第150話 Vブロードキャスト社のGW明け会議
ゴールデンウィークが終わり、Vブロードキャスト社の中では配信の成果を分析する会議が行われていた。
柊、橘、森、海藤に犬塚といった、アバター配信課の面々が一堂に勢ぞろいをしている。
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。配信課の者たちに集まってもらったのは他でもない、我が社におけるアバター配信者について話をするためです」
課長である柊が取り仕切っている。
「まずは、第一期生から第四期生までの現状ですかな。橘、報告してくれ」
「は、はい」
指名された橘が立ち上がっている。あたふたとしているようで、持っている資料の上下が逆さまになっている。
「橘さん、資料が逆さまですよ」
「えっ、ああ、本当だ。ありがとうございます、犬塚さん」
隣の席になっていた犬塚からの指摘で、ようやく橘は自分の凡ミスに気が付いていた。
資料を持ち直して咳払いをして落ち着く。
「現在、我が社が抱えるアバター配信者は一期生四名、二期生四名、三期生五名、四期生四名の、計十七名でございます」
まず読み上げられたのは、Vブロードキャスト社で抱えるアバター配信者の数だった。
課の立ち上げから五、六年が経過しているが、その立ち上げの時に募集してデビューしたのが、華樹ミミたち一期生である。
ちなみにその華樹ミミは必要に応じて会社の手伝いをしており、半ば契約社員のような状態になっている。
本人たちはアルバイトの意識のようだが、アルバイトじゃそこまでしないだろということまでしている。第四期生の面接をした辺りはもろにそんな感じだ。
「採用者は一期生六名、二期生七名、三期生六名、四期生四名であり、離職率は全体で26%、三期生までに限ってみれば31.5%です」
「三割の離脱か。これは多いのか少ないのか、どうなのだろうな」
会議の参加者の一部が騒めいている。
そこで森が手を挙げる。
「森さん、どうぞ」
「はい」
柊から指名され、森が立ち上がる。
「三割の離脱というと、立ち上げから六年という歴史を見れば、少し多いかもしれません」
森はこう結論付けている。
「ですが、離脱理由はすべて、本社への移動が困難という状況でございます。それを踏まえると、それ以外のことでは、現状我が社は配信者たちの支持を得ていると考えられるのです」
「確かにそうだな。引っ越しで本社に向かうのが厳しいどころか無理だという理由でしか、現在はアバター配信者たちの離脱は起きていない。よそで聞く方向性の違いといった理由は、現状我が社では起きていないのだ」
「いわれてみれば、確かに……」
「我が社は現状ではアバター配信者に受け入れられている?」
森と柊の発言に、一般社員たちが騒めき出している。
「静粛に」
咳払いとともに柊が発言すれば、社員たちは一斉に黙り込んでいた。さすがは課長である。
「そういった現状があるために、今回社長は第五期生の募集を打ち出したのだ。今までネックであった配信場所の指定を取っ払うことにしたのだ。これでこれから抱えるアバター配信者たちがどういう風になるのか見てみたいとのことなのだ」
「興味ありますね、私たちも」
柊が社長の意向を伝えると、森たちもこくりと頷いている。
「これまでの四期生たちは、これまで通り本社配信を続けてもらう。その上で、五期生たちとの違いを見てみたいとのことだ。ちなみにだが、四期生までの全員にメールを送って、まだ全員ではないが多くから了承の返事をもらっている」
どうやら、会社としては四期生までたちは今まで通りの配信スタイルを押し通すつもりらしい。
その上で、これからデビューしていく五期生たち以降との違いがみたいようだ。
「さて、海藤。次は君からゴールデンウィーク中の配信の結果を報告しておくれ」
「はい」
指名された海藤が立ち上がり、プロジェクタで投影された資料を基に説明を始める。
「……という感じで、昨今の事情を踏まえるに、配信の同接数は増えておりましたね。相変わらずトップ3は一期生華樹ミミ、二期生蒼龍タクミ、三期生瀬琉フィルムの三人で形成しております」
海藤は淡々と説明をしている。
ただゴールデンウィークという特殊事情もあってか、映画レビューの配信が多い瀬琉フィルムが地味に同接数、スパチャ金額を伸ばしていたようだ。
「四期生は配信数が明暗をくっきりと分けていますね。配信数の少ない茨木勝刀は完全に水をあけられております」
次に映し出された画面の説明をしている。
水をあけられているとは言っているものの、配信平均で見てみるとそこまで悪くない数値のようである。数の暴力に屈した感じだ。
やはり強いのは、小悪魔系鈴峰ぴょこらとドジっ子妖精黄花マイカの二人。泡沫ふぃりあも華樹ミミに負けない母性を発揮していて、癒しを求めて配信を見る人たちが多かったようだ。
「こうやって見てみると、四期生は可能性の塊のようですな」
「さすがは審査にトップアバター配信者華樹ミミが加わっていただけのことがありますね」
会議に参加している社員たちは納得の表情のようだった。
華樹ミミの人を見る目の確かさは、この四期生の活躍によって証明されたのである。
その後も、会議の中ではいろいろな議題が出ては熱い議論が交わされていく。
結果、アバター配信課の会議は退勤時間を迎えるまで長々と続き、一部は結論の持ち越しとなったのだった。