表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
119/316

第119話 騒がしい芝山家

「あああ、どうしよう」


 芝山家の中では、小麦が困ってうろちょろしていた。

 いつもならパソコンに向かって配信の準備をしているところだが、今日ばかりはそれどころではなかった。

 なぜなら、母親から日本に着いたというメールが届いていたからだ。

 小麦の家はあまりにも交通便のいい場所にある。国際路線が到着する空港からも、どんなにかかったところで半日もあれば余裕で到着できる。

 心の準備をするには、あまりにも時間がなさすぎた。

 家の外から車が止まる音が聞こえる。しばらくすると走り去っていく音も聞こえてきたので、おそらくはタクシーだ。


(ああ、もうママが着いちゃった……)


 状況を察した小麦は、諦めて玄関へと向かった。


「はーい、ダーリン、ドーター。ママが帰ってきたわよ」


 玄関が勢いよく開いて、サングラスの金髪女性が家の中に入ってくる。普通なら不審者のような登場の仕方だ。


「ママ、お帰りなさい!」


「急な連絡でびっくりしたぞ、グラッサ」


「ただいま。びっくりさせようと思って、連絡は最低限にしておいたのよ。それよりも……」


 靴を脱いだグラッサは、父親に近付いていく。


「ダーリンはなぜ平日の昼に家にいるのかしらね。事情を聞かせてもらえない?」


 父親のあごに手を当てながら、ずいぶんと積極的に顔を近付けている。


「あ、いや……な。小麦のことが心配で、リモートワーク制度を利用してるんだ。つまり、在宅勤務ってやつだな」


「あら、そんな制度があるのね。そう、仕事はきちんとしているのね」


 リモートワークのことを聞いて、グラッサは思った以上にあっさりと引き下がった。これには父親もほっとひと安心したようである。

 なにせこのグラッサ、仕事の鬼だからである。実はいうと小麦を妊娠出産した時期にもバリバリに働いていたのだ。どこまでワーカホリックなのだろうか。


「ふぅ、ダーリンのご飯は落ち着くわね」


 昼食を済ませると、グラッサは父親の方へと目を向け、小麦の方にも視線を向ける。


「それより、ちょっと聞いていいかしら」


「な、何をだい?」


 グラッサの表情が険しくなる。その雰囲気の変わりように、思わず身構えてしまう父親と小麦である。

 二人は知っているのだ。この表情になった時のグラッサがどんな話題を出すのかということを。


「ルナ・フォルモントを見たのだけど、二人は知っているのかしら。ただ、ずいぶんと雰囲気が違っていたみたいだけど」


 これには小麦が一番びっくりしていた。

 ルナ・フォルモントに似た雰囲気の違う人物。小麦には思い当たる節があるからだ。

 二人の顔を見たグラッサはじっと目を細めている。


「知っているのね」


「な、何も知らないぞ」


「そ、そうよ、ママ。何を根拠にそんな」


 頭を引いたグラッサに、二人は慌てたように言い繕うとしている。


「二人って隠し事が下手ですもの。今も知っていると自白しているよなものじゃないの。全部話しなさい」


「ぐぐっ……」


 はっきりといわれてしまい、小麦も父親も観念するしかなかった。何をするにしてもグラッサには敵わないのである。

 渋々、二人はすべてをグラッサに話してしまう。


「なるほどね……。似た容姿のアバター配信者と波長が合って、限定的ながら復活できたと」


「本人によればそういうことのようです。意識まで出てくる場合と、姿だけが出てくる時があって、ママが会ったのはその姿だけが出てきた状態だと思うよ」


「ふむふむ……。意識は体の本来の持ち主だから、雰囲気も性格も違っていると、そういうわけね。なるほど、理解できたわ」


 グラッサはすぐ理解したようだったが、同時に小麦たちに厳しい目を向ける。


「さっさと私には教えてもらいたかったものね。野放しにしておくとどういうことが起こるか分かったものではないわ。血を吸われた者がどうなるか、分からないんですからね」


 グラッサに言われた瞬間、小麦は思わず自分の首を押さえる。


「ドーター?」


「ひっ!」


 重い声が響き渡り、小麦は思わず体をびくつかせてしまう。

 母親であるグラッサの圧力に屈し、小麦は全部話してしまった。


「ターフィス……、あなたは何をしているのよ」


「いや、だってあの時は……」


 言い訳をしようとする小麦だが、グラッサの雰囲気が怖すぎてそれ以上の言い訳はできなかった。


「これは、しばらく日本に居座って様子を見る必要があるわね。時期としては早いけれど、バカンス申請しておこうかしら」


「ま、ママ!?」


 さっそく電話をかけ始める母親に、小麦は大慌てである。

 このまま家に滞在されると、真家レニとしての配信に大きな影響が出てしまうからだ。

 せっかく相性のよさげな相手を見つけて乗りに乗っているというのに、こんなところで終わりにしたくない。


「ママ! 私を信じてよ。ルナ・フォルモントは私がちゃんと見ておくから!」


「血まで吸われたドーターを信用できるとでも? 血の一滴でもあれば眷属化できるのよ、吸血鬼は」


「もう、ママってば!」


 アバター配信者としての崖っぷちなせいで、小麦は必死に母親を説得しようと試みる。

 だが、一度決めたらなかなか曲げないグラッサの説得は不可能だった。

 娘が血を吸われたとなれば、なおさらだ。子を守るのが親なのだから。

 小麦の母親が戻ってきたことで、芝山家は一気ににぎやかになる。

 だが、かつてルナ・フォルモントをネット空間に閉じ込めた退治屋がやって来たことで、満には新たなピンチが迫りつつあるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ