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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊
118/316

第118話 不思議な女性

「久しぶりだわね、この街も。楽しみにしていてね、ダーリン&ドーター」


 街の中心駅に、スーツ姿で決めた女性がスーツケースを持って現れる。どうやら空港から無事にここまで移動できたようである。

 改札を通り、駅前へと出てきた女性はタクシーを拾おうとする。

 ところが、何かを感じ取ってタクシーに乗るのを諦めていた。


「ホワッツ? この気配はまさか……。いえ、あいつは確かに封印したはず」


 妙な気配に訝しみながら、女性は駅前を歩き始めたのだった。


 ―――


 同時刻、駅前の商店街を満は香織と一緒に歩いていた。


「はあ、花宮さんから連絡があった後、気が付いたらこんな姿になってたよ……」


「た、大変ね、空月くん……」


 大きなため息をつく女の姿になった満である。隣には香織が歩いているのだが、一体今日はどんな用件で出かけているのだろうか。


「でも、今日はどうしたの、花宮さん。僕を誘うって」


 幼馴染みなら風斗も一緒だろうと思っていた満は、香織に真意を問い質している。

 改めて理由を尋ねられた香織は、ちょっと恥ずかしそうな顔をしている。


「へ、変かな。幼馴染み同士なんだから、別にいいと思うんだけど……」


 香織はごまかしているようで、その様子に満は首を傾げるばかりである。


(今さらながらに応募のためのネタを探しに誘ったなんて言えないよね。しあさってにはそのための招集がかかっているもの……)


 もじもじとしながら、香織はそんなことを思っていた。

 Vブロードキャスト社の初の試みでアバター配信コンテストに参加することになった香織は、そのネタにまだまだ困っているのだった。

 前回の満とのデート(?)の最中に何かが降りてきそうな感じを受けたので、それを確かめるために、香織は今回満だけを誘ったのである。決してデートがしたかったわけではない。


(ちょうど春休みに入ったし、空月くんと一緒にいられるチャンスは今日くらいしかない!)


 実に利己的な理由だった。

 幸い、付き合わされている満は鈍いタイプなので、どうして自分が誘われたのか首を捻るばかりのようだった。

 ちなみに今日の満は、キャミソールワンピースの上からブラウスを着ている。

 この日に日におしゃれになっていく満の姿に、香織は戸惑ってしまう。女性としてつい悔しく感じてしまう。


(はっ! いけないいけない。空月くんに嫉妬なんてダメよ。しっかりしなさい、香織!)


 心の中で気合いを入れ直す香織だった。


「それで、今日はどこに行こうかな」


「う~ん、そうだなぁ……」


 香織の質問に満が考え始めた時だった。


「Excuse me, do you have a moment?」


「え、英語?!」


 いきなり目の前に金髪女性が現れて声を掛けられてしまった。

 しかも慣れない英語に、満も香織もどうしたらいいのか戸惑っている。


「Oh、あなたたち、英語はダメなのね」


「え、日本語がペラペラ……」


 英語で話しかけられたかと思ったら、普通に日本語が飛び出してきて、満も香織も驚きで身動きが取れなくなっている。

 戸惑う二人の姿を見て、目の前の女性は額に手を当てている。


「ごめんなさいね。古い知り合いに似ていたものですから、つい声を掛けてしまったんですよ。なにせ五年ぶりくらいの日本ですから」


「そ、そうだったんですね」


「お姉さん、日本語がお上手ですけれど、日本は長いのですか?」


「ええ。海外出張で日本にやってきて、そのままこちらで結婚しましたからね。あっと、個人情報ですので、これはご内密に」


 目の前のサングラスをかけた女性は、立てた人差し指を唇に当てながら満たちに話し掛けている。


「でも、残念ですね。ダーリンとドーター以外にも、マイフレンドに会えたと思ったのですが、人違いとは。仕方ありません、世の中似た人は三人はいるとは言いますからね」


 女性は勝手に残念がった上に結論付けてまでいた。

 一連の流れに満も香織も反応ができずに、ただ女性の姿を眺めるばかりである。


「呼び止めてごめんなさいね。しばらくはこの街に滞在しているから、また会った時にでもおわびをさせてもらいますね」


「は、はあ」


「では、またお会いしましょう。See you!」


 嵐のように女性は去っていった。


「きれいな方でしたね」


「ええ、バリバリ働いているキャリアウーマンっていう感じがするわ」


 目の前で女性がタクシーに乗り込んでいる。そのまま走り去っていく様子を、二人はじっと見つめていた。その際に、女性は満たちに手を振っていた。


「う~ん、なんだろう。会ったことがないのに、どことなく知っている感じがするなぁ……」


「それ、本当なの、空月くん」


「いや、ただそんな気がするだけ。僕に外国人の知り合いなんていないもん」


 満はこうはいいながらも、ずっと何かが引っ掛かっているかのように首を傾げ続けていた。

 本当に初めて見る女性なのに、なぜこうも気にかかるだろうか。


「そ、空月くん。とりあえずどこか行きましょう。じっとしてるなんて時間がもったいないもん」


「そ、そうだね、花宮さん。今日はどこに行く?」


 気を取り直した二人は、お出かけを再開する。

 せっかくのお出かけだというのに、その日の満の心にはさっきの女性のことが残り続けたのだった。

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