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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
129/320

第129話 それはとても残念だ

「おはようございます」


 満たちと花見をした翌日。まだ春休みとあって、香織はVブロードキャストでの配信の仕事を引き受けていた。


「おはよう、マイカちゃん」


「おはようございます、し……ぴょこらちゃん」


「はい、よろしい」


 思わず本名を呼びそうになってしまい、香織、いやマイカは名前を言い直した。

 今日は学生組二人による配信が行われる予定だ。春らしい可愛くてほのぼのとした配信をと企画されたものだった。

 なにぶん、春休みも終わる時期なので、世間一般では陰鬱としてくる時期だ。だからこそ、清涼剤となりそうな二人に配信してもらうことになったというわけなのである。


「私たち二人で配信だなんて、ずいぶんと大きく出たものよね。大丈夫かしら、マイカちゃん」


「は、はい。これでも経験はしっかり積んでますから、大丈夫だと思います!」


 心配そうに声を掛けてくるぴょこらに対して、マイカは空元気にも似た態度を見せていた。

 正直不安な気持ちになるところだが、これでもマイカは第四期生の中では一番配信に顔を出している。経験者がこう言うのだから、まあ信じてみようと思うぴょこらなのであった。


「あら、二人も配信予定?」


「あっ、ミミ先輩、おはようございます」


 スタジオに顔を出すと、華樹ミミがいた。


「私もいるんだけど」


「ふぃりあさんもおはようございます」


 泡沫ふぃりあも一緒にいた。

 なんということだろうか。包容力のあるアバター配信者二人が揃ってしまっていた。

 おそらくこの二人も合同配信なのだろう。リスナーたちが赤ちゃんになってしまいそうな配信になる可能性が高いと思われる。


「四期生が活発で嬉しいかぎりね。ここにはいないけれど、勝刀くんも昨日配信をしていましたからね」


「そうなんですね。最近まったく会ってないんだけど、元気そうでなによりです」


「なかなかスケジュールがかみ合いませんからね。二人は学生ですから、休みの日にしか会えませんしね」


「確かに、それはそう」


 ふぃりあがいえば、ぴょこらが腕を組んで頷いている。

 Vブロードキャストによる配信は、すべてこの本社スタジオで行われている。そのため、アバター配信者たちはスタジオまで出向いてこなければならず、どうしても都合がつかないことがあるのだ。

 そのために、なかなかそろっての配信というわけにいかないのである。

 とはいえ、セキュリティなどの関係もあって、会社としても踏ん切りがつかないようだった。


「あら、マイカちゃん、ぴょこらちゃん来てたのね」


「おはようございます、森さん」


「来たところで悪いんだけど、早速打ち合わせを始めましょう」


「分かりました」


 来たばかりに加え、配信まではまだ余裕があるはず。だけど、森はかなり慌てているようだった。

 ぴょこらは何か感じ取ったようだったが、マイカは元気いっぱいの笑顔を見せていた。


「う~ん、まだ配信開始まで2時間あるのに、もう打ち合わせをするのね。……なんとなくだけど、大事になりそうな気がするわ」


「そうなの?」


 怪しむぴょこらに対して、マイカはきょとんとしている。


「確かに、直前に打ち合わせをするにしても2時間は長い気がするわ。昼食を入れるにしても、変な話ね」


 華樹ミミも疑問を抱いたようだった。

 とはいえ、このまま二人を引き留めてはいられないと、仕方なくマイカ、ぴょこらの二人を森の元へと向かわせたのだった。


「さて、私たちも準備しましょうか」


「そうですね。今日はよろしくお願いします、ミミ先輩」


 二人よりも先に配信を行うミミとふぃりあも、別の担当者のところへと向かったのだった。


 森と一緒に打ち合わせのためのスタジオへやって来たマイカとぴょこら。そこには海藤の姿もあった。


「あれ、海藤さんもいらっしゃるんですね。一体どうなさったんですか?」


 マイカは困惑した様子で海藤の顔を見ている。

 その理由は、かなり険しい表情をしていたからだ。


「ええ、残念なお知らせがあるわ」


 森はおもむろに話を切り出す。


「残念って、何があったんですか?」


 マイカが気になって仕方がないようだ。


「実はですね、お二人個別に進めていたアバ信コンテストの話なんですが、直前の会議でお蔵入りになってしまったのですよ」


「なんですって?!」


 ぴょこらが立ち上がるほどに驚いている。


「ええ、実に残念だわ。やっぱり、うちで扱っているデータを外部に出すことになるのが、社の方針には合わなかったみたいね」


「一時期やる気になっていたので、本当に悔しくて仕方ないですよ。だったらなぜ、一度は認めたのかと思います」


 海藤もかなり声を荒げているようだった。そのくらい、今回の決定には不服を持っている。

 実際、〆切も近い時期だ。そのための撮影だって行ったというのに、今さら感が強いのである。


「とまあ、せっかく動画も撮ったのに残念だったと思うわ。私としても、どうしても応募はしたかったのだけど、社の方針となれば逆らえなかったわ。力不足でごめんなさい」


 森は二人に向かって深く頭を下げている。

 マイカとぴょこらは残念だと思うし、だからといって、二人を責めることもできなかった。


「まあ、それなら仕方ないですよ。文句のひとつでも言ってやりたいですけれど、ブイキャスのアバ信である以上、私たちも従います、ね?」


「うん、そうだね」


「二人ともありがとう。では、気持ちを切り替えて、今日の配信の打ち合わせを始めましょう」


「はい!」


 アバター配信者コンテストの件は残念に思う四人ではあったものの、アバター配信者としての活動は続ける気満々である。

 この日の配信のために入念に打ち合わせをした四人は、しっかりとした気持ちで配信に臨むのであった。

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