第137話 締切過ぎて
それから五日後のこと。
今日も満と風斗は一緒に登校をしている。
「締め切りすぎちゃったなぁ」
学校に向かい始めてしばらくすると、満はこう切り出した。
「ああ、そうか。今日は4月11日でアバ信コンテストの締め切りすぎちまったんだよな」
「うん、昨夜の23時59分で締め切られたよ。ちなみに僕は動画一本を出したよ」
「そうか、無事に出せたんだな。で、結局どんな動画を出したんだ、満」
アバター配信者コンテストの応募締切が昨夜だったことを、風斗は今さらながらに満の言葉で思い出していた。
満に確認すれば動画を一本出したとのことだっただが、その内容までは答えてくれない。
満はそっと唇にピンと立てた人差し指を当てていた。
「内緒。こういうのは内緒にしておくものでしょ?」
「まあ、確かにそうだな。一次選考突破できるといいな、満」
「うん、そうだね。ただ、僕が通ったとしてもそれはほとんど世貴兄さんの力だからなぁ。その時は僕が喜んでいいのかちょっと考えちゃうな」
風斗に言われた満は、実に遠慮気味に答えている。
アバター配信者をしているとはいっても、満の素の性格はどちらかといえば控えめなのだ。
「まあいいんじゃねえのかな。世貴にぃにしても羽美ねぇにしても、いとこの俺より満の方を弟のようにかわいがってんだからよ。まったく、血縁関係のある俺よりってどういうことなんだよな」
風斗は笑ってはいるものの、どこか満に嫉妬しているようだった。
「うう、ごめんね、風斗」
「うわっばかっ、謝んじゃねえよ。俺はまったくそんな気はないからな」
上目遣いで謝ってくる満に対して、風斗は慌てた反応を見せている。その風斗の慌て具合に、満はびっくりである。
「とりあえず、応募は締め切られたんだから、結果待ちだな」
「うん、そうだね。結構長く待たされるけど、ゆったりとした気持ちで構えることにしておくよ」
アバター配信者コンテストの話を打ち切った二人は、残りは適当に話をしながら学校にたどり着いた。
上履きに履き替えたのはいいものの、二年生になって二人は別々のクラスだ。
ルナの状態であるならクラスは一緒なのだが、今日の満は男のまま。つまり、香織と同じクラスというわけである。
「それじゃ、また昼休みにでもな」
「うん、それじゃね、風斗」
二人は別れて、自分のクラスの中へと入っていったのだった。
―――
その日の放課後、家に戻った満はいつものようにメールのチェックを始める。
今日は火曜日なので満の配信はない。久々にゆっくりできる夜なのである。
(あっ、メールが来てる)
チェックを始めた満は、早速とあるメールを発見する。それは世貴が用意してくれたサイトのメールだった。
当然ながら早速中身を確認する。
『満くんへ
アバター配信コンテストの締切は過ぎたね。満足のいく動画は撮れたかな?
俺と羽美の二人で用意した渾身のアバターなんだ。一次くらいはわけないだろうけれど、世の中は広い。
正直俺でも突破できるか分からない。なにせこういうコンテスト自体は初めてだからな。
まあもし、無事に一次選考を抜けられたのなら、すぐにでも声を掛けてくれ、全力でやらせてもらう。
それじゃ、楽しみに待ってる。
世貴』
「もう、世貴兄さんってば……」
あまりにも予想通りなことが書いてあったので、満はつい笑ってしまう。
でも、そのおかげか満はちょっとばかり元気が出たようだった。
いろいろとチェックをしていると、一階から満を呼ぶ声がする。
最初は気のせいかなと思った満だったが、どうやら気のせいではなかった。
「なにー、お母さん」
母親の呼ぶ声に反応して、部屋を出て尋ねる。
「買い物付き合ってちょうだい。今日はないんでしょ?」
階段の下の母親からはそのように返ってきた。
確かに配信日ではないし、新学期も始まったばかりで宿題もろくにない。ついでにいえばアバター配信コンテストの締切も過ぎて、精神的にも一度落ち着いたところだ。
「分かった。すぐに準備するよ」
断る理由もなかったので、満は買い物に付き合うことにした。
母親との買い物は、ちょうどいい気分転換になった。
「いや、付き合ってくれてありがとうね。今日は特売日だし、数に制限がたくさんあったからね」
「このくらいならお安い御用だよ。それに、僕自身にもメリットがあるし」
満はにこにこと笑っている。
それもそうだ。常日頃の買い物であり、大抵こういう時の購入品は食料品。育ち盛りでよく食べる満にとっては、恩恵が大きすぎるのだ。
「ふふっ、そうね。それじゃ、ついでだし夕食の準備も手伝ってちょうだい」
「ええ~。お母さん、実はそれが本命だったんじゃ?」
「ふふっ、バレたわね」
「やっぱりなんだ……」
カマをかけてみたらやっぱりだったので、満は呆れたように笑っていた。
まったくもうと思いながらも、満は母親といろいろと話しながら買い物を楽しんでいた。
夕食の時間には父親も帰宅しており、今日の夕食も家族が揃っている。
いろいろと特殊な状況に置かれている満ではあるものの、ごくごく普通な家族の時間に笑顔は絶えないのだった。