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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第151話 香織の悩み

 ゴールデンウィーク明け、今日は珍しく満抜きで風斗と香織の二人が話をしている。


「珍しいな、花宮が俺の方に用事があるって」


「うん、村雲くんだけだからね、あのこと知ってるの。だから、ちょっと相談がしたくなったの」


「ああ、あれか……」


 風斗だけが知っているという発言を聞いて、香織が何の相談を持ちかけてきたのか察してしまう風斗である。


「守秘義務もあるだろうに、そんなほいほいと持ちかけていいものかと思うんだがな」


「そ、それは……。でも、みんなにだと相談しづらいこともあるじゃないのよ」


 段々と声が小さくなっていく香織の様子を見て、気持ちすらも察してしまう風斗である。

 いわずもがな、香織が風斗に持ちかけたのは、アバター配信者の件だ。

 香織は現在企業が展開するアバター配信者集団の一人だ。それゆえに、風斗の言うとおり守秘義務というものがある。おいそれと外部の人間に話をしていいものではないのだ。

 香織の方だって、それは重々承知している。でも、担当のマネージャーに相談をしようにも、少し引っ込み思案なところのある香織には厳しいというものだ。

 そこで、幼馴染みで香織のことを見抜いている風斗に相談を持ちかけたというわけだった。

 風斗も風斗で幼馴染みからの相談ということで無下にもできず、こうやって相談を仕方なく受けているという状況である。


「で、どういうことを相談に来たんだよ。俺だって同い年である以上、大したことは話せたもんじゃねえぞ」


「うん、分かってる。だけど、誰かに聞いてもらいたいから」


「はあ……、まあいいけどな。とりあえず言ってみろよ」


 あまりにも思い詰めたような様子を感じたので、風斗はあーだこーだというのはやめた。


「今のアバターのキャラ付けってい、今のままでいいのかなってね。外からの意見を聞きたくなったの」


「ああ、そのことか。その分だと、本来の設定から外れてきてるってことか。いいんじゃねえのかな、今のままで」


 風斗からはあっさりとした答えが返ってくる。予想外にすんなりといわれたものだから、香織はびっくりして風斗の顔をまじまじと見ている。


「なんだよ。相談内容からすると、おそらく花宮が担当しているキャラの性格付けは真逆だったんだろ? いいじゃねえか。やってるうちにキャラが変わるなんてよくあることだし」


「そ、そうかな」


 風斗がアドバイスしても、香織はまだ不安げにしている。


「そうだよ。第一、お披露目一発目であれをやらかしたんだ。ドジっ子属性はもう拭えんだろうがよ」


「うぐっ」


 風斗による黒歴史の掘り返しに、香織は思わず苦い顔をしてしまう。

 風斗の言うあれとは、お披露目配信でいきなり盛大に転んだことだ。あれのおかげで香織の演じる黄花マイカはドジっ子属性が定着してしまったのだ。

 妖精というといたずらをするイメージが強いが、黄花マイカはドジによっていたずらをやらかしてしまう偶発的トラブルメイカーという位置づけが一瞬でなされてしまったのである。


「それにだ。あえて違うキャラに挑戦するのもいいが、花宮の精神的負担も大きいだろう。そのための経験を積んだ人物ならまだしも、ただの素人なんだから自分のままにやっちまった方がいいだろうよ」


「そういうものなのかな」


「そういうもんだよ。それに、すでにお前は鈴峰ぴょこらとのコンビが完全に定着してるしな。あっちもいたずら属性だから、今の方がバランスがいいと思うぜ」


「確かに、ほとんどぴょこらちゃんとのセットでの配信になってるなぁ」


 香織が思い返してみると、お披露目直後の華樹ミミと蒼龍タクミの配信に参加してからというもの、ほぼ鈴峰ぴょこらとのコンビで配信を続けている。

 どっちがボケに回っても、もう一方がツッコミに素早く対応できるということもあって、見た目の可愛さなどからもずいぶんと人気が出ているのである。


「単独での配信が出てきたら考えたらいいさ。今はとりあえず配信に慣れることだな。まだまだ緊張してるのが伝わってくるぜ」


「わわわっ! ええ~、分かっちゃうの?」


「当たり前だ。一体いつから幼馴染みやってると思うんだよ。満みたいな鈍感ならまだしも、俺が分からないと思うか?」


 香織の驚き様に、風斗は自信たっぷりに言い返している。

 これだけしっかりと言い当ててくるものだから、香織は何も言い返せなくなってしまう。


「ああ、そうだ。俺に相談したということは、担当の人にも言うんじゃないぞ」


「えっ、どうして?」


「当然だろ。守秘義務を破ったとみられる可能性があるんだからな。本当にそういうところは抜けてるな」


「うぐっ、ごめんなさい……」


 風斗の鋭い指摘に、香織は反射的に謝ってしまう。

 こうしてみると、本当に香織は危機管理が甘いと言わざるを得ない。


「まっ、俺に相談したのは正解だったかもな。一応場所も考えてたみたいだし」


 風斗は辺りを見回す。

 ここは満と二人で話す時にも使う、校舎の屋上への出入り口の前である。滅多に人の来ることのない場所なので、こういった話をするには向いているのだ。

 もちろん、香織が驚いた以外は基本的に小声で話していたので、おそらくは聞かれていないはずである。


「それじゃ、そろそろ昼休みも終わる。教室に戻るとしようぜ」


「わわっ、本当だ」


 ゆっくり立ち上がる風斗に対して、香織は慌てて立ち上がっている。


「俺の口は堅いからな。幼馴染みの相談くらいいくらでも乗ってやる。ただ、次からはここもやめた方がいいな。誰が来るか分かったもんじゃない」


「うん、ありがとう。次からは気を付けるね」


 話を終えた風斗と香織は、昼休みの終わりを告げるチャイムを聞きながら、自分たちの教室へと戻っていった。

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