第135話 勢揃いの重大発表
「リスナーのみなさま、Vブロードキャストの配信へようこそ。私は総合司会を務める華樹ミミでございます」
時間となって配信が始まる。
第一声は、第一期生でありVブロードキャスト社のトップアバター配信者である華樹ミミだった。
会社としての配信なせいか、少し硬い挨拶になっている。
『おお、真面目な感じのミミたそもいい・・・』
『普段のふわっとした感じもいいが、これもまた』
『さすがはブイキャスのママや・・・』
たった一言だけでもリスナーたちはこの反応である。
おそらくは普段から華樹ミミの配信を見ているリスナーなのだろう。ギャップを感じながらも改めて惚れこんでいるようだ。
「諸君、普段から俺たちVブロードキャスト所属のアバ信たちの配信を見てくれてありがとう」
「これだけ揃っているので、常日頃の視聴に感謝を申し上げておきます」
蒼龍タクミに瀬琉フィルムも、感謝を伝えている。
リスナーたちは改めて、この場の特殊な雰囲気を感じ取っているようだ。
『フィルム殿、また映画のレビューを聞きたいでごわす』
「ははっ、ありがとう。今年の頭は病気で倒れてしまってすまなかったですね。本調子まではもう少しかかるので、ゆっくり待っててほしい」
ちゃっかりレビューを期待するコメントを拾って反応する瀬琉フィルムである。
アバター配信者たちはおろか、配信者全体の中でも映画レビュワーとしてはトップクラスの地位に君臨しているだけあって、それだけ期待度が高いというわけだ。
「では、ここで四期生の四人にも出てきてもらいましょうか」
画面の中に四期生である茨木勝刀、泡沫ふぃりあ、鈴峰ぴょこら、黄花マイカの四人が入ってくる。
さすがにアバター配信者が七人ともなると、画面がかなり狭い。
ただ、四期生が入ってくると、コメントがさらに過熱していた。
「やっぱり四期生でもぴょこらちゃんとマイカちゃんに対するコメントが多いようですね」
「積極的に活動してるからな。みんなリアルの都合もあって大変だろうに、まったく大したもんだよ」
「ふふっ、一度映画について語り合いたいですね」
『ぷくくっ、フィルム様が平常運転でなにより』
『確かに、普段は何をしているかは分からないけど、時間を作るってのは大変だもんな』
瀬琉フィルムのあまりにも映画推しなところに、リスナーたちは吹き出しているようだ。
まあ、瀬琉フィルムの名前自体が、映像を想起させるものだから仕方がない話だろう。
それに、あれだけの速い流れのコメント欄をしっかり追えているとは、華樹ミミも大したものだ。
人気アバター配信者ともなると、コメント欄を目で追える特技を身につけてしまうのだろうか。不思議なものである。
だが、あまりコメントを拾ってばかりもいられない。華樹ミミは話を進めることにする。
「おほん、今回の配信内容は、実は私たちも直前に知らされたので詳細は把握しておりません」
「とはいえ、その急な招集に対応できる俺たちも俺たちだよな」
「それは思いますね。その柔軟性は見習いたいですよ」
「お前が言うか?」
一期生から三期生の三人の漫才に、リスナーたちは大うけのようだ。「草」「w」などの笑いを表すコメントが大量に流れていっている。
「おほん、漫才をしている場合ではないですね。それでは、四期生を代表して勝刀さんに発表して頂きましょうか」
「おう、任せろ」
流れがまた悪い方に行きそうだったので、華樹ミミはサクッと打ち切って四期生に話を振る。
任された茨木勝刀は元気に返事をする。
手に持った紙を広げるような仕草をしており、手の動きが止まるとそこにはどこからともなく紙が出現していた。
「えっと、なになに。……『Vブロードキャスト社、新規アバター配信者募集のお知らせ』だと?!」
広げた紙を確認した茨木勝刀が大声で叫んでいた。
リスナーたちも同じように衝撃を受けている。
四期生たちがデビューしてまだ二か月だというのに、もう次の五期生となるアバター配信者の募集を始めるというのだ。
そんな情報を四期生たちに発表させるとは、一体何を考えているのだろうか。リスナーたちの反応にはそういったものが多いようだ。
「えっと……。条件を見てみると、五期生の方はちょっとうらやましいかな」
「本当ね。あたしたちにもこの条件を当てはめてもらえたらいいけれど、それはぜいたくかしら」
マイカとぴょこらがメモを覗き込んでいる。
『うう、条件が気になる・・・』
『覗き込むぴょこらとマイカが可愛すぎる件』
「うふふ、気になりますわよね。詳細はこの配信の後にホームページに記載されるそうですわ。気になる方はすぐにチェックなさってくださいまし」
『うう、気になる・・・』
『くそっ、商売がうますぎるぜ』
『おっとりボイスで言われたら、見たくなってしまうじゃないか』
リスナーが興味を持ったところに、泡沫ふぃりあのウィスパーボイス攻撃。効果は抜群だ。
「私たちも気になって仕方ないですね。では、ここからは少し私たちVブロードキャスト社のアバ信たちについての質疑応答をします。担当の方のチェックが入りますが、極力答えさせて頂きますね」
華樹ミミが質疑応答の話題を出すと、リスナーたちは大興奮。
結局、1時間という枠にもかかわらず多くの質問が飛んできて、配信は実に盛り上がったのだった。