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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
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第127話 家族愛がすごい

「ふぅん、今のvirtualの技術はすごいのね」


 光月ルナの配信を見ていたグラッサは、単純に感心していた。


「でしょでしょー。ルナちの配信はとにかくすごいんだよ」


 母親に画面を見せていた小麦は、少々興奮気味に話している。


「何度か一緒に配信したことあるけど、ルナちはなんだろうかな、すごく可愛がりたくなるのよ」


「ふぅん、私にはちょっと分からないわね、その感覚。でも……」


 小麦とグラッサの間には、はっきりとした温度差があった。

 光月ルナの配信に興奮している小麦に対して、淡々とした目を向けるグラッサ。親子だというのに、反応の差ははっきりとしていた。


「確かにこの光月ルナって子からは、ルナ・フォルモントの雰囲気を感じ取れたわ。となると、やはりこのアバターを操っているのは、あの時の少女というわけか」


「ママ?」


 グラッサの反応を見て、小麦はきょとんとした表情を見せている。


「ルナちの配信環境を整えてる人って、一体どんな人なんだろうな。こんなリアルにあふれた光景なんて、簡単に作れたもんじゃないよ。なんだか私のがしょぼく見える」


 小麦は光月ルナの配信を見ていて、そのように呟いてしまう。

 ちょっと落ち込んだ小麦を見て、グラッサはその肩に手を添える。


「ドーター、その言い方はあなたのアバターと環境を作ってくれた人に失礼よ。ダーリンの頼みを聞いて作ってくれたのよ。感謝こそしても、そんなことを言ってはダメよ」


「あっ……。ママ、ごめんなさい」


 グラッサに言われて、小麦はしょぼくれてしまった。

 ただうらやむだけのはずだったが、少々言い過ぎてしまったようなのだ。


「過ぎた才能は妬まれる。私もかなり不平不満を叩きつけられたものだわ」


「ええ?! ママってそんなことがあったの?」


 小麦が驚いてグラッサへと顔を向けると、グラッサは柔らかい笑みを返していた。


「ええ、いろいろといわれたものよ。私は幼少より、なんでもできた天才といわれていたものね。実際、何も難しいものはなかったわ。いえ、一応難しかったものはあったかしら」


「なに、ママの難しかったものって」


 小麦は興味津々のようだ。


「ええ、ひとつはルナ・フォルモントの退治。私の実力をもってしても、現世から切り離すのが精一杯だった。倒すことはできなかったのよ」


「そんなに難しいことなんだ……」


「ルナ・フォルモントは長い時間を生きる吸血鬼の真祖。力が強大過ぎたからね」


 人差し指を立てながら説明を始めるグラッサ。ただ、その表情はあまりいいものではなかった。


「もう一つは、あなたたちと一緒にいること。家族は大切にしたいんだけど、私にはいろいろと仕事が回ってくるんだもの。本業にしても退治屋にしてもね。ドーター、なかなか帰ってこれなくてごめんなさいね」


 自分の愛する夫や可愛い娘のそばにあまりいられないことに、グラッサは心を痛めているようだった。

 家族に対しての愛情を持っているところを見ると、ただの仕事人間ではないようだ。今回も珍しく長期休暇を取って日本に戻ってきているのだから。

 小麦もグラッサの表情と声の調子から、その気持ちをひしひしと感じているようだった。


「そういえば、ドーター。今年は高校三年生だったかしら」


「うん、そうだよ。だから、大学受験が控えてる。はあ、配信を減らさなきゃね。さすがに大学受験で落ちたらシャレにならないよ」


 小麦は少し落ち込んだ表情を見せる。


「ドーター、自信を持っていきなさい。私とダーリンの子なんだから、やればできるわ」


「ママ……。うん、私頑張る」


 拳を握って意気込む小麦を見て、ついつい可愛くて笑ってしまうグラッサである。こういうところは親ばかを発揮しているようだ。


「とりあえず、Golden Weekと呼ばれる時期が終わるまでは日本に滞在するつもり。時折仕事はするかもしれないけれど、今まで一緒にいられなかった分、たっぷりと構ってあげられるわ」


「本当なの、ママ!」


「ええ、本当よ。そのつもりで先日、会社には申請を出しておいたわ。それに、やっぱりルナ・フォルモントのことは気になるもの」


 喜ぶ小麦に対して、グラッサは静かに微笑みかけている。


「おいおい、それは本当か、グラッサ!」


「ダーリン、娘の部屋にノックもなしにいきなり入るものではないですよ」


「あ、ああ、すまない。夜食を差し入れようと思って来たところに君の発言だ。つい驚いてしまって失念してしまったよ。すまなかったな、小麦」


「う、ううん、気にしてないよ、パパ。それより夜食って?」


 小麦は気になって覗き込む。そこには、手作りのサンドイッチとジュースが見えた。


「もう……、まだ二年生の三月だよ。まだ慌てる時じゃないのに」


 小麦はそう言いながらも、父親が持ってきたサンドイッチを受け取っている。


「ここまでしてくれるパパとママのために、ちゃんと大学には合格するよ。ただ、まだ志望校は絞り込めてないんだけどね」


「小麦の行きたいところで構わないさ。なあ、グラッサ」


「ええ。でも、将来何をしたいのか、しっかりそれと見合った場所を選ぶことよ。私もいる間は相談に乗ってあげられるし、しっかりと決めましょう」


「うん、ありがとう」


 どうやらしばらくの間、芝山家はとても賑やかになりそうだ。

 ただ、芝山家だけで収まるかどうかは、はなはだ疑問のようである。

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