第132話 二年生の始まり
朝、目が覚めた満は驚いていた。
そりゃ、目が覚めたら自分の性別が変わっているのだ。いくらなんでも簡単に慣れるわけがないのである。
しかも、二年生の新学期初日からこれなのだ。
「はあ……。今年の僕はどうなるんだろうな……」
ため息の止まらない満なのであった。
ただ、日中に急に変化することがないだけマシといえる。吸血衝動も起きないので、一日どちらかの性別に固定された状態で過ごせるのだから。
満は仕方なく、おとなしく女子の制服に着替えた。
学校にやって来た満は、最初のクラス分けを確認する。
満にとってはこの作業は倍の労力を有する。
それというのも満本人のと変身したルナ・フォルモントの分と二人分を探さなければいけないからだ。
ちなみに満は『そ』、ルナは『ふ』で出席番号を振られている。どっちにしても中途半端な位置にあるので、探すのがひと苦労だった。
「よう、みち……ルナじゃないか」
「おはよう、風斗くん」
学校に到着すると、風斗と出くわす。お互いに挨拶を交わすが、風斗は満の名前を言いかけていた。
満の方はすんなりと敬称がついている。
このことから、風斗の方はまだ満の女性の姿に慣れていないといった感じのようだった。
「はあ、なんで新学期から女になってるんだよ……」
「僕の方が聞きたい。最近は変身する理由が分からなくなってきてるんだよね。吸血衝動が起きないんだもん」
「なら、いよいよ吸血鬼に侵食されつつあるってことかな。満、食われるんじゃねえぞ」
「僕は僕だよ。復活のお手伝いはするとは言ったけど、僕が消えるつもりはないからね」
むんと気合いを入れる満である。満の時でも可愛いのだが、少女となった満だと余計に可愛く見えるから困ったものだ。
「風斗?」
「あ、いや。なんでもない……」
顔を隠しながら慌てる風斗の姿に、満は怪しんでしまう。
「なにをしてるのよ。早くクラスを確認しないと、始業式から遅刻だよ」
「あっ、花宮。たす……おはよう」
風斗は何を言いかけたのだろうか。訝しんで見てしまう満なのである。
「私は二人とはクラスが違っちゃったから、先に行くね。遅れないように急ぐのよ」
香織は薄情にも、そういうと下足場に姿を消していった。
満たちも遅れまいと、自分たちのクラスを確認したのだった。
―――
教室にやって来た満は、机の上で突っ伏していた。
「冗談やめてよね……」
満はショックを受けていた。
「気持ちは分からんでもない。ただ、体育なんかの合同だと差がないからマシじゃないのか?」
落ち込む満を、風斗はどうにか慰めている。
なぜ、満がこんな風に落ち込んでいるのか。その原因はクラス分けだった。
二人は一緒にいる通り、風斗とルナは同じクラスになっていた。
ところがどっこい、本来同一人物であるはずの満とルナは別のクラス。しかも、満のクラスは香織もいるクラスだったのだ。
そう、満は男の時と女の時とでクラスが別々になってしまったのだ。これはなんともややこしい状態である。
「同情はするが、教師たちは事情を知らないからしょうがないな」
「もう……。去年僕が転入する際にお母さんがいろいろ説明してたはずなんだけどね……」
満は肘をついて困った表情をしている。
満がルナとしても学校に通うことになったのは、もうかれこれ半年ほど前の話だ。それくらい経てば、教師たちも頭からすっぽりと抜け落ちてしまったのだろう。
不満はあるところだが、決まってしまった以上はそれに従うしかなかった。
本来の満とルナとなった満ではクラスが異なるので、正直面倒な話だ。
「まあ、なんとかやってくしかないな」
「うん、そうだね……」
満と風斗は大きなため息をついていた。
―――
その頃の隣のクラスの香織も、大きなため息をついていた。
「はあぁ……。ルナちゃんとクラス別になっちゃったか」
香織はルナとクラスが別になったことを残念がっているようである。
「空月くんと同じクラスにはなったけれど、まだまだ二人きりで話すのは厳しいかな」
ぶつぶつといいながら、机にふさぎ込んでいく。
「幼馴染みなんだから、気軽に話し掛けられると思ってたんだけど、村雲くんがいない状態で話すのは、やっぱり勇気が要るよね」
目を閉じて、こてんと頭を横に倒している。
「ルナちゃんだとまだ気楽に話せるのよね。中身は分かっているから緊張するかと思ったけど、意外と平気なのよね。見た目ってすごいわ」
香織は頭を起こしてもう一度ため息をつく。
その時だった。ポケットに入れていたスマートフォンがぶるっと震える。
なんだろうと思って取り出すと、連絡してきたのはVブロードキャストのようだった。
連絡の差出人に『森』と書かれていたので間違いない。
なんだろうと思って、詳細を確認する香織。
「えっ、ええ!?」
書かれていた内容に思わず大声を出してしまう。勢いよく立ち上がったものだから、椅子が勢いよく倒れてしまっていた。
「花宮さん、どうしたの?」
あまりにも突然のことだったので、クラスメイトに心配される始末である。
その場は適当にごまかして場を収めたのだが、帰宅するまでずっとドキドキが治まらない香織なのであった。