第147話 変われども変わらない二人
ゴールデンウィークも後半に入る。
後半の初日は三日で水曜日だ。当然ながら真家レニの配信があるだろうと思っていたのだが、朝の時点でショックな告知が出されていた。
『リスナーのみなさまへ
ゴールデンウィーク中は諸事情により配信できません
楽しみにしているリスナーたちには申し訳ありませんが、ご理解ください
次は10日に行う予定です
よいゴールデンウィークを』
SNSの投稿にこのような真家レニの投稿を見つけたのだ。
「ええ、レニちゃんの配信楽しみにしてたのにな。うーん、残念だなぁ」
満はとても残念がっていた。でも、アバター配信者たちにも生活があるのだから、これも致し方なしかなといったところである。
満の家は父親の仕事がカレンダーの影響を受けないので、特に出かけるということはなかった。したがって、満の予定は平常通りである。
「うーん、風斗でも誘って出かけるかな」
満は仕方なく、スマートフォンを取り出して風斗に連絡を入れることにしたのだった。
そうして、午後を迎える。
連絡を入れた時間が時間だったので、午前中からのお出かけは無理だったようだ。
満は風斗と一緒にいつもの場所に出向いていた。
その時の風斗はなんとも言えない顔で満を見ている。
「なんで今日も女なんだよ」
「知らないよ。僕が聞きたいくらいだよ」
満は一昨日に続いて少女だった。
風斗は連絡の際にその情報がなかったので、落ち合った際に驚いたくらいだ。
「まったく、女だと分かってたらもうちょっと構えてたんだがな。なんで言わなかったんだよ」
「いやぁ、もうなんか全然気にならなくなっててね。僕も忘れてたくらいだよ」
もう自分の状態が男だろうと女だろうとまったく気にならなくなっているらしい。頻繁に変身するせいか、感覚が鈍ってしまったようだ。
だというのに、服装はちゃんと女性だから知っている人物は混乱してくる。
「まあ、なんか、似合ってるな」
「ふふっ、ありがとう」
満は格好を褒められて嬉しそうにしている。もう自然という他なかった。
とりあえず、満が女の状態で現れたことを受け入れるしかなく、風斗は大きなため息をついていた。
すっかり暖かいを通り越して暑くなったので、二人の服装はそれっぽくなっていた。
風斗は半そでに半ズボンだ。この年くらいの男子ならよくする格好である。
満の方も半そでのブラウスにキュロット、足元はミュールである。すっかり女性ものを着こなしているようだ。靴下は珍しく履いていない。
「ふぅ、満が女だとは思わなかったから、いつもの調子で遊び場所設定してるんだよな」
「別に僕は構わないよ。姿が変わったって僕は僕なんだしさ」
「分かったよ。満がそう言うなら気にしないでいくからな」
あまりにもにこやかな笑顔に、思わずドキッとしてしまう風斗。
満は男友だちの感覚のままのせいなので、時々ものすごく心臓に悪いのだ。
なにせ、満の体形はますます女性らしく丸みを帯び始めているので、年頃の男子にはかなりきつかった。
「レニちゃんが配信お休みするっていうから、少し落ち込んでたんだよね」
目を伏せて下を向きながら満は理由を話している。
「だから、風斗が今日付き合ってくれてすごく嬉しいよ」
「お前、そういう顔を向けていいと思ってるのか?」
満面の笑みを向けて話すものだから、風斗はものすごく困惑している。
普段なら同意してそうな場面で、風斗からは予想外な言葉が出てしまう程だった。
「えっ、どういうこと?」
目を何度も瞬きする満は、まったく自覚がないようだった。
一方の風斗は、何を口走っているんだと自分の口をしっかりと押さえていた。
「風斗、顔が真っ赤だぞ。暑さのせいで熱が出てるの?」
「やめろ、近付くな。俺は大丈夫だからよ」
「……変な風斗」
両手を前に出して、満を拒もうとしている。
必死になって怒るものだから、満は不思議そうな顔をしながらも、言うとおりに距離を取った。
(まったく、こいつは男友だちの感覚でいるみたいだな。おかげでものすごく心臓に悪いぜ……)
風斗はどうも女の状態の満に惹かれているようだ。言ってしまえばほの字というところだろうか。
中学生男子らしい状況とはいえ、当の満がその辺り鈍感だから困ったものである。
ちょっとばかりちぐはぐした状態になりつつも、この日の満と風斗は精一杯遊んだのだった。
「んー、遊んだ遊んだ。楽しかったね、風斗」
「ああ、それはよかったな。俺は疲れたけど」
「何か言った?」
「いや、なんでもない」
満足した様子で、自転車を停めた場所まで戻ってくる二人。ただ、背伸びをするようにしている満に対して、風斗は少し下を向いた状態になっていた。
「そういえば、満は配信の予定はどうしてるんだよ」
「うん? 僕の配信は特に変わらないよ。木・土・月の三回だよ」
「そっか。じゃ、明日の配信楽しみにしてるからな」
「うん、任せておいてよ。明日の配信のネタは決まってるし」
「シルバレかな」
風斗がぽつりと言えば、正解といわんばかりに親指を立てて握った右手を前に突き出していた。
「一週間のイベント、配信制限ないみたいだからね。やりながら配信する予定だよ」
「吸血鬼が銀の弾丸を撃ちまくっている時点で話題十分だもんな」
「そうだよねー」
最後は結局笑いながら家まで帰っていった二人である。
状況が変化しているとはいっても、二人の間の関係性の根本は変わりそうにないのであった。