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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
130/317

第130話 もう半年

 香織がVブロードキャスト社で配信をしている頃、満は部屋でその配信を見ていた。


「今年デビューしたブイキャスのアバ信、結構可愛いよね」


「ああ、そうだな」


 風斗も誘って配信を見ている満だが、その表情は少々ばかり複雑だった。

 今二人が見ているのは鈴峰ぴょこらと黄花マイカの配信だ。

 なぜ風斗が複雑な顔をしているかというと、黄花マイカの中の人が幼馴染みの香織だと知っているからだ。

 ついでにいえば、ぴょこらのママ、つまりデザインを描いた人物もほぼ特定済み。知っている人物だからこそ、風斗は顔を歪ませているのだ。


「風斗、どうしたんだよ。面白い顔をして」


「なんでもない。それよりもそっちを見てろ」


「……? 分かったよ」


 風斗の態度がよく分からない満だったが、とりあえずは配信に集中することにした。

 今配信をしている鈴峰ぴょこらと黄花マイカは、今年の二月にデビューしたばかりの新人アバター配信者だ。

 元気ないたずらっ子であるうさ耳猫しっぽのぴょこらと、ドジっ子ながらも明るく振る舞うマイカの組み合わせは、リスナーたちの心に深く突き刺さったらしい。

 現状では、Vブロードキャスト社内に限らず、結構な勢いを持つアバター配信者となっている。


(満は気が付いてないんだろうな、黄花マイカの中の人が花宮だって。あれだけ一緒にいるくせに、声が同じなのに気が付かないって、本当に鈍感が過ぎるってもんだ)


 配信を楽しむ満の後ろで、風斗は呆れた顔をしている。

 風斗がちょっと引いて配信を見ているのには、別の理由もある。

 満はおそらく気が付いていないが、満はログイン状態で配信を見ているのだ。

 つまり、コメントを打ち込めば画面に【光月ルナ】と思いきり表示される状態にあるということ。

 今の時間はお昼の4時だ。吸血鬼キャラである光月ルナはまだ眠っている状態という設定。ここで発言を許すわけにはいかない。


(なんだって俺がこんなに気を揉まなくちゃいけないんだよ)


 風斗は注意深く満の行動を眺めていた。


「はぁ~、やっぱりいいね、この二人!」


 配信が終わり、満は満面の笑みで風斗に話し掛けている。


「あ、ああ。掛け合いが絶妙だな」


「うんうん。ぴょこらちゃんがボケで、マイカちゃんがツッコミというのは予想外だよね」


「まあ、マイカの方はドジっ子だからな。不思議な役割だし、あれはかなり自然にやってる感じだもんな」


「風斗ってそこまで分かるんだ、すご~い!」


 満は本気で感心していた。

 風斗の心の中はなぜか複雑である。


「それより、よくコメント打つの我慢できたな」


「えへへへ。だって、ルナはまだ寝てる時間だもん。打ち込めるわけないんだって」


 風斗が感心すれば、満はにこやかな表情で答えていた。

 満も一応、そういう設定は大事にしているようなのである。これには風斗もひと安心だった。


「で、配信を見終わったところで確認はいいかな?」


「なにを?」


 突然の風斗の真面目な質問に、満は驚いた顔をしている。


「もう一週間を切ってるんだ。アバター配信者コンテスト、やるつもりならもう動画のひとつはできてるんだろな」


「ああ、そのことかぁ。うん、もうできてるし、なんなら応募も済ませたところだよ」


 風斗の確認に対して、満はなかなか見せることのないドヤ顔で答えている。


「そうかそうか。そういえば、世貴にぃがまたいろいろと追加してたもんな」


「うんうん。だから、できる限り活用してみたんだ。結果が楽しみだね」


 満が目をキラキラと輝かせて話すものだから、風斗はどう反応していいやら、困り果ててしまっている。


「アバター配信者コンテストは、4月10日が締め切りで、中間選考の結果は5月30日発表される。ひと月半くらいは待たされるから、まあ気長に構えてようぜ」


「そうだね。それが終われば最終審査だっけか」


 満は風斗に確認する。


「そっ。その際には本選の日時のお知らせも通知の中に入ってるからな。もし本選に進めば世貴にぃにも声を掛けないといけない」


「えっ、なんで?」


 満はびっくりしている。


「あのな……。誰が光月ルナの動きを作ってると思ってるんだ?」


「あっ! ……そうだった」


 満はすっかり忘れていた。光月ルナのアバターは風斗のいとこの双子が作り出していたことを。

 外見のデザインはウェリーンこと羽美が、3Dのモデリングはウォリーンこと世貴が担当している。

 普段の配信であれば、満だけでも十分行える。

 ところが、コンテストのような大きな場となると、その場で動きを作ったりしないといけないこともあるし、細かな調整も行うことになるのでモデラーが存在が欠かせないのである。

 満の頭からは、いろいろなことがすっぽり抜け落ちてしまっていたのだ。


「まったく、そんなことだと思ったぜ」


 風斗は頭を押さえている。


「ど、どうしよう、風斗……」


 さすがに満もうろたえている。


「心配するな。世貴にぃだったら、きっと無理やりにでも調整して出てくれるさ。ある意味3Dのモデリングに人生賭けてるような人だからな」


 うろたえる満を落ち着かせるためではないが、風斗は世貴のことに関してすっぱり言い切ってしまっていた。いとこの目から見て、そうとしか思えないことが多々あるからだ。

 これには、満もようやく落ち着いた様子を見せていた。

 落ち着き具合を見る限り、満からの評価も風斗と大差はないようだ。


「もし一次審査が通ったら、その時にでも連絡すればいい。絶対二つ返事で了承してくれるからさ」


「うん、世貴兄さんならきっとそうだよね」


 二人からの圧倒的信頼感である。


「それじゃ、新学期が始まるな。そろそろ帰って準備を始めるぜ」


「もうそんな時期なんだ。早いよね」


「まったくだ」


 もう春休みが終わる。

 光月ルナとしての活動を始めてから、もう半年が経っているのだ。

 新年度の新学期。新しい季節の始まりを迎え、満はまたひとつ新たな段階へと踏み出したのだった。

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