人の女性がいた。


「あれ、華樹ミミさん。今日はどうなさったんですか」


「こんにちは。今月は間に合わないから、来月の配信企画を持ち込みに来たんですよ」


「それはそれは。って、配信じゃないんですね」


「ええ、今日は違いますよ。森さんはいらっしゃいますでしょうか」


 企画を持ち込みに来たということで、Vブロードキャスト所属の多くのアバター配信者の担当をしている森に話を通そうというわけである。


「森でございますね。今お呼びしますので少々お待ち下さい。待ち合わせはスタジオフロアでよろしいでしょうか」


「はい、そのようにお伝え下さい。あそこなら私たちのプライベートは守られますからね」


 入社許可証をちらつかせて、華樹ミミは笑っている。

 ちょっとにやついているような華樹ミミを見て、受付は笑いながら受話器を持って内線を掛けている。


『はい、アバター配信課の森です』


「森さん、お疲れ様です。華樹ミミさんがいらっしゃっております」


『華樹ミミが? 分かりました。スタジオフロアに向かうように伝えて下さい』


「承知致しました。では、お通ししますので、ご対応よろしくお願いします」


 内線を切ると、華樹ミミに向かって受付は笑顔で親指を立てていた。

 その様子があまりにもおかしかったので、華樹ミミも同じポーズを返しておいた。


 Vブロードキャスト社のスタジオフロアに移動した華樹ミミは、打ち合わせブースの中で森がやって来るのを待つ。

 しばらくすると、コツコツと足音が響く。


「お待たせしました。森でございます」


 扉がノックされて声が聞こえてくる。間違いなく森の声だったので、華樹ミミは立ち上がって扉を開いた。


「おはようございます、森さん」


「ええ、おはようございます。どうなさったんですか、今日は配信の予定ではないでしょうに」


 森は困った様子で話している。

 普通は予定もないのに会社に出向いてくるようなことはない。

 だが、この華樹ミミだけは例外だった。

 それというのも、このVブロードキャスト社のアバター配信課を立ち上げて以降、華樹ミミは会社の事業を支え続けてきた一員なのである。

 そして、今もVブロードキャスト社のトップアバター配信者として君臨している。

 今回も配信のネタを持ち込んできたらしく、森は少し期待をしながら席に着いた。


「それで、どういうつもりなのですかね」


「ええ、もう次の日曜日は母の日ではないですか」


「そうですね。でも、今日は火曜日ですので、企画を持ち込むにしても間に合いませんよ」


 互いに真剣な雰囲気で話をしている。

 長い付き合いになっているので、互いに雰囲気で察せてしまうところがあるようだ。


「分かっています。ですので、来月の父の日に合わせて企画を出そうと思っています」


「それならいいでしょう。華樹ミミの話なら、聞いておいて損はないでしょうし」


 森はため息をつきながら、改めて華樹ミミをしっかりと見ている。


「母の日、父の日にちなんで、私たちアバター配信者から、アバターのイラストとモデリングを担当して下さった方々、つまりママとパパにお気持ちを伝える企画を考えました。Vブロードキャスト社のアバター配信事業も長くなりましたからね」


「なるほど、その企画はいいと思いますね。ちょうど五期生の募集を控えた時期になりますし、上には掛け合ってみます。いくらあなたの企画とはいえ、通るとは限りませんからね」


「分かっていますよ。私はあくまでも外部の人間ですしね。運営に口を出すのも厚かましいかとは思っていますよ。でも、関わっている以上は、少しでも良くしたいとは考えてしまいますからね」


「ええ、あなたの考えはよく分かっていますよ。設立当初からの仲間ですからね」


 しばらく話をしていた二人は、少し黙り込んでしまう。

 さすがに気まずくなったのか、森がそそくさと立ち上がる。


「ちょっと飲み物を持ってきます。ちょうどいいですから、あなたを含めて次の配信について話をしましょう」


「いいですね。同期や後輩たちとの配信も楽しいですから」


 にこやかな笑顔を見せる華樹ミミを見て、森は思わず笑みがこぼれてしまう。


「本当にあなたは相手を選びませんよね。それがあなたの一番の強みだとも思いますけれど」


「そう言って頂けると嬉しいですね。これからもVブロードキャスト社のアバター配信者たちを引っ張っていけるように頑張ります」


 終始和やかな雰囲気で、華樹ミミと森との間で打ち合わせが進んでいく。

 その打ち合わせは華樹ミミだけではなく、他の森の担当するアバター配信者にも波及していっていた。


「ずいぶんと話し込んでしまいましたね」


「ええ、そうですね。今日の私は予定がなかったので問題はありませんけど。ごめんなさい、仕事中に手間を取らせてしまって」


「いえ。次回配信の打ち合わせができたのなら、十分業務とみなされるから問題ありませんよ。本当にあなたと一緒だと、話が弾んでしまっていけませんね」


「ええ、まったく」


 華樹ミミと森は、楽しそうに笑っていた。

 打ち合わせを終えた森は、華樹ミミから持ち込まれた提案を持って業務フロアに戻っていく。

 企画を持ち込めてひと安心した華樹ミミは、自宅へと戻っていったのだった。

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